我々は基本的に飯を食わなければ死ぬ。

飲食は人間にとって生理現象かつ生命維持活動であり、「しない」という選択肢はほぼない。

しかし、世の中にはすでに電脳化に成功し、飲食を「娯楽」と見なす人間もいるようだ。

そんな未来人による「おたくの社員が日中に制服姿で娯楽に興じているのだが」というクレームが度々話題になり、ひとしきりネット相撲が行われたあと「本当に不寛容な世の中になってきたものです」という結論に達している。

今回タイムトラベラーに発見されてしまったのは高速バスの運転手であり、「おたくの運転手がカレーを食っているんだが」と本社にクレームを入れられてしまったそうだ。

確かに、自分が乗り込んだ高速バスの運転手がカレーを食いながら運転をしていたら、タイムマシンに乗ってきた未来人とて気が気ではないだろう。

そもそも運転しながらでは、カレーも口に入るよりこぼす量の方が多いだろう。客、運転手、そして何よりカレーのためにもこのクレームはやむなし、と言えるのではないか。

そう思ったが、どうやら運転手は「休憩時間中SAでカレーを食べていた」そうである。

これは実質「飯を食うな」というクレームであり、クレームを受けた運転手も休憩中にカレーを食ってはいけない理由を説明してほしいと憤っており、世間も「むしろろくに飯を食ってない運転手のバスに乗る方が嫌だ」と同情的である。

また当該運転手は、このようなクレームをわざわざ自分に伝えて来た会社側に対しても疑問を抱いているようだ。社則でも休憩時間中の行動は自由とされているため、クレームが来た時点で特に問題がない行為として突っぱねるべきであり、それを受けた上、社員に通達してくること自体おかしいと語っている

つまり、どんなクレージークレームが来ても謝罪し「善処します」的なことを言ってしまう会社の姿勢が、クレーマーの無茶ブリを加速させているのではないか、ということだ。

確かに世間では「子どもの遊ぶ声がうるさい」「赤子の泣く声がうるさい」程度では満足できず、ついに「田んぼのカエルの鳴き声がうるさい」というクレームが発生しているようだ。

もはやクレーマーは生理現象だけでは飽き足らず、大自然とも戦っていく姿勢らしい。今後「太陽がまぶしい」「夜暗くて危険なので月はもっと光るべき」などのクレームの発生が予想される。

従業員は「生理現象」を客に見せるな、というご意見・ご感想

  • 異世界転生者はマンガやラノベの中だけでなく、リアルにもいたのかもしれません

これまでも、警察官や消防士が飯を食ったりコンビニで飲食物を買ったりしている様にクレームが入るという事案は発生しており、その度に「飯ぐらい食うわいな」という結論に達しているはずなのだが、逆になぜこうも定期的に、公務員や従業員の飲食に対するクレームが発生するのだろうか。

そんな「何故飯を食うことにクレームが入るのかわからない」という大多数の意見に対し、今回「飯クレームの意味がわからない方が逆にヤバい」というカウンターが発生し話題になったようだ。

曰く「飲食という生理現象を客の前で見せるのは無礼、という意味。 この感覚を持つ人は少なくない。」そうである。

確かに「生理現象」という意味では食事と便所は同列であり、客の前で飯を食うということは「客の眼前でウンコをするレベルの無礼」ということになる。

今までの飲食クレームも「警官が白昼堂々コンビニ前でウンコをしていた」など、ウンコに置き換えてみると合点がいかなくもない。

つまり、飲食クレーマーの方々は「人が飲食している姿がウンコしているように見える」という特異体質であったことがわかる。これは、自分以外の人間が醜い肉塊に見えてしまう『沙耶の唄』の主人公レベルの不幸だ。

しかもそんな人間が「少なくない」というのは知らなかった。

我々はそんな人たちを「不寛容すぎる」と批判してきたが、むしろ食事がウンコに見えるマイノリティの方々に対し我々が不寛容すぎたのかもしれない。

つまり、ウンコを人前でしないように、食事してもいいけど客の見えるところでやるのは無礼であり、御社の教育はどうなっているのだ、というのがこの類のクレームの真意ではないか、ということだ。

休憩室や社食など客の目に触れない飲食スペースがある者なら良いが、それ以外で絶対に客の目に触れない場所と言えば、リアルに便所以外なくなってしまう。

どちらにしても客が神になりすぎて働く側を人として見ていないクレームのように思えるが、逆に神聖視しすぎて、アイドルが便所に行かないのと同じように、働いている人が食事なんて生理現象をするわけがない、と思い込んでいる人がいるのかもしれない。

もしくは藤子・F・不二雄のSF短編であったような「食事と性行為が入れ替わっている世界」からトラック転生してきた人が「SAでカレーを食う」という破廉恥行為に度肝を抜かれて、思わずクレームを入れてしまったのかもしれない。

つまり、タイムトラベラーや異世界転生者は意外と「少なくない」ということである。