総務省の議論において、ユニバーサルサービス制度のあり方や、NTTグループが保有・管理している“特別な資産”に関連した公正競争や安全保障のあり方について、一定の方向性が示されたことでNTT法を巡る議論が大きな山場を迎えつつあるようだ。2025年の廃止も視野に進められていたNTT法の議論は、どのような方向に向かいつつあるのだろうか。
ユニバーサルサービス見直しはNTTに優位な内容に
2023年に突然浮上し、通信業界を二分する大きな議論を巻き起こした、いわゆる「NTT法」を巡る議論。2024年にも大きな動きがいくつか起きており、1つは4月にNTT法の一部を改正する法案が可決されたこと。これによって従来日本電信電話(NTT)に課せられていたいくつかの制約が取り払われることとなった。
大きな制約の1つは、NTTが研究開発した成果を、他社の要求があれば開示しなければならない義務の撤廃。そしてもう1つは、外国人がNTTの取締役になることができないという規制の緩和だ。これらはグローバル化が進んだ昨今、NTTが海外人材の確保や海外企業との共同研究などをする上で大きな障壁となっていたものであり、競合からも大きな反対意見はなかったことから先んじて改正がなされている。
しかしながら、東日本電信電話・西日本電信電話(NTT東西)が多額の赤字を抱えている古いメタルの固定電話回線廃止に向けたユニバーサルサービス制度のあり方の見直しや、NTT東西が保有している局者や電柱、とう道などの“特別な資産”とされる設備を運用するアクセス部門の扱いに関しては、競合の反発もあり議論が必要とされていた。そこで先の改正NTT法では、2025年の通常国会を目途に新たな改正案を提出し、NTT法の廃止を含めた検討をするとされていたのである。
その議論は総務省の報通信審議会 電気通信事業政策部会 通信政策特別委員会で、ユニバーサルサービス、公正競争、経済安全保障の3つの観点から専門のワーキンググループを設けて進められてきた。そして2024年10月に入り、3つのワーキンググループで相次いで報告書がまとめられ、NTT法の見直しに一定の方向性が打ち出されているのだが、その内容をかなりざっくりした形で表現すると、NTTの1勝2敗ということになるだろう。
NTTが有利な形で結論を得たのはユニバーサルサービス制度に関するワーキンググループである。NTTはその見直しに当たって、固定よりモバイルの利用が多いことからユニバーサルサービス制度のあり方はモバイルを軸とすべきと主張していたが、これ自体は認められずユニバーサルサービス制度の保障対象は引き続き固定電話とすべきとされている。
しかしながらメタル回線を縮退した後の不採算地域におけるエリア整備に関しては、光回線に加えモバイル回線を活用した固定電話サービスを活用しての整備も認める形となった。これはNTTが最も維持コスト負担が少ないと試算していた案でもある。
それゆえNTTの代表取締役社長である島田明氏は、2024年11月7日の決算説明会でこの点に言及。現在のメタル回線ではユニバーサルサービス基金からの補填があってもNTT東西で560億円もの赤字が生じているというが、今回の案が採用されれば、基金からの補填があれば収支が均衡し、大幅に改善するとの認識を示している。
またモバイル網による固定電話をユニバーサルサービスに追加したことで、NTT以外の事業者も連携してエリアをカバーできるようになった。そこで従来NTT東西に対して「あまねく提供」を求めてきたユニバーサルサービスの責務も、他にサービスを提供できる事業者がいない地域に限って最終的な責務を負う「最終保障」責務へと緩和。一連の内容が反映されればメタル回線縮退後のNTT東西にかかる負担はかなり軽くなると考えられ、NTTに有利な内容で議論が帰結したといえよう。
廃止が目されていたNTT法はむしろ強化の方向へ
一方で、NTTに不利な内容となったのが、残りの公正競争、そして経済安全保障に関するワーキンググループである。これら2つの議論をしていたワーキンググループの報告書を見ると、現状維持、あるいはむしろ規制を強化すべきという結論が出されているようだ。
実際公正競争ワーキンググループの報告書によると、NTTが電信電話公社(電電公社)から継承した設備を持ち、固定回線で独占的なシェアを持つことから、電気通信事業法による「行為規制」とNTT法による「構造規制」で必要な措置を講じることが適当とされている。これは従来通りNTT法を維持して規制を続けることを意味しており、NTT法廃止に強く反対してきた競合側の主張がくみ取られたことが分かる。
加えて“特別な資産”とされるNTT東西が持つ線路敷設基盤などは、国の通信インフラを支える重要な存在と評価。その譲渡や処分などには認可が必要とするなど、むしろ規制を強化すべきとの見解が述べられている部分もいくつか見られる。こうした点も、やはりNTT側ではなく競合側の主張が受け入れられたと見るべきだろう。
また経済安全保障ワーキンググループの報告書を見ると、外国人の議決権保有割合が3分の1以上になることを禁止するとNTT法で定められている外資総量規制に関して、国のインフラを支える公共性の役割が高いことなどから「維持することが適当」とされている。一方でNTT側が主張していた外為法での代替については「国籍要件を採用するNTT法の外資総量規制の代替は困難」とされ、受け入れられなかったようだ。
無論、これら報告書はあくまでワーキンググループ内での議論の結果打ち出されたものであり、これでNTT法に関する議論が終結した訳ではない。NTT法に関する議論は現在も続いており、2024年10月29日に実施された通信政策特別委員会では一連の報告書を受け、NTTとその競合となるKDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの3社によるヒアリングが実施されている。
とはいえ総務省での議論の末に打ち出された報告書が、今後の議論に非常に大きな影響を与えることは確かだ。加えていうならば、今回のNTT法見直しを打ち出した自由民主党が先の衆議院選挙で大幅に議席を減らしており、見直しを主導してきた議員が落選したり、いわゆる“裏金問題”で存在感を失ったりしている。そうしたことを考えると、これまでNTT優位で進んできたNTT法の議論が大きな曲がり角を迎えていることは間違いない。