私も10年以上は会社員として働いてきたのだが、良く言えば常に組織のしんがりを守る存在、悪く言えば最下層であった。
後輩が出来ても、コミュ症には「幼稚園児にも敬語」という特徴があるため、パイセンにもなりきれず、気づいたらこちらの方が「年上の後輩」というもっとも扱いに困る存在のようになってしまっている。
よって、会社で部下に指示や注意、まして「叱る」などしたことがないのだが、多くの管理職にとって、この「部下を叱る」という行為は、悩みの種であろう。
叱られるのももちろん嫌だが、叱る方も「部下が噛んだ下唇がド性癖」と言う者は少数派であり、心労を感じる、という者の方が多いはずだ。
仮に部下を叱るのがたーのしー! と思っていても、今の世の中そういうサーバルちゃんはパワハラとして訴えられかねない。
部下を注意するのに興が乗って刺激的なことを言い過ぎると、それを録音されて出るところに出られてしまうこともあるし、「テープまわしてないやろな?」と脅してもそれを記者会見で暴露されて怒られ、さらにそれを大みそかにネタにして怒られる、と部下を叱るという行為にはこれだけのリスクが潜んでいる。
しかし、リスクを恐れて、ファミレスを走り回る4歳児のように放置していたら、当然それは無能上司ということになってしまう。
つまり「上手く部下を叱る」ことができるのが、一流の上司、経営者であるとも言える。
本当は信長よりもスマートに叱っていた模様
少し前だが、華々しい経歴を持つ経営のプロが「部下を叱るなら人前で」という趣旨の発言をしたことがネット民の間で話題になった。
普通、叱るならこっそり、と考えるが、そうすると別の人間が同じミスを繰り返し、そのたびに叱らなければならなくなる。それを人前で叱れば、同じミスを犯す人が出なくなるということだ。
逆に褒める時は、人前で褒めると妬む人間が出てくるので、こっそり褒めた方が良いということである。
つまり「こいつは今、こういうことをして公開処刑されているので、お前らは同じすることやるなよ」ということを示せということである。
これに対し「日本以外でやったら刺される」「そんなパワハラ上司についていきたくない」「明智光秀はそれで謀反した」と、記事に反してネットの反応は軒並み「古い」と酷評であった。
ちなみに「麒麟できた」のプリクラでお馴染みの明智光秀の謀反理由は諸説あるので、必ずしも人前で怒られたのが原因とは言えないが、人前で叱るというのは「光秀でさえ助走つけて謀反起こすレベル」なことなのである。現代人にそれをやって良いかは意見のわかれるところだ。
しかし「結局一流の経営者というのはパワハラ体質であり、成功企業はそういうサイコがパスなリーダーの下についたやつの屍の上に成り立っている」という意見も出ていた。
だが、この発言は若干切り取りであり、元になった記事の全文を読んでみると「人前で叱る前メチャクチャ褒めておく」など、前後のフォローについても触れており、基本人前では褒めないがここぞと言う時は褒めるなど、臨機応変な対応にもついても書かれている。
結局「人前で叱れ」と言っても、何の予告もフォローもなしに部下を公開処刑すれば、謀反やむなしということだ。つまりこの人前で叱る仕事術は、ハイリスクハイリターンの高等テクニックである、無難に行きたい場合は、こっそり体育館裏にでも呼び出して叱った方が良い。
昔気質に和をもって戦いたいなら、昔のやり方を変えないと?
確かに、誰かが人前でハチャメチャに怒られているのを見て「同じ轍は踏むまい」と周囲に思わせる効果はあるかもしれない。長子の失敗を見て育つ次子の方が要領がいいのと同じ原理である。
しかし一方で、この人前で叱る術に対し「客が見ている所で店員を叱る飲食店には二度と行かない」という意見がかなり見られた。
理由は「飯がまずくなるから」だそうだ。
飲食店と会社、社員と客の立場では全然違うと思うかもしれないが、世の中には「自分に全く関係がない人が関係ないことで怒られているのを見ただけでテンションが下がる人」というのが一定数いるということである。
赤の他人でさえそうなのだから、会社内で同僚が叱責されていたらもっと下がるに決まっている。
つまり人前で叱ることにより、人の振り見て我が振り直せと思う社員もいるかもしれないが、何かを学ぶとかいうレベルではなく、ひたすら「この会社、イヤやわ…」とテンションとモチベとSAN値が激落ちしてしまう社員もいるということだ。
現代人にこの激落ち勢の方が多いとしたら、やはり人前で叱るのは古いやり方と言えるかもしれない。
だが、個別でこっそり怒ると、言ってもないことでパワハラだと訴えられる恐れがあるので、証人を立てるという意味で、誰か同席させて怒った方が良いという意見もある。
怒るも地獄、怒らぬも地獄、今の管理職は大変だ。
永遠にしんがりの警備で良いから、誰にも責任を問われず定時で帰りたいと思う者も増えているのではないだろうか。