今これを書いている時点ではまだ梅雨が明けておらず、傘を手放せない日々である。

そう言いたいところだが、今年に入ってから傘を差した記憶さえない。

まず大前提として「家から出ない」というのもあるが、私はたとえ雨の中外に出ることがあっても、よほどでなければ傘は差さないのだ。

数年前「ブスの本懐」という、今ならタイトルだけでツイッターが軽く焦げ臭くなりそうな本を出したのだが、その中に「ブスは傘を差さない」と適当なことを書いたところ、意外にも全国の腕に自信のあるドブスの方々から「確かに差さない」という共感の声をいただいた。

これは、ブスすぎて雨の方が避ける、ブスともなれば手刀で雨を全て払いのけるなど造作もない、という意味ではない。世の中には、少しの雨、少しの距離なら「面倒」で傘を差さない人間がいるのだ。

そういうタイプは、少しの外出なら日焼け止めを塗らない、髪が生乾きのまま寝る、ゴミを捨てに行くぐらいならほぼパンイチなど、あらゆるところで面倒くさがって手を抜こうとする。

そういった行動の積み重ねにより、産まれたときはそれほどでもなかったのに、気づいたら至るところが小汚い、ローマ型ブスが爆誕するのである。

傘を差すのがそんなに面倒かと聞かれれば、差すのはまだ辛うじて良いが、どちらかというと畳むのが面倒なのだ。

「折り畳み傘を畳むの苦手選手権」上位陣になると、使用前・使用後で傘を2倍に膨張させることが可能であり、それを見るだけでテンションが下がるので極力差したくないのである。

しかし、全てが目まぐるしく進化していく世の中において、傘の進化しなさは逆に目を見張るものがある。

細かい改良はされ続けているのだろうが、頭の上に覆いを作って雨を遮るという基本原理は原始時代から変わっていない可能性すらある。

このように、全てが進化しデジタル化していく世の中において、色々試した結果「物理でやるのが一番早くて確実」という領域はいまだに存在する。

それが、傘、暴力、そして終活だ。

PC・スマホが身近になっても、「物理が最強」な終活

終活ネタが多くて恐縮だが、本当に編集部から終活ネタばかり送られてくるのだから仕方がない。

それに、漫画家やライターなど腐るほどいる昨今だ、もはや万人に受けることは諦めているが「死後処理と言ったらあいつ」みたいに特化すれば生き残りもワンチャンある。

そんなわけで、死界の重鎮を目指すべく遅ればせながら「エンディングノート」を購入した。すでにアマゾソレビューが1,500件近くついている逸品なので、やはり終活需要が高まっているのだけは確かだ。

他にもたくさんエンディングノートはあったが、共通して言えることは「ノート」ということだ。

今「秋田犬の最大の特徴は犬であることだ」みたいな話をされたと思ったかもしれないが、これは重要なことである。

エンディングノートソフトみたいなのもあるにはあったが、紙のノートに比べればはるかに少ない。今のところ、遺族に情報を残す手段として「紙」を超えるものはできていないということだ。

エンディングノートを使う世代がパソコンを使えないからではない。そうだとしたらエンディングノート内に携帯やパソコン、登録しているWebサイトのIDやパスワードを記載するページは存在しないはずである。

つまり、遺族にとって情報は紙で残してもらうのが一番捗るということである。

データだと、まず保存されている場所がわからなかったり、わかってもアクセスできなかったりするという問題がある。

また、データというのは半永久的に残るようで意外とそうではない。映像などもフィルムからデジタルデータに保存方法が変わり、劣化の心配なく永久的に保存できるようになったようでいて、データを保存するディスクなんかの寿命は実はフィルムよりも短いことがあったりするため、、「寿命前に頻繁にコピーをし続ける」という割とアナログなことをしているらしい。

さらに言えば、どこに保存してもデータというのは常に消失や流出の恐れがあり、一瞬で「1が0になる」ように跡形もなく消える恐れがある。そういう意味ではある意味紙より儚いのだ。

AppleもiCloudの“相続”サービスを発表

  • 「買って満足」、人類のあらゆる活動に仕掛けられた罠ですね…

    「買って満足」、人類のあらゆる活動に仕掛けられた罠ですね…

しかし、これだけ人々が情報をデータ化して、スマホやクラウドに保存する世の中になってきている中、今後もっと頻発するであろう「本人の死後、重要なデータにアクセスできない」問題を放置しておくわけにもいかない。

そんなわけであのAppleもついに終活の一環とも言えるサービスを発表した。それがiCloudを本人の死後、遺族などに引き継げるサービス「デジタル遺産プログラム」である。

今のところ、遺族にとっては残念ながら本人にとっては幸い、スマホのロックを解除する術は基本的にない。

その一方で、Appleが提供している、スマホやPC内ではなくいわゆる「ここではないどこか」にデータを保存するサービス「iCloud」内のデータを遺族が引き継いだ前例は今までもあった。

しかし、その工程は、まずカスタマーセンターに「どうしても亡くなった家族のデータにアクセスしたいんです」と泣き落としを仕掛け、運良く対応したのが話の分かる奴だった場合に限り、本人が亡くなった証明や自分たちが遺族である証明など、必要な書類を集め提出、何度も慎重なやりとりをした末にやっと、というものであった。

だが、今後ますます「故人のデータにアクセスしたい」と泣きながら電話してくる人は増えるはずである。いつまでもマニュアルにないから個別対応、または「規則なんでそれは無理っす」と塩対応を続けるわけにはいかない。

そこでAppleは生前に本人が「死後アカウントをこの人に引き継ぎます」と指定しておけば、上記のような煩雑な手続きなしで引き継ぐことができるサービスを発表した。

本人は遺族に残したいデータだけ引き継がせることができ、遺族は重要なデータを見つける道中にエロ画像の大群に遭遇しないで済むという画期的なサービスだ。

だが、これはもちろん本人が生前に手続きをしていないと使えないし、遺族にも「俺の死後iCloudを引き継いでくれ」と言っておかなければならない。

終活の方法がどれだけ進化し、デジタル化しようとも「本人の終活する意志」と「家族との意思疎通」という最もアナログなものがなければ始まらない、というのは今後も変わりそうにないようだ。