今年も残すところ2か月弱だ。

世の中には1月や6月が終わるたびに、イチイチ「今年がもう1か月終わった」、あるいは「半分終わった」と騒がずにいられない人間がいる。ネット上で悲報と言えば、「【悲報】今年が半分終了」であることからも、メジャーな存在であることがおわかりいただけるだろう。

そういうタイプはたとえ今年が何億か月残っていても、「今年残り○か月」と言う、「時報」以外の仕事は何一つしない、という調査結果がすでに出ているので、朝に鶏が鳴いているようなものと思って気にしない方が良い。

降って湧いた「正月延長」改め「分散休暇」

ともかく、もうすぐ年末年始がやってくる。年末と言えば「プロ野球戦力外通告~クビになった男たち」と、それに伴う長期の休みだが、政府はその正月休暇期間を「分散」するようにと要請を出している。

それを言い出したのがもう10月も終わろうかという時期だったため、まず「何故もっと早く言わないのか」という批判が挙がっている。

やはり与党議員というのは全員優秀なため、「今年あと○か月」と報せるだけが仕事のボンクラが一人もいなかったのだろう。そのせいで、今年があと2か月くらいしかない、ということに全員気付けなかったに違いない。

それを考えると、あの時報係も必要な存在だったということである。

「正月休暇の分散要請」とは、正月休みを年末から1月11日までの間で分散して取ってほしいというお願いである。何故分散させて欲しいかというと、すでにみんな忘れているかもしれないが、新型コロナウイルスの感染を防ぐためだ。

トラベルやイート、ヘルなどの「Go To」企画が実施されているのを見ると、すでにコロナ自体は終息し、経済回復に注力する段階になったかのようだが、前ほど大きなニュースにならないだけで、今でも都心では一日100人以上の感染者が出る日が珍しくないし、北海道もなにやら大変な様子になってきている。

ただ、国の方針が「コロナに罹らないようにしよう」から、「コロナに罹らないように経済を回せ」へと変わり、難易度が上がっただけなのである。

欧州では再びコロナが感染拡大し、またもロックダウン状態になっているところもある。日本も油断していると再度緊急事態宣言が発令され、一般人にとっての不便な日々、ひきこもりにとっての日常が始まってしまうかもしれない。

コロナウイルスは人の動きが大きければ大きいほど広がりやすい。つまり人が多く外出し、遠出もする「連休」は感染拡大リスクが高く、実際今までも連休後には感染者が増える傾向にあったという。

よって、年末年始に感染大爆発、とならないように、正月休みを分散させることにより、帰省や初詣などで起こる人の密集を緩和させようというのが狙いだ。

意図はわかるが、今のところ政府からは外出自粛の時と同じで「これは命令ではなく、あくまで私案、希望であり、各自の判断でやってほしい」という、例によって映画八甲田山方式の指示しか出されていない。

それどころか、西村康稔経済再生担当相から発せられたのは「業種の実情に応じ、分担や交代など工夫しながら(社会)全体として休暇が分散されるよう期待したい」というコメントだった。もはや要請ですらない、そうなったらいいなという「期待」である。

あまりにマシュマロすぎる提案だったせいか、当初は分散ではなく「正月休みを1月11日まで延長」という内容で拡散されてしまい、「もっとはっきり言え」と、なんと自民党内部からも叱られが発生してしまっていた。

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ともかく「正月休みを分散してほしい」という希望と期待は発信されたが、「お前は正月一日目に休め、お前は二日目、拙者は三日目!」と、コミケの司令塔のような、具体的指示が出ているわけではない。

しかし「各自考えて休め」のままでは、向かいから歩いて来る人間を避けようとしたが、相手も同じ方向に避けてしまい、それを3回ぐらい繰り返してしまうような、「各社休みをズラそうとして全社かぶる」現象が起こらないとも限らない。

もちろん企業内で休みを分散させるだけでも効果はあるだろうが、「とりあえず全員家から出ないでほしい」という外出自粛よりはだいぶ高度な要請になるため、本当に分散されることを期待しているだけでないなら、政府から号令や指示は必要となってくるだろう。

だが今のところ「期待」のままで、企業や国民は「待ち」の状態である。

ちなみに正月に休むのは会社員だけではない。学生も同様であり、両方関係ないのは我々会社もなければ家庭もない無職ぐらいのものだ。

この「正月休みの分散」について、文部科学省はすでに「学校は冬休みの延長予定はない」という考えを明らかにしている。学校は前の一斉休校で授業時間が足りなくなっており、現在も放課後補習などで補っているところもあるため、さらに冬休みを延長することは難しいという。そうなると、年末年始に親と子供の正月休みが合わなくなる場合もあり、結局帰省などが難しくなる可能性がある。

政府は旅行を推奨するが、帰省には厳しい。帰省では老の年金が孫に流れ、それを親が「将来のために預かる」だけで終わってしまい、預かるという体で使い込んでくれるアバンギャルドな親でもないかぎり、即効性のある経済効果が見込めないせいかもしれない。

あるいは、コロナにかかると重症化しやすい老から、無症状や軽症が多く感染を広げやすい若者を遠ざけて感染拡大を防ごうとしているのかもしれない。だが、今年になって一度も帰省できていないという人も少なくないであろうから、その点でも不満は大きいだろう。

すでに経済連など三団体に休暇分散を求め、協力の意向を示されてはいるが、一方で対応が困難な業種への配慮が求められている。また、「てっきり11日まで休めってことかと思ったぞ」と、ここでも初出の発言の紛らわしさを指摘されている。

しかし、調整するにしても何せ時間がない。このまま「各々の判断で周到な準備をし、御社は御社らしく休みをとってくれ」という号令のまま、八甲田山という名の冬休みに突入してしまう可能性もある。

やはり6月が終わった時点で「今年半分終了!」と、触れ回って人を焦らせる時報的存在は必要だったのだ。