NTTドコモに続いてKDDIも2025年5月7日に新料金プランを発表。「auバリューリンクプラン」など新プランの投入だけでなく、既存プランの値上げも打ち出した点からは、値上げに関してNTTドコモとの大きな戦略の違いを見て取ることができる。
auは既存プラン継続も料金は値上げに
物価高の中にあって、ようやく進んできた携帯電話料金の値上げ。NTTドコモが既に「ドコモ MAX」など新料金プランで実質的な値上げを打ち出しているが、2025年5月7日にはKDDIも新料金プランを発表している。
KDDIは今回、メインブランドの「au」とサブブランドの「UQ mobile」の2つに向け新料金プラン投入を打ち出しており、いずれも従来プランと比べ料金は上がっている。実際、auブランドで2025年6月3日より提供開始予定の「auバリューリンクプラン」は月額8008円と、既存の同種プラン「使い放題MAX+ 5G/4G」(月額7458円)と比べ550円値上げがなされている。
その分付加価値もいくつか付与されており、衛星・スマートフォンの直接通信サービス「au Starlink Direct」や、ポイント還元率が最大20%に増加した「サブスクぷらすポイント」など従来提供されているものに加え、国際ローミングの「au海外放題」を15日分が追加料金なしで利用できるようになった。また5G接続時により多くの無線リソースが割り当てられ混雑時も快適に通信ができる「au 5G Fast Lane」、そして「Pontaパス」も新たに追加されている。
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KDDIが2025年5月7日に発表した新料金プラン「auバリューリンクプラン」。「au Starlink Direct」や「Pontaパス」など複数の付加価値を付けながらも、既存プランと比べれば550円の値上げとなる
ただ新料金プランが提供される2025年6月3日以降も使い放題MAX+ 5G/4Gは継続されるが、2025年8月1日より既存プランの多くが値上げされるとのこと。大容量プランは月額330円の値上げとなる一方で、Pontaパスを除いたauバリューリンクプランの付加価値が全て追加されることから、実はauバリューリンクプランと使い放題MAX+ 5G/4Gとの違いは、月額220円の料金差とPontaパスだけとなる。
一方、サブブランドのUQ mobileは2025年6月3日に「コミコミプランバリュー」「トクトクプラン2」と2つの新料金プランを提供する一方、既存プランは新規受付を終了し完全な入れ替えを図る方針とのこと。ただし既存プランは今後料金改定を予定しているそうで、今後auブランドのプランと同様に値上げとなる公算が高い。
NTTドコモはドコモ MAXに「DAZN for docomo」が無料で利用できるなど、大きな付加価値を追加して既存の同種プランの「eximo」から1000円以上の値上げを図ったが、eximoなど既存プランの料金は維持する方針を打ち出している。それゆえ新しいプランに魅力を感じなければ既存プランを維持すれば値上げの影響を受けないのだが、KDDIの場合値上げ幅はNTTドコモほど大きくない一方で、既存プランを維持していても値上げの影響受けてしまう。
批判は少ないが影響する顧客は多いKDDIの値上げ
そうした料金施策の違いからは、両社の戦略の違いも見て取ることができる。NTTドコモの狙いは、料金プランの上で提供する付加価値に重点を置き、多くのサービスを利用する優良顧客から値上げ分の売り上げを得ることだろう。
実際、NTTドコモの代表取締役社長である前田義晃氏は、2025年5月16日の日本電信電話(NTT)の決算説明会に登壇した際、「事業環境でいうとまさに経済状況含め我々あらゆるコスト増えているのは事実であり、できるだけ、ある種の対価を払ってもらえるサービスを提供する方向に何とか持っていきたい」と話していた。通信そのものでの競争から通信をベースとした付加価値による競争へと、競争そのものの軸を変えていきたい考えであることが分かる。
その背景にあるのは、前回にも触れた通りNTTドコモの顧客の忠誠心が非常に高いことだろう。そのことは前回示したクレジットカードの「dカード」会員の傾向からも見えるのだが、もう1つ、忠誠心の高さを表す指標として前田氏が先の会見で示したのが、eximoの割引適用率の高さだ。
eximoは家族割引や固定ブロードバンド、クレジットカードなどに係る割引を適用することで料金が安くなる仕組みだが、前田氏によると、eximoの契約者のうち割引がフルに適用されているユーザーが全体の半数に上るとのこと。何かしらの割引が適用されているユーザーを加えるとその比率は90%にまで上がるそうで、そうしたユーザーベースがあるからこそ、割引が多くて複雑と批判の声があってもなお、実際のユーザーニーズには応えられると判断したのではないだろうか。
一方で、前田氏は新プランへの意向を促進して古いプランを整理することでコスト削減する方針は示していたが、旧プランの値上げに関しては「全体の状況を見て判断しないといけない」と答えるに留まっている。少なくとも現時点では、既存顧客に無理な値上げは求めず、“狭く深く”の戦略で値上げ分をカバーしていようとしていることが分かる。
一方、KDDIは既存プランも値上げしていることから、NTTドコモとは逆に幅広いユーザーからまんべんなく値上げ分のコストを徴収する、スタンダードな戦略を取っている。
KDDIの代表取締役社長である松田浩路氏は、料金発表に当たってあらゆる価格の見直しが進んでいることを挙げ、顧客に価値のあるサービスを継続的に提供し続けるには、それに見合った対価を得る必要があると説明していた。トップ自らが訴えることで値上げしやすいよう機運を醸成しながら、顧客に理解を求め料金プラン全体の値上げを図る策に打って出たことが分かるだろう。
それゆえ料金プラン毎の値上げ額は1000円未満と、ドコモMAXと比べれば少額なことから、NTTドコモと比べると新プランに対する批判の声は少ない。ただ今後既存プランの料金改定がなされる予定のUQ mobileを含め、既存プランに値上げの影響が生じてしまう“広く浅く”の戦略となるため、実は影響を受けるユーザーの裾野が広いという問題も抱えており、その分顧客の直接的な不満が生じやすいともいえる。
そうしたことから“狭く深く”の道を選んだNTTドコモと、“広く浅く”の道を選んだKDDIとでは、今後の評価とユーザーの動向に大きな違いが出てくる可能性が高い。携帯大手の一角を占めるソフトバンクが今後、どのような戦略を取るかによっても変わってくる部分はあるだろうが、各社の手の内が明らかになってきただけに、新料金プラン提供後に消費者からどのような評価を下すのか、大いに関心を呼ぶところではないだろうか。