前回は、「エッジコンピューティング」の登場背景とそのメリットを解説しました。今回は、エッジコンピューティング関連の製品カテゴリーと、その中で管理機能を持つエッジプラットフォーム(本連載ではこのエッジプラットフォームを主に取り扱う)、そしてユースケースについて解説します。

エッジコンピューティング関連の製品カテゴリー

第1回でも紹介しましたが、エッジコンピューティング製品は、以下の3カテゴリーに分かれます。

  • (1)データの加工・分析等を担当する、エッジコンピューティング用のアプリケーション(エッジアプリケーション)
  • (2)(1)を稼働させる、エッジコンピューティング用のハードウェア(エッジデバイス)
  • (3)多数の拠点に分散して整備することになる(1)と(2)を効率的に統合管理する、エッジコンピューティング用の管理プラットフォーム(エッジプラットフォーム)

昨年からエッジコンピューティングに関連したさまざまな製品がリリースされています。これらのリリースは、まだまだ初期段階にあり、今後も新製品の発表が増加していくとともに淘汰も発生していくと予想しています。

続いて、これらのカテゴリーについて説明していきます。

エッジアプリケーション

エッジアプリケーションとは、エッジデバイス上で動作するアプリケーションです。通常のサーバで動作するアプリケーションとは違い、小さなデバイス上でも動作することが特徴です。また、後述するエッジプラットフォームを活用することで、リモートからでも管理・運用が可能です。

現在、エッジアプリケーションは、データ加工・モニタリング・AI・セキュリティ等の分野で提供されています。例えばデータ加工では、エッジアプリケーションがデータを一次処理し、その結果を上位のエッジやクラウドに送信することで、インフラ全体で効率的な運用を可能にしています。今後も様々な種類がリリースされると考えられます。

エッジデバイス

エッジデバイスは、エッジコンピューティング向けのハードウェアです。データを取得する機器の一番近くに置かれるため、多くの場合でコンパクトなボックスタイプのPCが用いられます。また、過酷な環境での利用を想定して、防塵、ファンレス、レール(工場などで用いられる産業用制御機器を取り付けるための金属製のレール)取付機能などが付いています。

エッジデバイスは、産業用PCメーカであるAdvantech、一般的なPCメーカであるDell EMC / HPなどが出しています。機種の選定は、上に載るエッジアプリケーションのCPUやメモリの要求に応じて決定します。また、最近ではAIの推論処理をエッジ側で行うため、エッジデバイスにGPUを搭載する場合もあります。

エッジプラットフォーム

エッジプラットフォームはエッジアプリケーションとエッジデバイスの管理・運用を行います。エッジアプリケーションに対してはコンテナ化・仮想化された動作環境を提供し、エッジデバイスに対しては複数拠点に分散設置された複数のデバイスの管理と運用を簡単に行えるようにします。

エッジプラットフォーム製品はSaaS形式またはオンプレミスで提供されます。前者の例としてはAzure Edge、Volterraなどがあり、後者の例としてはNebbiolo、OpenShift、Rancherなどがあります。SaaSで提供される場合は、クラウド上でマネジメント機能を提供し、エッジデバイスにはマネジメントと通信するクライアントがインストールされます。

エッジプラットフォームで提供される機能

エッジプラットフォームは、主に以下4つの問題点を解決します。

(1)簡単なアプリケーション配信

一般的にエッジデバイスはさまざまな場所に複数台で設置されるため、その上で動作するアプリケーションのインストールから運用にわたる管理は煩雑になります。これに対し、エッジプラットフォームは複数のエッジデバイスに向けて、遠隔から一元的にアプリケーションを配信することで、新規インストールからバージョン管理、そしてアップデート管理までを容易にします。これらのエッジアプリケーションは、コンテナや仮想マシンの形態で配布されます。

(2)統一されたネットワーク

エッジデバイスは基本的にネットワークに接続されますが、エッジデバイス間の接続や、データセンター/クラウドへの接続の設定が大変な場合があります。エッジプラットフォームは各エッジデバイスに対して様々な接続先への接続性を確保します。

(3)高いセキュリティ

エッジデバイスは各拠点に分散して配備されるため、セキュリティを保つのが大変です。エッジプラットフォームは、遠隔から統一的なセキュリティポリシーをエッジに適用することで、エッジ全体のセキュリティのレベルを均一に保つことができます。

具体的には、エッジアプリケーションに対してはファイアウォールやWAF(Web Application Firewall)機能などを提供して、アプリケーションを保護します。また、エッジデバイス間やクラウドへの接続についてもVPN等を利用して通信を保護します。

(4)簡単な管理・運用

エッジデバイスはさまざまな場所に配備されるため、エッジデバイス自体の管理・運用も手がかかります。エッジプラットフォームは遠隔からエッジデバイスを監視して、故障や不具合が起きていないかどうかを常時確認します。エッジデバイスが故障した際、冗長構成であればアプリケーションを自動的に再配置します。また、機器の交換作業でもゼロタッチでの再インストールや、エッジアプリケーションの自動配信によって交換作業を簡素化します。

エッジプラットフォームのユースケース

エッジプラットフォームが提供する機能だけを見ても、どのように利用すればよいかがわかりにくいと思いますので、今回はエッジプラットフォームを利用する3つのユースケースを紹介します。

(1)Fleet Management(移動体および非動力資産の管理)

従来は、個人向け・法人向けを問わず、さまざまな製品にマイコンが搭載されており、決まった動作をしていました。現在ではIoT(Internet of Things)の考え方が進むに従って、製品にPCなどを搭載して、その上でアプリケーションが動作することも一般的になりました。Fleet Managementでは、製品内に搭載されるPCをエッジとして捉えて、エッジプラットフォームで管理・運用します。

具体的には、オフィスのデータ収集のシステムや、エレベータのシステム、入退場ゲートが高度化しており、動作しているアプリケーションの管理・運用が必要とされています。また、車、列車、船舶等の移動体も高度化しており、アプリケーションが動くのが当然となったため、それらをエッジとして捉えてエッジプラットフォームで遠隔から管理運用する必要性が増しています。

(2)工場や拠点

工場内に置かれる機器もロボットや、加工機からデータを取り出して処理するIIoT(Industrial IoT)の考え方が広まっています。このIIoTの流れに沿って、工程の中にPCが組み込まれてアプリケーションが動作するようになり、これらを管理・運用する必要が出てきています。また、事業拠点や店舗にもサーバ・PCを設置して、その上でアプリケーションが動いています。これらをエッジデバイスとして、エッジプラットフォームで遠隔から管理・運用します。

(3)MEC (Multi-access Edge Computing)

近年では、様々な機器が固定網や携帯網を通じて直接キャリアネットワークに接続されることが多くなってきました。キャリアネットワーク内で、これらの機器に一番近い場所でデータを処理すれば、低遅延での処理とデータ処理の全体最適が実現可能です。このキャリア網内のエッジで処理を行う仕組みがMECです。MECは各都道府県や局舎単位で設置される可能性があり、それなりの数の機器が設置されます。エッジプラットフォームを使えば、これらのエッジデバイスを遠隔から管理・運用できます。

今回は、エッジコンピューティングを取り巻く製品・サービス、エッジプラットフォームの機能、そしてユースケースについて解説しました。次回からは各種エッジプラットフォーム製品の解説に移ります。次回はVolterraについて解説します。

著者プロフィール

荒牧 大樹


ネットワンシステムズ株式会社 ビジネス開発本部 第1応用技術部 シニアエキスパート


2009年にネットワンシステムズ入社。ビデオ会議・IP電話等などのCollaboration事業、OpenStackなどのプラットフォーム事業、データ分析・機械学習などのAI事業を担当。2019年からはエッジコンピューティングに関する事業を担当。