携帯電話業界の花形として注目を集め続けるスマートフォン。だが現在、アップルを除く大半のスマートフォンメーカーは、端末を開発しても儲からない、つまり"薄利"に苦しんでいる。なぜスマートフォン開発は利益率の低いビジネスとなってしまったのだろうか。

スマートフォンを作っても利益が出ない

今や日常生活に欠かせない存在となったスマートフォン。非常に多くの人が使っている生活必需品だけに、それを開発しているメーカーは非常に儲かっているのではないか? と思っている人は多いかもしれない。だが実際のところ、スマートフォン開発は今やあまり儲からないビジネスになっているというのは、ご存じだろうか。

その傾向は国内メーカーの業績からも見て取ることができる。例えば「Xperia」ブランドのスマートフォンを提供しているソニーモバイルコミュニケーションズを傘下に持つ、ソニーの2017年度第2四半期の業績を見てみると、スマートフォン事業を含む「モバイル・コミュニケーション」分野の売上高は1720億円であるのに対し、利益はマイナス25億円。年間の業績見通しは売上高7800億円に対し、利益は50億円となっている。

一方、同じソニーの事業の中で、年間の売上高見通しが6500億円と、モバイル・コミュニケーション分野より少ないイメージング・プロダクツ&ソリューション事業を見ると、営業利益の年間見通しは720億円と、10倍以上となっている。同様に売上高見通しが7300億円の音楽事業も、利益見通しは940億円だ。「その他」事業を除けば、ソニーグループの中でモバイル・コミュニケーション分野が、最も利益の出ない事業となっているのだ。

  • ソニーの2017年度第2四半期決算説明会より。スマートフォンを含むモバイル・コミュニケーション分野は利益が非常に低い状況だ

また、日本や米国でスマートフォンなどの開発を手掛ける京セラの2018年3月期第2四半期決算を見ると、スマートフォン事業などが含まれる「コミュニケーション」事業は売上高が約669億円に対し、利益は約11億円。コミュニケーション事業が京セラ全体の売上に占める比率は17%だが、利益の比率は1.6%に過ぎない。こちらもやはり、スマートフォンから利益が生み出せない状況を見て取ることができる。

売上を伸ばしても利益が出なければ、企業として事業を継続するのは難しくなる。ゆえにこうした数字を見れば、多くの日本メーカーがスマートフォン事業の撤退・縮小を余儀なくせざるを得なかったというのも、よく理解できるのではないだろうか。

市場変化で急速にうま味のないビジネスへ

実際のところ、スマートフォンの開発・販売で高い利益を上げている企業は非常に少ない。各種調査を見るに、スマートフォンの利益のうち8割近くはアップルが稼いでいると言われており、2、3割をサムスン電子が、そして残りをそれ以外のメーカーが上げている、という状況のようで、大半のスマートフォンメーカーが利益をほとんど出せていないのである。

しかしなぜ、スマートフォンはそんなに利益の出ない、うま味のないビジネスになってしまったのか。その理由の1つは市場の変化にある。

スマートフォンは当初、先進国や新興国の富裕層などから販売が拡大していったのに加え、端末の選択肢も現在ほど豊富ではなかった。つまりこの時はメーカー側からしてみると、単価が高いハイエンドモデルだけを作り、それがどんどん売れていくことで高い利益を出せる、うま味のあるビジネスだったわけだ。

  • スマートフォンの黎明期には少数のハイエンドモデルが多数売れていたため、キャリアやメーカーも大規模な販売イベントを実施するなど積極的な姿勢を見せていた

しかしながらスマートフォンの販売が広がるにつれ、市場のニーズが細分化してくる。そうすると端末も男性向けや女性向け、サイズの大きいものから小さいものまで、幅広いのバリエーションを用意しなければならなくなってくる。モデル数の増加は製造単価が上がる一方、ハイエンドモデルだけ販売するわけにはいかなくなり単価は安くなるため、利益が減り事業としてのうま味を落とす要因となったのである。

さらに時間が進むと、先進国などではスマートフォンが多くの人に行きわたって飽和する一方、販売の中心は新興国、途上国へと移ることになる。そうなると今度は、現地の所得水準に合わせたより安価なスマートフォンが求められる。安いスマートフォンを開発するには利益を減らさざるを得ず、従来より一層多くの数を販売しなければ、利益を出すことさえ難しい状況となってしまった訳だ。

そこで求められるのは、スマートフォンを安く製造でき、なおかつ新興国での広い販路を開拓できる力である。近年中国のスマートフォンメーカーが急速に台頭してきた背景には、そうした新興国向けのビジネスに強みを持ち、利益率が低くても販売数を稼ぐことで業績を伸ばすことができたが故といえるだろう。

一方でアップルだけが高い利益を出せているのは、現在も少数の高額なハイエンドモデルだけを、世界各国で販売しているからである。だがそうしたビジネスを展開できるのは、自らハードだけでなくOSやサービスなど全てを一体的に提供できるアップルだからこそといえ、他のメーカーが真似をするのはなかなか難しいだろう。

  • アップルは10万円を超える「iPhone X」など、少数のハイエンドモデルを世界的に広く販売することで高い利益を確保している

またサムスン電子は、世界的に販売網を広げることでトップシェアを獲得し、なおかつハイエンドモデルにも強みを持つことで、アップル程ではないにせよ比較的高い利益を確保できている。それ以外のメーカーはことごとく利益率の低下に苦しんでいるというのが、スマートフォン市場の現在なのである。この傾向は今後一層進むと考えられ、スマートフォン市場から脱落する企業はこれからまだまだ出てくる可能性が高いといえそうだ。