令和の話題が落ち着いたかと思いきや、今度は紙幣のデザインが刷新されることが発表された。

元号が変わるからついでに紙幣も変えよう、という謎のセット販売かと思いきや、紙幣は偽札防止のため20年ごとに刷新されるのが通例であり、それがたまたまかぶっただけだそうだ。実際、紙幣が変更されるのは2024年でまだ先の話である。ただ、前回の刷新時よりも3年ぐらい発表が早いようなので、そういう意味で改元に「合わせた」可能性はある。

では、さっそく新紙幣の「顔」になったイカれたメンバーを紹介しよう。

企業のことなら俺に任せろ、資本主義はワシが育てた、ろくろが唸る、新一万円札「渋沢栄一」。舐められたくなきゃアタイの車に乗ってきな、女子教育の始祖、津田塾大学初代ヘッド、新五千円札「津田梅子」。誰が稲造やねん!こちとらペスト発見しとるっちゅうねん! 日本細菌学の父、新千円札「北里柴三郎」。

以上だ。この三人が発表されるや否や、ツイッターでは「誰?」というつぶやきが相次いだ。

私のような第三次産業の末端にいる人間を殺したければ、「カレー沢? 知らね」と言ってやれば即死だが、日本の偉人を知らないと明言するのは、己の無知を露呈しているようなものである。

それなのに何故、私のようにググったのち「前から知ってた風」を装うこともせず、脊髄反射で「知らねえ~」と自信満々に言えるのか。日本は「自分に自信がない国」と長らく言われていたが、この新札における反応を見るに、日本人の己への自信、自尊心はすくすくと育っているようである。

これは過去の偉人を知らないことよりもずっと喜ばしいことである。これこそが、令和を生きる新しい日本人の反応と言えよう。ウィキペディアを見て覚えたての偉人豆知識を披露するのは平成の人間のやることであり、知らないより恥ずかしい。

ともかく新札に選ばれたのは、必ずしも「誰もが知っている」という人物ではなかった。だがそれ以上に話題なのが、新札のデザインだ。これが軒並み「ダセえ」と絶不評なのだ。

我々が新札をダサいと感じる理由は主に数字の位置とフォントだ。今までの札は、左中央に「壱万円」大きく漢数字が書かれ、上部の両端に小さく「10000」という英数字が書かれていた。今回、そのポジションが逆になったのだ。

見慣れぬ英数字が大きくなった上、そのフォントがお世辞にも「クール」とは言えないため、多くの人間が、違和感という名のダサさを感じることとなってしまった。

しかし、今や日本には多くの外国人がいるし、観光で訪れてもいる。日本でしか通じぬ漢数字より、外国でも通じる英数字を大きく書くのは、もはや自然の摂理と言えるだろう。デザインとしてはダサくなったかもしれないが、紙幣として「明快になった」のは確かである。

それに何せ金である。どんなにダサい札でも、それに書いてある額の買い物ができちゃうとわかれば、愛着がわくに決まっている。

福沢諭吉が「諭吉」と呼ばれ、女にモテて男に好かれるという「憎いね旦那」としか言いようがない地位を長らく保持していたのも、彼がイケメンだからではない。文字通り彼に「価値」があったからであり、これからは「栄一」が日本国民の彼ピッピになるのだ。

日本のキャッシュレス化を妨げる「フェチ」

だが、紙幣のデザインがダサい以前に、紙幣を持つこと自体ダセえよ、と諸外国に思われている可能性がある。

実際、日本は先進国の中でも、キャッシュレス化の遅れが異常だそうだ。

原因は、日本は治安がよく偽札や盗難の恐れが少ないため、現金を持つことに抵抗がないからと言われている。また、クレジットカードや電子マネーを使えるようにするには専用端末をつける必要がある。そのコストと、店負担のカード決済時手数料を嫌がり、導入しない店舗が多いのもキャッシュレス化遅れの原因だそうだ。

それもあるだろうが、単純に日本人が「紙好き」なのも原因の一つな気がする。外国人からは「何で日本人はあんなに紙フェチなんだ、さすがHENTAIという言葉を生み出した国だけあるぜ」と別の意味で一目置かれている可能性さえある。

前回取り上げた転売ヤー問題も、チケットを電子化すれば、スマホを端末ごと転売する必要が出てくるので、かなり防げるはずなのである。それにも関わらず「紙」という、転売しやす過ぎなツールを使い続けるのは、もはや「紙が好きだから」以外、理由が思い浮かばない。どうせ物理チケットにするなら、100キロの銅板とかにした方が転売対策にはなるだろう。

とはいえ、我々作家も「電子書籍より紙の本が出せることに価値がある」と考えがちだし、読者も「紙で欲しい」と言う人が多い。もしかしたら、これも日本特有の考えかもしれない。

もちろん紙には紙の良さがあり、紙にしかできないこともある。トイレットペーパーを電子化すると言われたら困るだろう。しかし「紙を使うことにデメリットがある」場合は、こだわりを捨ててペーパーレス化する必要がある。

ちなみに、マイナビに提出する請求書も紙である。この様式が面倒くさいと同業者間でも絶不評なので、早く電子化してくれないだろうか。