「DAZN for docomo」をセットで提供するNTTドコモの「ドコモ MAX」に続いて、楽天モバイルが映像配信の「U-NEXT」をセットにした新料金プラン「Rakuten最強U-NEXT」を発表している。なぜ携帯各社は映像配信などのサービスをセットにしたプランに、再び力を入れるようになったのだろうか。
楽天モバイルはU-NEXTのセットプランを提供
菅義偉氏の政権下で料金引き下げが進められて以降、値下がりが続いていた携帯電話料金。だが昨今急速に進む物価高の影響を強く受け、2025年にはさすがに携帯各社が実質的な料金値上げを図るべく、新料金プランを相次いで投入している。
中でも特徴的な傾向にあるのが、携帯電話の料金と特定のサービスをセットにして提供する料金プランが増えていることだ。実際、NTTドコモが2025年6月5日より提供している「ドコモ MAX」は、スポーツ映像配信の「DAZN for docomo」(月額4200円)が無料で利用できることが最大の特徴となっており、月額料金は5698円から8448円と、各種割引を適用しなければ前プランの「eximo」と比べ実質的に上がっているものの、DAZNの料金が含まれているだけに、DAZN利用者であればお得になることは間違いない。
そしてもう1つ、新たにセットプランを提供したのが楽天モバイルであり、同社は2025年6月23日に新料金プラン「Rakuten最強U-NEXT」を発表している。これはその名前の通り、映像配信サービスの「U-NEXT」と楽天モバイルの料金プランをセットにしたプランで、楽天モバイルの「Rakuten最強プラン」(月額1078円~3278円)とU-NEXTの「月額プラン」(月額2189円)がベースになっている。
ただRakuten最強プランが、データ通信上限がなく使い放題ではあるもものの、毎月のデータ通信量に応じて料金が変化する段階制を採用している。それに対し、Rakuten最強U-NEXTは月額4378円でデータ通信が使い放題の定額制を採用しているのが大きな違いとなり、Rakuten最強プランのように通信量を抑えても月額料金は節約できない。
またU-NEXT側も、月額プランでは毎月付与される1200ポイントが付与されないという違いがあり、こちらも完全に同じという訳ではない。だがそれでも、双方を同時に契約してデータ通信を上限まで使用した場合と比べれば、月額1089円安く利用できるのでお得であることは間違いない。
特定のサービスをセットにしたプランは、長らくKDDIが力を入れており、2018年に映像配信サービス大手の「Netflix」と提携してセットプランを提供したのを皮切りとして、その後さまざまなサービスをセットにしたプランを提供。現在に至るまで提供を続けているのだが、これまで他社が積極的に追随しようという動きは見られなかった。
それが最近になって、KDDIより一層踏み込んで特定のサービス事業者と強固にタッグを組んだセットプランを提供するに至ったのはなぜかといえば、携帯電話会社とサービス提供事業者の双方が抱える課題をクリアでき、Win-Winの関係を構築しやすいからだろう。
セットプランに活路を見出す各社の事情
携帯電話会社がセットプランを提供する大きな理由の1つは、やはり物価高騰で値上げが求められていることだろう。昨今の物価上昇によって、携帯電話会社も基地局を運用するのに必要な電気代が高騰しているのに加え、基地局の工事をする事業者や、携帯電話ショップを運営する販売代理店に支払うコストも大きく上昇している。
それゆえ値上げしなければ、従来の品質でネットワークやサービスを提供するのが難しくなってきていることは間違いないが、物価高は消費者にも大きな影響を与えているため単純な値上げに理解を求めるのはなかなか難しい。そこで料金を上げながらも消費者に一定のメリットを提供する上で、セットプランが効果的と判断しているのだろう。
そしてもう1つ大きな理由となるのが、携帯電話事業だけではもう成長が見込めなくなっていることだ。国内の携帯電話市場は少子高齢化によって既に飽和しており新たな需要開拓が見込めない一方、インフラの技術は年々進化しているため、携帯各社には継続的なインフラ投資が求められる。
しかし、例えばインフラの進化で通信速度が倍になったからといって、月額料金を倍にしても消費者には受け入れてもらえないだろう。通信を価値とした値上げはなかなか難しいだけに、携帯電話会社は通信以外の付加価値で売り上げを高めることが求められており、それが付加価値サービスをセットにしたプランの強化につながっている部分も大きいのだ。
一方、サービス提供事業者側がセットプランに力を入れる理由は、安定した契約数を確保できることだ。とりわけ映像配信系のサービスは、ユーザーが見たい作品を見たら解約してしまう傾向が強いので、契約者を安定して確保し続けるには課題もある。
だが携帯料金とセットになったプランであれば、料金プランを変えない限りサービスの契約継続につながることから、解約率が低くなり安定した契約の継続が見込める。月額制のサブスクリプションサービスは多くの人が契約を継続してこそ安定した売上が得られるだけに、携帯電話会社とのセットプランはメリットが非常に大きいのだ。
そしてもう1つ、とりわけ今回携帯2社とのセットプラン提供に踏み切ったサービスの場合、値下げをせずに契約獲得につなげたい狙いも大きいだろう。
DAZNの場合、市場寡占とコンテンツの増強によって値上げを繰り返し、現在の月額料金は4200円と、サービス開始当初の倍以上となってしまっている。それがユーザーの反発を買っていることも確かで、ユーザー離れの声も少なからず聞こえてくる。
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「DAZN for docomo」は2017年のサービス開始当初、NTTドコモの料金プラン契約者であれば消費税抜きで月額980円、消費税込みで月額1078円での利用が可能だったが、その後の相次ぐ大幅値上げにより、現在は月額4200円となっている
またU-NEXTの場合、同業の「Paravi」との統合によって有料会員数が466万人と、間もなく500万に達する規模に成長しているものの、広告付きプランの提供で低価格化を推し進めるNetflixや、複数の価値をセットにして安価な料金を実現する「Amazonプライム」などと比べ、月額2189円からという料金の高さが、今後契約を拡大する上で課題となってくる。
それだけに2社にとって、携帯電話料金とセットでお得に利用できるセットプランは、値下げをする必要なくお得感を打ち出し、契約を伸ばせる強力な武器にもなり得る。映像配信サービスは人気のコンテンツを確保するのにコストがかかるだけに、単純な値下げは難しいことから、2社は料金と価値を両立しながら契約を増やすことができる、セットプランに活路を見出したと考えられる。
ただセットプランは、そのサービスに興味がない人にとってはデメリットでしかなく、実際ドコモ MAXの発表に際しては、スポーツに興味のない人達から大きな反発の声が挙がっていた。そうしたことを意識してか、楽天モバイルはRakuten最強U-NEXTの提供後も、既存の「Rakuten最強プラン」を継続提供する姿勢を示し、既存ユーザーからの反発を避けようとしている様子がうかがえる。
またKDDIも、新料金プランの「auバリューリンクプラン」ではセットプランを前面に打ち出さず、「Pontaパス」と通信による付加価値に重きを置く姿勢を強めている。セットプランが消費者に評価されて契約を増やす上でも、ユーザーニーズとのバランスをいかに取るかが求められることになりそうだ。