私はこんな社会派コラムを連載させてもらっているが、既報の通り無職だし、それ以前に引きこもりだ。つまり、社会派どころか、世界一社会に関係ない奴なので、担当からテーマをもらうたびに「俺が部屋にいた間、世の中ではこんなことが起こっていたのか」と帰還兵みたいな気分になる。

しかし、珍しく今回のテーマは、私が前から知っているものだった。

「破産者マップ」それが今回のテーマだ。

不幸ソムリエが「ブルゴーニュ」から離れた理由

私は無職の引きこもりだがそれすらも副業であり、本業は「他人の不幸ソムリエ」だ。

「人の不幸は蜜の味」というが、不幸ソムリエは舌が肥えているので、「不運」や「巻き込まれ」のような「澱」が多い不幸は嗜まない。「一片の曇りもない自業自得」という純度の高い「至高の他人の不幸」を求める探求者なのだ。

その点でいくと「金がない」というのは、質のイイ他人の不幸が多く取れる「産地」である。不幸界のブルゴーニュだ。もちろん本人のせいではない困窮も多くあるが、ギャンブルや浪費など自業自得で困っている奴もたくさんいるからである。

私はそんな自業自得で金に困っている人のブログなどを見るのが好きだったのだが、最近はあまり見ていない。

他人の不幸ソムリエは名乗る奴がいないだけで、相当数いるメジャーな存在なのである。そういう奴らが今日も活きの良い不幸を求め、オペラグラスを構えて金に困っている人のブログを見に来る。つまり「他人の不幸」は人気コンテンツであり、それをブログに書くとアフィリエイト収入が見込めるのだ。

そこに目をつけた人間が「架空の金に困っているブログ」を運営するようになり、架空の不幸をつづったブログだらけになってしまったのだ。作り話故に、思わず「ヒュー」と言ってしまう展開も多いのだが、私が他人の不幸に求めるのはあくまで「シュート(真剣勝負)」だ。よって「この漁場はもうダメだ、新天地を探す」と、私はそういうブログを見なくなった。

「金のない人間を笑おうと群がる人間を利用して、金を儲けて笑う奴がいる」という地獄ここに極まれりだ。

こういう、庭の石の裏みたいな世界の話は置いといて、私が「破産者マップ」を知ったのはそういう地獄の一端を担う人たちのブログからである。

知った時にはすでに閉鎖されていたので、私は現物を見ることは叶わなかったのだが、「破産者マップ」とは、自己破産など債務を法的整理した人の住所氏名などが掲載されているだけでなく、ご丁寧に「ここに破産者がおりまっせ」と地図にマッピングされていたサイトである。

破産者マップが何をソースに作られたかというと「官報」である。自己破産などをした人間は、官報に氏名などが掲載されるようになっているのだ。よって当初、破産者マップ管理者は「官報で公開されているものを改めてネットで見られるようにして何が悪い」と主張していた。

だが「官報」と「ネット」では、手軽さ、見やすさがまったく違う。暇だから官報でも買って、見ず知らずの破産者の名前でも眺めるか、という気にはなかなかならないが、ネットでしかも無料のサイトなら、「興味本位」で見に行く人間も多いだろう。

何せこれを書いている奴がメチャクチャ興味本位で見に行こうとしたのだから、官報の時とは比べものならないメチャクチャな数の人間が、特に意味もなく破産者の氏名や住所を見に行ってしまうことは想像に難くない。

そんな私みたいな興味本位の権化が目にする前に、サイトが閉鎖されたのは個人的にはちょっと惜しかったのだが、社会的にはすごく良かったと思う。

破産者マップの問題点と“ソムリエ”的評価

破産者マップが閉鎖されたのは、当事者や弁護団から「プライバシーの侵害だ」と多くの批判があり、政府の個人情報保護委員会からも行政指導があったからだ。

実際、いくら官報に載っていることとはいえ、官報を見た時点では読み取れない、破産者の位置情報を地図上で明示する行為は違法性が高いと言われている。また官報に破産者の情報が載っているのも関係者に決定事項を速やかに知らせるためであり、「晒す」ことが目的ではない。

また「DV離婚した夫の借金を背負って破産したが、マップが原因で奴に見つかった」というような声もあがっている。真偽はわからないが、このようなことが「起こり得る」ことも確かだ。それに加え、自己破産者は数年、正規の業者からは借入が出きなくなるため、それを狙った闇金業者などからコンタクトが来ないとも限らない。

おそらく、破産者マップを見る者のほとんどは、その動機が「興味本位」だろうが、好奇の目で見られるだけでも本人にとっては大きなストレスなはずだ。好奇の目で見ている私が言うんだから間違いない。こんな腹の立つ目で見られたら、瞬時に目つぶしを食らわせたくなるだろうし、今度は実名顔出しでニュースに出てしまう。

お金で失敗した人、もしくはやむを得ぬ事情で金銭的にどうにもならなくなった人が「やり直していい」と法的に認めているのが自己破産である。そのやり直しを阻むものはやはりない方が良いだろう。

それに、自己破産なんて、誰もがする可能性のあることなのだ。自分がそうなった時、こんなサイトがあったら嫌だ、という意味でも閉鎖して良かったと思う。

あと、この破産者マップは、なぜ自己破産したかという理由を書いていなかったそうだ。一言で自己破産と言っても、自業自得なものもあれば、不運としか言いようもないものもあるだろう。

他人の不幸ソムリエとしても、この破産者マップはあまり使えるツールではなかったようだ。