前回、高感度撮影では画像が荒れるという話をしたが今回はこれを具体的にみていくことにしよう。感度と画質が感度を変化させることによってどう変わるのかを知っておこうというわけだ。

まずに覚えておくべきはカメラ任せのオートモードでは必ずしも最高感度にはならないということ。これはコンパクトデジカメでは特にそうだが、ISO感度設定を「オート」にした場合には、大抵はISO 400やISO 800あたりを上限としており、それ以上の感度は「ナイトモード」や「手ブレ補正モード」など、高感度を使う必要のあるモードでしか使われないことが多い。これは前回説明したように感度と画質はトレードオフの関係にあるためで、オートモードでの上限値が、そのカメラとして使用できる「画質の悪さ」部分の上限だと思えばよい。つまり、オートモードでの上限を超えて使うと画質は目だって悪くなるということだ。では、そんな画質の悪いモードを備えなくてもかまわないじゃないか?と思われるかもしれないが画質を犠牲にしてでも高感度で撮りたいというニーズがあるからなのである。言い方をかえれば画質が悪くてもブレていない写真が良いのか、画質が良くてもブレている写真が良いのかのどちらかを取ることだと思えば良い。

ではまず具体的に感度が異なる撮影を明示的に行った例を見ていただこう。写真(001)と写真(002)は、環境はほぼ同一条件で撮影したもの。デジカメの感度設定のみ変えてある。実はこの写真、2枚とも715x480ドットのサイズにリサイズしてある。このサイズで、どちらがどうかという判断を出来る方は、なかなかスルドイ。

写真001

写真002

いわゆるVGAサイズといおうかWeb用のサイズにリサイズした写真の場合では、高感度で撮影していてもそれほど画質の悪さは目立たない。このため目的がWebに載せるという程度であれば比較的、高感度で撮影しても粗さはあまり気にならないのである。

ではこの2枚、どう違うかを見るポイントを説明しておこう。(001)はよくよく見るとブレている。特に画面の右端のあたりに注目していただくとわかりやすい。これに対して002は、ほとんどブレておらず、このサイズで見る限りは良く撮れた写真と判断できるであろう。

この2枚の条件の違いは(001)はISO 100相当で撮影、(002)はISO 3200相当で撮影している点。露出は絞り優先のオートモードでいずれもF3.5だが、シャッター速度は前者が1秒、後者が1/40秒となっている。いずれもカメラはニコン D80で24-120mmのVRレンズを使用している。VRレンズを使用したためシャッター速度1秒でも極端に手ブレているわけではないが、やはり抑えきれていないというわけだ。

この状況は元画像を1:1に拡大してみるとよくわかる。それが写真(003)と(004)。両方の元画像からほぼ同じ場所を切り出してみた。念のため書いておくと(003)がISO 100相当、(004)がISO 3200相当での撮影だ。

写真003

写真004

(003)を見ると明らかにブレているのがわかる。しかしながら画質としてはそれほど不自然なところがなくノイズも少ない。(004)を見ると確かにブレはないのだが暗部やシャドウ部のノイズが大きく不自然な感じを受ける写真となっている。

ではそこで、中庸を取ってみようという写真が(005)。ISO 400相当で撮影したものでシャッター速度は1/5秒。何となくブレはある程度抑えられているし、ノイズなどの暗部の不自然さもない。一般的な用途ならば、この程度撮れれば十分というところである。

ところでこれらの写真、画面内に光源が入っている夜間の撮影で路面からの反射も大きいが、比較的正確な描写になっている。正確な描写というのは何をもって正確とするかによって論の分かれるところだが、ここで言う正確な描写というのは、その時に撮影者が見た風景という意味である。雨の暗い路上で寂しく街灯が光っている雰囲気が良くでていると言えよう。筆者はニコンユーザなので、あくまでもニコンを使っていての経験則ではあるが、ニコンのカメラはこういう場合の露出決定が「上手い」。変に明るく撮影しすぎたり、暗く撮影しすぎたりすることが少ないのである。比較的雰囲気をよく伝えてくれると思う。ただし、条件によっては綺麗に撮り過ぎるケースもあるので、これは本連載の中でいずれ、ご紹介することにしよう。

さて、ここまでの話はデジタル一眼+VR(手ブレ補正)レンズというかなり好条件下のもの。好条件というよりも機材に助けられているようなものだ。では、コンパクトデジカメではどうだろうか?

写真006

写真007

同じようにWebサイズにリサイズした2枚を見比べていただこう。写真(006)と(007)がそれだ。今度の場合は前のものよりも違いがはっきりわかると思う。(006)は若干アンダー気味になっており、(007)は明るく撮れてはいるものの粗さが目立つ。お察しの通り、(006)がISO 100相当、(007)がISO 1600相当での撮影である。露出条件が違うのでアラが目立たないだけでは?という疑問もあるだろうから、PhotoShopで(007)で明るさを補正したものが写真(008)。明るさ補正をかけているので階調のロスが出始めるため、若干粗さが出てくるがそれでも(007)と比較すればノイズは少なめである。

この撮影においてのポイントは例えWebサイズであっても違いがわかるという点。高感度で撮影したことによる荒れがWebサイズになっていても目だってしまうというところにある。

コンパクトデジカメ全般に言える傾向だが、高感度撮影時のノイズや粗さは比較的高めにでる。この理由は簡単で、そもそもCCDやC-MOSといった撮像素子のサイズが小さいことにある。撮像素子が小さいということにより、一度に受け取る光のエネルギー量が少ないためである。レンズのF値というのは焦点距離に対するレンズの開口径であって、レンズそのものが受け取るエネルギー量とは関係ない。見てわかる通り、コンパクトデジカメのレンズはデジタル一眼レフのレンズと比べると、同じF値であっても開口径が小さい。つまり、受け取れるエネルギー量が少ないためノイズの原因や粗さの原因となるのである。

また撮像素子そのものの集積度からくるノイズや、さらには低照度撮影時の画像処理エンジンの挙動によっても高感度撮影時の良し悪しが決まってくる。それほど高速・高機能な画像処理エンジンを搭載しない、コンパクトデジカメではこの点でも不利なのである。

では前例にならって、この場合も元画像を拡大して1:1で見てみることにしよう。写真(009)がISO 100相当時、写真(010)がISO 1600相当時の撮影である。前者のシャッター速度は1/4秒、後者は1/8秒になっている。いずれもカメラはオリンパスμ725SWである。この2枚を見比べるとわかるが、流石に1/4秒では手ブレが出ており、1/8秒ではそれほど目立たないのがわかる。ただし、ISO 1600では全体的にノイズっぽく写っているのが一目瞭然だろう。

写真009

写真010

今回、実例を挙げて示したように高感度撮影をうまく使いこなすにはまず、自分のカメラの特性を知ることから始めるとよい。今回はデジタル一眼とコンパクトという比較で、概してデジタル一眼の方が高画質という結果となっているわけだが、コンパクトデジカメの中でも高感度撮影を得意とする機種(単純に言えば撮像素子の大きいコンパクトデジカメがもっとも期待できる)もあるので、自分のカメラではどの感度設定までが実用に耐えるかというのを予めテストしておくのである。高感度での撮影画像が汚いからといって悲観することはない。それはそれで「上手に」利用する方法があるからだ。このことも本連載でいずれご紹介するので、ご期待いただきたい。