既に「FAX(ファックス)」は鉄板のジャパニーズジョークになりつつあるが、「寿司と天ぷらの国」から「HENTAIとファッ○スの国」というのはさすがにイメチェンが過ぎる。

コロナ禍においても、日本が医療機関にファックスで報告を出させているというニュースが国際的爆笑をかっさらったことは記憶に新しい。むしろあの鬱鬱とした状況の中、世界中の人を笑顔にしたという意味で、日本はもっと感謝されてもいいはずだ。

しかし、さすがの日本もコロナの影響で業務のデジタル化をしないわけにはいかず、コロナ前と今では業務上の「紙」は大分減ったように思われる。

余談だが、先日健康診断を受けた。

コロナ禍の前にも同じところで健康診断を受けたのだが、その際、申し込みをコミュ症らしく「メール」で送ったところ、まず先方から「電話」がかかってきた。「メール申し込みとは? 」と一瞬思ったが、先方の説明によると、これから申込書を「郵送」するので必要事項を「手書き」で記入の上、それをこちらに「ファックス」してくれとのことである。

当然我が家にはファックスなるハイテク機器はなかったため、申込書を送るためだけにコンビニに車を走らせることとなった。つまり、申し込みをするだけで一週間ぐらいかかってしまっているのだ。もし大病だったら発見が一週間遅れるし、余命が一週間だったら検査を受ける前に死んでいる。

今年、再度同じ病院に申し込みをしようとしたところ、コロナの影響かはわからないが申し込み方法が「LINE」になっており、二往復程度のやりとりで申し込みが完了してしまった。

やはりデジタルの方が何をするにも圧倒的に早い。これからも先進国を名乗りたいなら紙にこだわるのはやめた方がいいし、奇しくもコロナは脱アナログの後押しとなった。

霞が関のファックス廃止、反対多数で全廃はとりやめに

まさに今が好機として、先日、河野太郎行政改革担当相が各地の出先機関含む霞が関の全省庁に「一カ月以内にファクス廃止」を要請したところ、数百件に渡る「無理」という返答があり、それを受け政府はファックス全廃を事実上断念することにしたという。

日本の夜明けは近そうでまだ遠く、まだ午前二時の踏切前程度だ。

しかし、これは各省にいるファックスのエキスパート世代が「今更メールの使い方を覚えるなんて面倒くさい、その間にファックスが何枚送れると思っているんだ」とゴネているわけではない。

そもそもファックス世代がファックスを完璧に使いこなしているかというとそうでもなく、「何もしてないのに紙が詰まった」などと言って、ここへきて初めてファックスというものに触れた若人を呼びつけていたりするのだ。

たまに話題になる電卓よりも早いそろばん自慢ババアのように、「私がファックスを送ればメールよりも早く相手に届く」と言っている者はおらず、反対派もファックスよりメールなどの方が早くて便利なのはわかっていると思う。

わかった上で、ファックスを送るのも面倒だが、今からメールを覚える方が死ぬほど面倒、という理由で反対している可能性もなくはない。私も初老に王手がかかった者として、新しいことを覚えるのが死ぬほど面倒、という気持ちは良く分かる。

老が死ぬほど面倒なことに挑んだなら本当に死ぬ恐れがある、命がかかっているなら反対もやむなしだ。

ただ本音はどうであれ、表向きの反対理由は「そう簡単に言わないでくれ」である。

道のりは長くても、みんなで「卒業」したいファックス

  • 「見られたらマズイ情報」が丸見えのまま放置されることも…

    「見られたらマズイ情報」が丸見えのまま放置されることも…

確かに、オフィス全体をデジタル化するとなったら、個人宅のようにファックスを引っこ抜いて、楽天モバイルを開通させれば終わるというものではない。システム業者を交えての打ち合わせが必要になってくる。

そんな複雑なことを「すぐヤレ」と言われてもそれは「無理」である。また、ファックス全廃かつデジタル化を要請しながら、それに対する補助金などの話が出ていないため、「補助もなしに要請とな?」という反発も言外にあると思われる。

「セキュリティ面をどうするのか」という反対意見もあるようだが、履歴書や運転免許など個人情報の塊が受信トレイに乗ったまま30分ぐらい平気で放置されていたりするファックスに「セキュリティ」などとは言われたくないと思うので、この理由は少し言い訳臭が強い。

しかし、全面デジタル化するならセキュリティについて考えなければいけないのは事実であり、どちらにしてもコストはかかる。

また、老でなくても、新しいシステムや手順を覚えるのは大変であり、業務を滞らせることなく1カ月で完了しろと言われたらやはり「無理」という結論になってしまう気がする。

それに、「ファックスが主力」というのは確かにマヌケかもしれないが、いきなりファックス全てを斧で叩き割ってデジタル一本化というのが利口とも限らない。

停電のときにガスコンロが大活躍したり、スマホのデータが飛んだとき紙のアドレス帳で命拾いしたりと、デジタルの命綱としてアナログはまだ必要だったりするのだ。

もしファックスを全廃するなら、リスクヘッジとして複数の回線を用意する必要があり、結局金と時間がかかるので、すぐにというのは難しい。

またファックスを全廃すると、取引先が「うちはファックスしか受け取れない」という職人気質だった場合、ファックスを送りに小銭を握ってコンビニにダッシュ、というファックスよりもアナログなことをする羽目になりかねない。

そうした懸念が届いたのか、民間企業や個人とのやりとりは、災害時対応と並んで例外的にファックス可とされたそうだ。そのほか、省庁がファックスを廃止できない大きな理由が「国会中の議員対応」ということも指摘されており、河野大臣が直々にデジタル化への「協力のお願い」を行うらしい。

やはりビジネスツール改革というのは、全体が足並みをそろえて行わないと意味がない。1人だけ抜きんでているというのは、1人だけ後ろに大きく離されているのと大差なかったりする。