なかなかシニアへの普及が進まないとされてきたスマートフォンだが、ここ数年でその流れは大きく変わってきている。一方でスマートフォンが広く浸透したことにより、スマートフォンの利用を前提としたサービスも増えており、その分覚えなければいけないことも増えている。「LINEができればいい」時代が過ぎた今、シニアとスマートフォンのあり方は社会にとっても大きな課題となってくるだろう。
シニア層でも主流を占めるようになったスマートフォン
2008年に日本で「iPhone 3G」が販売され、スマートフォンがブームを巻き起こしてからはや14年。スマートフォンがフィーチャーフォン(従来型の携帯電話)を置き換え多くの人がスマートフォンを日常的に利用するようになって久しいが、シニア層はこれまでそうした動きから取り残されていると言われてきた。
だが実はここ数年のうちに、シニア層に対するスマートフォンの普及率が急上昇しているのだ。その一例として、NTTドコモのモバイル社会研究所が2022年4月に公開したシニアのスマートフォン所有率に関する調査を見ると、2015年時点では60代が33%、70代が13%にとどまっていたスマートフォンの所有率が、2018~2019年を境として急上昇。2022年時点では60代が91%、70代が70%と、既に主流の座を占めるに至っている。
なぜこの数年で、シニアにスマートフォンの普及が急速に進んだのかと言えば、理由の1つは携帯電話各社の乗り換えキャンペーン施策にある。携帯各社はスマートフォンへの乗り換えを推進するべく、フィーチャーフォンからスマートフォンに乗り換えると毎月の通信料金がお得になるプランを提供し、なおかつスマートフォンもお得に購入できるキャンペーンを実施したりしてきたのだ。
とりわけ大きな動きとなったのは、3Gのサービス終了時期が近づくに伴い、4Gや5Gのサービスに移行してもらう“巻き取り”施策の強化だ。3Gサービス利用者の多くは年配層で、なおかつフィーチャーフォンの利用率が非常に高いことから、4Gなどへの移行を促進する上でスマートフォンに買い替えるとお得になるキャンペーンを積極展開。それがスマートフォンに乗り換える契機の1つとなっていることは確かだろう。
そしてもう1つの理由は、そもそもフィーチャーフォンの新機種があまり投入されておらず、選択肢そのものが少なくなっていることだ。フィーチャーフォン向けサービスの多くも相次いで終了していることもあり、電話とメール以上のサービスを利用するにはスマートフォンに買い替えなければならなくなったという事情も、スマートフォンの普及拡大に影響しているのではないかと考えられる。
社会のデジタル化で必要なサービスが増加、誰がサポートするのか
日本でスマートフォンの利用者が急増していたのは2011年頃だっただけに、ある意味シニア層に10年遅れでのスマートフォンのブームが到来したともいえる。ただそれだけに、大きな課題になっていると感じているのが、この10年のうちにスマートフォンを取り巻く環境が大きく変わっていることだ。
10年前のスマートフォンで多くの人が利用していたのは電話やメール、そして当時普及が進みつつあった「LINE」などのメッセンジャーアプリやSNSなど、コミュニケーションに関連するものが主体であった。だがその後の10年でスマートフォンが多くの人に普及したことで社会全体のデジタル化が進み、スマートフォンを使うことを前提としたサービスが大幅に増えている。
その代表例が「PayPay」などに代表されるスマートフォン決済サービスであるし、フードデリバリーなど最近ではスマートフォンが必要不可欠となっているサービスも増えている。加えて今後は行政側も、スマートフォンとマイナンバーカードを活用して行政サービスのオンライン化を推し進めようとしており、スマートフォンを利用したサービスが生活に欠かせないものとなってきているのだ。
以前からスマートフォンを利用してきた人達がそうしたサービスに対応するのは比較的容易だが、最近スマートフォンを使い始めたシニア層には、スマートフォンを前提としたサービスの増加によって一度に覚えなければいけない要素が増え、それが負担になっている印象も受けている。
実際、筆者はシニアに向けたスマートフォン教室の取材を何度か実施しているのだが、最近のスマートフォン教室を見ると以前と比べすることが増え、覚える必要がある要素もその分増えている印象を受ける。もちろんスマートフォン初心者のシニア層が一度の受講で全ての使い方を覚えられる訳ではなく、何度か受講して徐々に覚えていくことを前提に講座は進められているのだが、その分以前と比べれば負担が増えているのも確かだろう。
一方でスマートフォンを前提とした社会のデジタル化の流れは加速が続いているだけに、デジタル化とスマートフォン初心者が多いシニアとのギャップをいかに埋めるかが、社会的にも重要になってきているのは確かだ。ただシニア向けのスマートフォン教室を無料で実施するコストが我々の毎月の携帯電話料金から賄われ、それがとりわけ携帯大手3社のメインブランドの高コスト化を招く要因の1つとなっているのも確かである。
「ahamo」などのオンライン専用プランが増えたというのも、そうしたユーザー間の不平等を解消して料金を引き下げる狙いがあったといえる。だが一方で、オンライン専用プランなどの利用が増えればショップが減り、シニアに向けたサポートの場が減ってしまうというジレンマもあり、民間企業だけの取り組みでは限界もあるだろう。
それだけに、シニア層がスマートフォンを使いこなせるよう、長期間継続してサポートしていく上では、やはり行政側の積極的な支援が求められる所だ。もちろん行政側も、総務省が「利用者向けデジタル活用支援推進事業」を公募しスマートフォン教室などの開催に補助をするなどの取り組みを進めてきてはいるが、少子高齢化とデジタル化が加速する今後はより一層、行政側の積極的な関与が必要になってくるのではないだろうか。