最近また「バイトテロ」が流行っているらしい。
流行には、肩の中に文鳥を飼っていたバブル期ファッションのように、今思えば集団発作としか思えない二度と流行らなそうなものと、一定期間たってから再び流行るループ系の二種類がある。
その観点で言うと「バイトテロ」は「タピオカ」の域に達したのかもしれない。全てが目まぐるしく消費され、リサイクルすらされず産廃になっていく世の中において、ワンスモアしてくるというのは偉業とも言える。
何度も流行るタピオカパイセンのたゆまぬ努力
しかし、バイトテロはまだタピオカパイセンの高みに達してはいない。
パイセンは昔、今より小粒であり、何より白かった。そしてさらに白くて甘い液体に浸かっていらっしゃった。パイセンのキャラ作りは悪くなかったのだが、何せその当時は「ナタデココ」という伝説のアイドルがいたため、パイセン、そしてパンナコッタはどうしても二番手感が否めず、ミュージックステーションでも、パイセンが空気を温めたところで、ナタデココが歌うという扱いだった。
しかし、伝説というのは短命で二度と起こらないから伝説と言われるのだ。ナタデココブームは去り、今のところ再び流行る兆しもない。
片やタピオカは再デビューの機会を得たわけだが、前と同じ姿でノコノコ出るような真似はしなかった。「今どき小柄、色白、白ワンピなんてねえっしょ」ということで、でかく黒く、そして色付きの汁に浸かってくるという大胆なイメチェンをはかってきたのだ。
つまりタピオカパイセンは、流行るたびにビジュアル、または設定や演出方法を変えてきているのである。懐かしの一発屋枠で出てきているわけではないという強い意志が垣間見える。
それに対し「バイトテロ」は「まるで成長していない」のである。
バイトテロってそもそも「テロ」か問題
まず「バイトテロ」とは何かというと、アルバイト店員がバイト先の店内で設備や商品を使って悪ふざけを行い、その様子を撮影。それをSNSに投稿して拡散されることにより、同店のイメージを著しく損なわせる行為である。
ネットをやっている人なら「バイトテロ」と聞いたら、テラ豚丼やアイスケース、こかんお玉など、何か1つぐらいは思い浮かぶものがあるだろう。
その内「私がお世話になったのは『電影少女』、あっちの人は『幽☆遊☆白書』です」というジャンプ自己紹介のように、「バイトテロ」と聞いて何が思い浮かぶかで年代がわかるようになるかもしれない。
ちなみにアイスケースに入った人は複数いるが、実行したのがバイトではなく「客」だったこともあるそうで、その場合正確にはバイトテロには当たらない。
だが、そもそも「テロ」という言葉自体が正確ではない。テロとはウィキペディアによると「政治的な目的を達成するために暴力および暴力による脅迫を用いること」だそうだ。
バイトテロを行う者たちに政治的な目的がないのはもちろん「バイト先に対して不満があり、店にダメージを与えるためにやった」者すら少数派なのだ。
大多数の者が「おもしろいから」という動機でやっているのである。つまり、テロリズムはテロリズムでも、予算1,500円の『ジョーカー』みたいな話なのだ。
しかし、ジョーカー本人に聞いてみたわけではないので定かではないが「バットマンだけに見せて楽しむつもりでいた、こんなに大ごとになるとは思わなかった」などという動機でゴッサムシティを燃やしてはいないだろうし、基本的に大ごとになってほしくてやっていると思われる。そう考えるとジョーカーも迷惑系ユーチューバーみたいなところがある。
バイトテロの成長がないところは、これだけ今まで大ごとになってきたのに、大ごとになるとは思わずやっており、そして「ネットの匿名性、そして鍵アカや、一定期間で投稿が消えるという仕組みを異常に信頼している」という点だ。
バイトテロ実行犯はバイトテロを知らない?
今回話題になったのは、ピザハットでシェイクを混ぜるヘラを舐めて見せた店員と、ココイチでまかないのカレーに「スパイスを振りかけました」と言って自らの陰毛を載せた店員である。
陰毛に関しては悪い意味で斬新、と言えなくはないが、両方とも24時間で消えるInstagramのストーリーズやTwitter(ツイッター)の鍵アカで投稿されており、「仲間内だけで楽しむつもりだった」という供述は全くのテンプレである。
今までも、仲間内だけで楽しむつもりだった鍵アカやストーリーズに投稿された悪ふざけが第三者に保存拡散され、大ごとになった事例は多々あった。このことから「バイト先で悪ふざけしてはいけないし、鍵アカや一定期間で消える投稿に機密性はほとんどない」ことが周知されても良いはずなのに、何故繰り返してしまうのか。
この件に関しては、専門家により「マジで知らなかったんだろう」という、非常に高度な考察がされている。つまり、バイトテロを起こすような若者は、過去にバイトの悪ふざけが大ごとになったニュースを見ていない可能性がある、ということである。
確かに、私のように1日68時間ツイッターに張り付いている上、ツイッターをコミュニケーションツールではなく、独り言や情報収集に使っているようなタイプは、バイトテロニュースなど何万回も見ている。
しかし「仲間内でウケたい」という発想を持つ若者にとっては、スマホやネットは仲間とのコミュニケーションツールでしかなく、「ニュース」など全く見ない可能性はある。
これは、困窮者支援情報をいくらネットで流しても、何せ困窮しているのでネットを見る環境がないという「本当に必要な人に必要な情報が届いていない現象」だ。
多くの若者に知らしめるとしたらもはや「学校」しかない。高校や大学などバイトができる世代になったら、一度授業で「バイトテロは人生が狂う」というビデオを流した方がよいのではないか。
そんなことを教えないといけないなんて情けないと思うかもしれないが、人間というのは「教えられていないことは知らない」生き物なので仕方がないのだ。