複数の携帯電話会社が基地局や鉄塔などのインフラを共有してエリアを構築する「インフラシェアリング」が、日本でも広まりつつあるようだ。4G時代まで利用が進まなかったインフラシェアリングが急拡大している背景とその現状について、国内でインフラシェアリングを手掛けるJTOWERの動向から確認してみよう。

屋内から屋外へと事業を広げるJTOWER

携帯電話のインフラ整備に欠かせないアンテナや鉄塔などを複数の事業者で共用し、コストを抑えながらネットワークを拡大するインフラシェアリング。海外では多くの国で利用されている一方、これまで日本ではあまり活用されてこなかったのだが、最近になって国内の携帯電話会社が活用に前向きな姿勢を示すようになってきた。

そのインフラシェアリングに古くから取り組んでいるのがJTOWERである。同社は主として、基地局設備を置くスペースが限られる屋内の建物向けインフラシェアリングを展開してきた企業であり、既に国内で374の物件に同社のインフラシェアリング施設を導入しているほか、ベトナムでも同様の事業を展開している。

  • JTOWERの動向に見る、5G時代にインフラシェアリングが注目される理由

    JTOWERは現在、主として屋内向けのインフラシェアリングを手掛けており、携帯各社の周波数に対応した無線機などを、300を超える物件に設置している

そのJTOWERが注目されたのは、屋外向けのインフラシェアリングに本格的に乗り出したためだろう。実際同社は2021年に西日本電信電話(NTT西日本)、2022年3月に東日本電信電話(NTT東日本)から鉄塔の譲渡を受ける契約を締結したのに加え、2022年3月にはさらにNTTドコモから6002本の鉄塔の譲渡を受ける契約を締結。NTTドコモとの契約に関しては、既に546本の鉄塔がJTOWERに移管されているという。

2023年3月23日訂正:記事掲載当初、「2021年、東日本電信電話(NTT東日本)と西日本電信電話(NTT西日本)から鉄塔の譲渡を受ける契約を締結」と記載しておりましたが、契約時期が誤っておりました。正しくは、NTT西日本が2021年、NTT東日本は2022年でしたので、該当箇所を修正いたしました。ご迷惑をおかけしました読者ならびに関係者の皆様にお詫び申し上げます。
  • JTOWERは屋外のインフラシェアリング事業の本格化に向け、NTT東西やNTTドコモから鉄塔をカーブアウト(譲渡)する契約を結び、既に6000本超の鉄塔を確保している

またJTOWER自身も150本の鉄塔を建設することを打ち出しており、2022年度には約100本の建設が完了しているとのこと。2023年2月には沖縄県国頭郡の鉄塔を携帯各社に提供しているそうで、屋外向けのインフラシェアリング事業を急速に拡大しようとしている様子がうかがえる。

先にも触れた通りインフラシェアリング、とりわけ屋外でのインフラシェアリングはこれまで日本ではあまり利用されてこなかったのだが、その理由は4G時代まで、携帯各社がエリアカバーの広さを競い合っていたことが大きく影響している。とりわけソフトバンクが携帯電話事業に参入して以降は、同社が弱みでもあったエリアカバーの改善を急ぎ、その成果を積極的にアピールしたことで携帯各社のエリア整備競争が激化。他社とインフラを共用するという考えには到底至らなかったのである。

実際、JTOWERの代表取締役社長である田中敦史氏も、2012年に同社を設立した当初は屋外のインフラシェアリングの事業化を目指して社名に「TOWER」を付けたとのこと。だが当時はそのような状況にあるため屋外のインフラシェアリングの事業化が難しく、屋内向けに事業をシフトするに至ったと話している。

  • JTOWERの田中社長。設立当初は屋外向けのインフラシェアリングを事業化しようとしたが、当時は需要がなく屋内向けに転向した経緯があるという

エリア競争からコスト削減へ、課題となった地方の5G

それがなぜ、現在になって屋外のインフラシェアリングが注目されるようになったのかといえば、5G時代に入って携帯各社の競争環境が大きく変化しているためだろう。4G時代は各社がエリアカバーの広さを争ったことで、携帯大手3社の4Gエリアは既に人口カバー率が99.9%を超えているなど、世界的に見ても非常に充実した環境にある。

一方で2019年の電気通信事業法改正、そして菅義偉前首相の政権下による携帯料金引き下げなど、行政側から携帯各社にビジネス転換を求める動きが相次いだ。その結果携帯各社の収益は大幅に低下、潤沢な資金を基に全国津々浦々をカバーするという4Gまでの手法を取ることができなくなり、インフラ投資を抑制する動きが相次いでいる。

その結果国内の5Gのネットワークは、高い周波数帯を主体として世界的に整備の遅れが目立っているのだが、とりわけ影響を大きく受けているのが、人口が少なく利用者が少ないことから投資効率が悪い地方の5Gネットワーク整備である。携帯各社は4Gで既に広範囲をカバーしていることもあって地方のインフラ投資削減を望んでいるが、現在の首相である岸田文雄氏は「デジタル田園都市国家構想」を掲げ、地方にこそ5Gのインフラを積極的に整備することを求めている。

実際5G向けとして新たに割り当てられた3.7GHz帯や4.5GHz帯などの周波数帯は、全国を10km四方のメッシュに区切り、都市部・地方を問わず事業可能性のあるエリアを広範にカバーすることが割り当て条件とされている。そこでコストを抑え地方で基地局を整備するべく、携帯各社がインフラシェアリングの活用を積極化するようになった訳だ。

それがJTOWERにとって大きなビジネスチャンスとなっていることは間違いないだろう。実際田中氏も、地方で各社がバラバラに鉄塔を立てるのは非効率なことから、携帯各社に確認して2社以上がエリア対策をしたいというというメッシュに対し、インフラシェアリング用の設備を設置していると説明。その結果として150本の鉄塔設置を進めるに至ったようだ。

  • JTOWER自身も、携帯各社からの要望を基に地方でインフラシェアリング用の鉄塔建設を進めており、既に150本の建設が決定。うち100本は建設が完了しており、2023年2月からは既に携帯各社への提供が進められているとのこと

田中氏はさらに、将来的には「少なくとも1万本以上」の鉄塔を設置したいとしている。NTTドコモ以外からも鉄塔の譲渡を受けるなどして鉄塔の拡大を図り、インフラシェアリングのビジネスをより広げていきたい考えのようだ。

同社は日本の携帯電話が求める厳しい品質に応え、なおかつ全ての事業者の周波数帯に対応するため、インフラシェアリングの装置を自社開発するなど世界的に見ても珍しい取り組みを進め、多くの技術や知見を蓄積している。実際同社は、5Gのミリ波に対応したオープンRAN仕様の共用無線機を開発しており、アンテナや中継機だけでなく無線機のシェアリングにも対応することで携帯各社がより設備を導入しやすい仕組みを整えようとしている。

  • JTOWERは日本の携帯各社のニーズに応えるため設備を独自に開発しており、5Gのミリ波に対応した共用の無線機も開発。オープンRAN規格「O-RAN」の仕様に準拠し、携帯各社の異なるベンダーの基地局設備を接続できるなど高い柔軟性を備えている

そうした技術と経験が屋外のインフラシェアリングでも優位に働くと考えられるが、一方でこの事業はJTOWERの独壇場という訳ではなく、市場拡大を見込んでここ最近、不動産開発関連の事業者が新規参入する動きが目立っており競争激化の兆しが出てきている。モバイル通信インフラの今後を見据える上でも、JTOWERをはじめとしたインフラシェアリング事業者の動向には今後注目が集まることになりそうだ。