先日、モバイルSuicaに大規模な障害が起きた。

いつもなら「我が村には関係ないこと」「都会乙」で済む話であり、改札どころか家の玄関すら滅多に通過しない私にとっては世界一関係ないニュースと言っても良かった。

しかし、今回ばかりは無関係とは言えなかった。何故なら大規模障害のその日、私は東京にいたからだ。

そう頻繁に東京に行くわけではない。むしろ「親戚に高齢の者もおり、私が東京からコロナを貰ってきたら、金カムの杉本の実家みたいに自ら放火して出奔するしかなくなる」と言って3年は上京を断り続けてきた。

ちなみに親戚の高齢の者であるババアは私の東京行きとは関係なくコロナに罹り、今も普通に生きている。

だがその言い訳もそろそろ厳しくなり、嫌々上京したらこの始末である。

東京が俺を拒んでいる。

だが、こちらも好きで来たわけではない、告白してもないのにフられた上に警察まで呼ばれた気分だ。

やっと数年前から「¥875」というダイイングメッセージを残して死んでいたモバイルSuicaを使う時が来たと思ったのに、立ち上げた瞬間「現在障害が起こっている」という旨のお知らせのみが表示され、クレカによるチャージはもちろんできず、残高がいくらかさえわからなくなってしまった。

すでにチャージされているものを使うのは可能らしいが、残金だけではおそらく足りないし、数年ぶりの東京で今まさに障害が起こっているアプリを使うというチキンレースには挑みたくない。

ただでさえ私はその日「東京脱出RTA」の最中だったので、W縛りプレイは酷である。

「東京脱出RTA」とはその名の通り、できるだけ遅い飛行機に乗り、できるだけ早い飛行機で村に帰還するタイムアタックであり、当然日帰りだ。

私が東京に行くと聞き、茶や飯などに誘ってきてくれた人もいたが「日帰りなので」と辞退すると、一様に「せっかく東京に来たのに」と驚かれた。

この「せっかく東京」の意味がわからない、そもそも私が上京を拒み続けてきたのも、東京より家が好きという単純な理由からだ、用だけ済ませて一刻も早く帰りたいと思うのは当然だろう。

確かに東京には我が村にはないものがたくさんある、せっかくだから東京でしか食えないものを楽しみたいという発想になるのもわかる。

しかし「遠くのカフェより自室の残飯」ということわざが示す通り、どんなに洒落ていても衆目の中食う飯が、誰の目も気にせず椅子の上で立膝をつきながら食う飯に勝るわけがないのだ。

ただ、私も旅行気分が全くなかったわけではないので「ドトーノレ」「セブソイレブソ」「ローソソ」という店には立ち寄った。たくさんあったので東京では有名な店なのだろう、これで十分だ。

そんなわけで、全く楽しみでなかった東京出張がますます楽しくないことになってしまった。

“東京脱出RTA”を過酷にした障害、発生理由は作業ミス

  • RTAに欠かせない移動の足で、痛恨のタイムロス……

夕方にはアプリから障害の文字が消えたので、使えるようになったのかと思い、改札を通ろうとしたが、トライした2回中2回とも改札は開かず、画面には「現在このアプリは使えないので係員に問い合わせてくれ」という文言が表示されるだけだった。

「係員に直接問い合わせる」が3年ひきこもった人間にとってどれだけ過酷なことか全く理解していない、冷徹な対応である、やはり東京は凍狂だ。

これが障害の影響なのか、アプリを使うの自体が3年ぶりで¥875が腐って使えなかったのか定かではないが、結局私は東京滞在中Suicaを使うことができず、全ての移動を現金と切符で行うことになってしまった。

ちなみに空港に戻る際1回乗り換えを間違えて「東馬込」という異世界に転移し、390円ほどドブに捨てた。

一体何故こんなことになってしまったのか、端的に言うと「人災」であり「システムサーバーの電源工事で操作手順書に誤りがあり、現場の担当者もそれに気がつかずに別のブレーカーが落とされ電源が遮断されたことが原因」だそうである。

ちなみに日テレの報道では「作業手順書に誤りがあったが、手順書を作ったのも作業を行ったのも同じ作業員だったため、謝りに気づかなかった」という、もう一段階おもしろい原因が発表されていたようである。

しかし1人に2回確認させて「ダブルチェック」と言っているとんちの効いた現場は他にも普通にありそうなので、あまり笑えない。

どちらにしても「誰かが違うブレーカーを落とした」のが原因であり、私を拒んだのは東京ではなく「個人」であることが判明した。

ブレーカー一つ落とすだけで数万人の足とメンタルに影響を及ぼせるというのは、もはや一瞬神になった、と言っても過言ではない。

しかし当該の神に「神になった気分はどうだった?」と聞いても「本当に天に召そうかと思った」などのコメントしか出てこないだろう。

やはり人間1人に神の所業を行わせるのは荷が重い、個人のアナログミスで全てが崩壊してしまうようなシステムや作業手順は作るべきではない。

Suicaの不具合により、東京脱出RTAも振るわない結果となってしまった。

電車の乗り継ぎをどれだけ早くしても、飛行機の出発時間は変わらないのでタイムも変わらないと思うかもしれないが「羽田空港のロビーで虚空を見つめていた時間」が長いほど芸術点が加算されるのである。

切符を買う時間はゲームのRTAでいえば「名前入力」ぐらいのロスタイムである。一秒でも長く座って一歩も歩きたくない上京者のためにも、今後は不具合がないことを祈る。