「転売ヤー死すべし」

何らかのファン活動をする者なら、一度は思ったことがあるだろう。

私も、同人誌即売会で手に入れられなかったDB(ドスケベブック)がその日の内にヤフオクに出品されているのを見た時は、「今、私は冷静さを欠こうとしています」と逆に冷静に言ってしまったほどだ。

私のグッズやサインなども、オークションやフリマアプリで見かけたことがある。ただ単にいらなくなっただけかもしれないが、もしそれで儲けられると思ったとしたら才がない。田舎に帰ることをお勧めする。

しかし、残念なことに転売というのは儲かるらしく、もはや業者化している。遠路はるばる限定の品を求めてやって来たのに、開始5分で列の先頭を陣取っていた転売業者に商品が買い占められてしまった、という話も珍しくない。組織だってやられたら個人はなかなか太刀打ちできないのである。

さらに残念なことに、転売業者が儲かるのは、どれだけ高値でも買う人間がいるからだし、いくら出してでも欲しいというファン心理はわかる。だが、私がソシャゲのガチャに対し「推しが出れば実質無料、むしろ黒字」と言うのは、適正価格かどうかは置いておいて、欲しいキャラが正規ルートで私の元に来て、さらに払った金が公式の元へ行くからである。

私は欲しいものを手に入れ、私の出した金で公式が潤い、コンテンツが繁栄するというなら、黒字以外の何物でもない。しかし転売で物を買うというのは、正規料金以上に払った金は、全部社長の愛人の豊胸手術代に使われると思った方が良い。

どれだけ金を払っても、自分の推しコンテンツに還元されることはなく、社長の愛人がどんどんサイボーグ化していくだけで、推しキャラには新規ボイスひとつ、つくことがないのである。

それどころか、全く正規料金でチケットが取れず、グッズも買えないようなコンテンツは衰退していくだろう。転売ヤーから物を買うというのは、己の推しを殺すことにつながるのだ。

ファンの自主的モラルより運営の対応、最近の事例は

だが、そもそも「何故俺たちのモラルが試され、責められなければならないのだ」という話なのだ。

たまに、いじめは傍観している奴が一番悪い、みたいな話があるが、どう考えてもいじめをする奴が一番悪い。起こっていないことを見物することはできないのだ。

つまり、「転売は利用する奴も悪い」と言って、まずファンに自主的モラルを求めるのはおかしいし、転売ヤーにモラル云々を説くのは、そもそも馬の耳になむあみだ仏っ!だ。

それより、転売自体が起こらないように、運営、そして国がもっとしっかりしろよ、ということである。そんなわけで去年12月に「チケット転売規制法」が可決し、6月から施行される。

規制されるのは業としての不正転売と、そのための仕入れ行為である。同法では、興行主の販売価格を超える価格での転売が禁止される。つまり定価や定価以下での転売は規制にならない。

業としてというのは、商売として継続的にやる意志があるかないかを指し、都合が悪くなり1回だけチケットを転売した、という場合も規制対象にはならない。しかし、実際1回だけでも「継続するつもり」が伺える場合は規制対象になってしまい、違反すると「1年以下の懲役または500万円以下の罰金」が科せられる。

この法により、営利目的の転売が減るのは良いが、同時に、都合が悪くなって催しに行けなくなった人が、他の行きたい人にチケットを有償で譲る行為もしづらくなるとも言える。

もちろん、定価で譲ることは規制されないが、「万が一、業とみなされたらどうしよう」と思ったら尻込みしてしまうだろうし、ツイッターなどで譲り先を募集したら「それ法律違反だと思います」という三つ編みメガネ姿の批判リプがつかないとも限らない。何にしても「やりづらくなる」のは確かだ。

このような、営利目的でない譲渡行為までやりづらくなってしまうと、都合が悪くなった人のチケットはそれ自体が「観賞用」と化し、当日の会場は空席が出来るという、誰も得しない状態になってしまう。

よってここでも、チケットは個人の譲り合いに委ねるべきではなく、「都合が悪くなった人のチケットを、他の行きたい人の手に渡るようにするシステム」を運営側で作るべきだ、という声が上がっている。

現状、そういうシステムを作った運営は少ないが、かといって全く転売対策をしていないわけではなく、入場時の本人確認や電子チケット導入など、色々手を打ってはいるようだ。紙のチケットがいまだに大多数なので転売が捗るのであり、電子チケットは譲渡もオンラインで完結するのですでに実装しているものもある。

最近の例だと、ミュージカル「レ・ミゼラブル」では高額転売されているチケットの日時と席番を公式サイトに晒し、「この席に座った奴は必ず本人確認するし、場合によったら出て行ってもらうからな」とアナウンスしたことが話題になっている。

ただ、仮にこの席に誰か座ったとしても、それは転売チケットを買った奴であり、一番悪い転売ヤーが追い出されるわけではないのだが、「高額転売チケットを買ったところで、観劇出来ないどころか、市中引き回しの上打ち首獄門になるだけだ」と思わせることにより、転売ヤーからチケットを買う行為を萎縮させる効果はあるだろう。

他にも、ファンたちによる「違反通報」などの草の根活動が功を奏し、転売ヤーが「涙目」になる事例も増えてきている。そもそもオタクというのは、目的のためなら、金、時間、労力を全く惜しまないタイプが多い。

それが集団となり「転売ヤーを駆逐してやる」と言い出したら、対抗するには軍隊が必要になる。つまりコストがかかるため転売が儲からなくなり、転売ヤーはいなくなる、ということだ。

しかし、有志による自警団に頼るというのは、映画「デビルマン」を見てもわかるように危険なことなのだ。それが暴走すると人類が滅亡しかねない。

やはり、運営と国が取り締まって行くべきだろう。