今回は、「ネットワーク型変化対応型」SCMの準備あるいは前提条件となる「プランニングとオペレーションの整合」について述べたい。

"整合"とは

「プランニングとオペレーションの整合」について、シンプルな例で説明したい。

  • プランニングとオペレーションの整合の例

    図1 プランニングとオペレーションの整合の例

図1のグラフはある工程で同一の製品を加工した場合の実際の加工時間のばらつき(実線)と、プランニングに使用される加工時間(点線)の関係を表している。

まず、左上のグラフのケースでは、プランニングに使用される加工時間は、実際の加工時間の中央値に設定されており、プランニングについては高い水準にあることがうかがえる。一方、実際の加工時間は、ばらつきが大きく、オペレーションのレベルは高いと言えない。理由としては、作業者によって加工時間にばらつきがある、品質が一定せず手直しが発生する、など生産技術面で改善の余地がありそうである。

このケースでは、プランニングは精緻であっても、生産オーダー別の進捗をみるとほとんどの生産オーダーは計画どおり進まない。よって、プランニング結果は、机上の空論とみなされ、信用されない。また、変化に対応しようとこのプラニング結果にもとづいて生産オーダーを変更しても、そもそも実行の確実性の低いプライニングでは、現場にさらなる混乱を巻き起こすだけである。

次に、左下のグラフのケースでは、逆に、実際の加工時間のばらつきが小さくオペレーションのレベルは高いが、プランニングに使用される加工時間は実際よりかなり余裕のある時間になっている。

このようなケースでは、プラニング結果は軽視される。実際にはプランニングされた以上の生産が可能であるので、プラニング結果とは別に、現場で需給の調整が行われるようになり、ついにはプランニング結果だけでなく需給計画までも形骸化してしまう。

最後に右側のグラフは、プランニングとオペレーションが整合しているケースである。このケースでは、プランニング結果は確実に実行され、プランニング結果への信頼性も高い。よって、市場・需要の変化に対応するためプランニングの変更が必要な場合も、自信を持って変更を決定し、実行に移すことができる。

"整合"を実現するためには

「変化対応型」SCMにおいては、「プランニングとオペレーションの整合」はこれまでの「調整型」SCM以上に重要となる。

人間が関与(調整)することで、プランニング力の不足を補ったり、オペレーション力の不足によって生じる混乱を収拾したりする方法では、リアルタイムでダイナミックな対応策を実行に移すことはできないからである。

では、どのように「プランニングとオペレーションの整合」を図ればよいのか。

(先ほどの例で読者はすでにお気づきと思われるが)"整合"のために行うべきことは、これまでも生産計画・生産管理の現場で行ってきた生産実績データの収集・分析・課題の抽出・改善・定着化という地道な取組みである。加えて言うならば、人の関与(調整)を前提としないため、これまで以上に高い目標を達成しなければならないということである。

地道な取組みは長年続けられているにも関わらず「プランニングとオペレーションの整合」が思うように進まない理由としては、作業実績データの収集や分析に莫大な時間を要すること、プラニングに利用するITの機能と処理能力が不足していること、があげられる。つまり、情報収集・分析に苦労して、さらにその情報を十分に活かしきれない状況が、生産技術者の努力を何度も挫いてきた。

デジタルイノベーション

ところが近年、この状況が劇的に変化した。ビックデータ、IoT、AIの実用化である。

まず、作業実績データの収集や分析が容易かつ効率的に行えるようになった。作業状況を動画データで残し、IoTデータと組み合わせたビックデータを生産技術者に代わってAIが分析してくれるのである。検証実験において、AIは分析だけでなく改善点の提案も行っており、提案内容は熟練の生産技術者と同等だと言う。

次に、プランニングつまり計画機能も飛躍的に向上した。インメモリーデータベースや並列処理の進化により、MRP・スケジューリングといった複雑なデータ処理では、処理時間が従来の数十分の一になった。生産能力・要員・原材料などの制約条件を同時に考慮した高度な計画も、実用に耐えうるレベルになってきた。

さらに複雑な(例えば、設備の振り分け優先順位、段取りの効率、冶工具交換作業などを考慮した)計画も可能である。複雑な計画をこなすのにはAIが活用される。

このように、最新のITを活用することにより「プランニングとオペレーションの整合」は、以前のように高いハードルではなくなったのである。

次回は、「ネットワーク型変化対応型」SCMの構成要件の1つ目「シンプルなプロセス」について考える。

杉山成正

著者プロフィール

杉山成正(すぎやましげまさ)
株式会社NTTデータ グローバルソリューションズ
ビジネスイノベーション推進部
ビジネストランスフォーメーション室
サプライチェーン担当

略歴
1963年京都府生まれ
神戸大学工学部大学院卒。中小企業診断士
メーカにて生産管理・生産技術・設備技術・新規事業企画等の業務に携わったのち、日系情報システム会社にてシステムコンサルタントに。
その後、外資系コンサルティングファーム、日系コンサルティングファームにてプロジェクトマネージャー、ソリューションリーダー、セグメントリーダーを歴任。
製造業における経験を活かし、業務改革、ERP/SCMシステム構築を中心に取組んでいる。