2020年1月24~25日、幕張メッセにて対戦格闘ゲーム祭典「EVO Japan 2020」が開催されました。EVO Japanは、ラスベガスで毎年夏に開催される対戦格闘ゲーム祭典「EVOLUTION(通称、EVO)」の日本版。第1回の池袋・秋葉原、第2回の福岡を経て、第3回の今回は幕張メッセホール6にて実施されました。

EVO Japanでは、運営が開催する「公式タイトル」のメイントーナメントと、コミュニティが開催する「サイドイベント」が行われます。公式タイトルは、『BLAZBLUE CROSS TAG BATTLE』『SAMURAI SPIRITS』『SOULCALIBUR VI』『ストリートファイターV アーケードエディション(ストV)』『大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL(スマブラ)』『鉄拳7』の6タイトルです。

  • 初日の会場の様子。手前が企業ブースなどの出展エリア、中央付近がサイドトーナメントエリアなど、そして奥が公式タイトルのメイントーナメント会場です

  • 入り口付近には、事前に募った出資者の名前入りの「応援提灯」が掲示してありました

  • 会場には、アーケードコントローラーのレンタルも。荷物が少なくなるので、遠方からの参加者にとってありがたいサービスです

自然と生まれるゲームを通じた国際交流

まずはじめに断っておくと、筆者は今回も出場を画策していましたが、年末のバタバタで登録を忘れてしまったため、純粋な取材になりました。まあ、それが普通なんですが。

取材で足を運んだのは、すべてのタイトルの予選が行われる初日と、最終日の3日目です。基本的にEVO Japanは、申請さえすれば誰でも出られるオープン大会。ただ、『スマブラ』に関しては予想をはるかに超える参加希望者が出たため、3,000人を超えたところで募集締切です。『ストV』も1,400人の参加者を集め、トータル6,000人以上の選手が参加しました。

また、格闘ゲームのトーナメント以外にも、EVO Japanに協賛しているゲームメーカーや周辺機器メーカーなどがブースを構えており、物販や体験コーナーを用意。そのほか、会場にはBYOC(Bring Your Own Computer)エリアもあり、PS4やモバイルPCなどを持ち込んで、自由に野試合ができるスペースが用意されていました。

初日の予選はタイトルごとに時間を分けて進行しましたが、それでも参加人数に対して予選エリアが狭く、かなりキツキツの状態。最終日の3日目は予選エリア、サイドイベント、BYOCエリアがすべて客席になるので、3日間とも2ホールを借りる必要がないのはわかりますが、初日は2ホール借りたほうがよかったような気もします。もしくは、使用したホールの近くにある「国際会議場」の会議室を1室借りるだけでも余裕が出たでしょう。

  • タイトーブースでは『ストリートファイターVタイプアーケード』を展示。フリープレイできました

  • 『GUILTY GEAR -STRIVE-』の試遊台を置いていたアークシステムワークブース。クローズドβテストのコード配布もあり長蛇の列を作っていました

  • Razerのブース。アケコン「Panther EVO」を割引販売していました

  • ten/o x Attasaのブースでは、アケコンやその部品などを展示していました。写真はPS4を入れて持ち運べるモニター付きバッグ

  • 日産のブースではGT-Rを展示。アンケートへの回答でオリジナルグッズが当たるふくびきも実施していました

  • ももち選手へのスポンサーでお馴染みのVictrixのブース。アケコンを購入すると、写真のようにチョコブランカ選手が持っているアケコンのようにレーザー刻印をしてくれました

  • 予選会場は黒山の人だかり。参加者だけでもかなりの人がいたので、応援するスペースはあまりありませんでした

印象的だったのは、いわゆる野試合が活発に行われていたこと。ゲーミングPCを持参した知人のライターがBYOCエリアに対戦台としてPCを設置すると、まったく面識のない人たちから声をかけられ、自然と対戦が始まります。特に外国から訪れた人は物おじせず、気軽に声をかけてくるイメージがありました。ゲームを通じた国際交流ができるなど、eスポーツのよさを実感できるのもEVO Japanの魅力かもしれません。

  • 大会への申し込みは忘れてしまいましたが、今回はBYOCエリアでの野試合を楽しみました。左の人はスコットランドから来日したそうです

新キャラ「リロイ」に染まる『鉄拳7』ファイナル

さて、ここからは最終日の様子をレポートします。3日目に行われたのは、『鉄拳7』『スマブラ』『ストV』という3タイトルの決勝トーナメント。まずは『鉄拳7』からスタートしました。

決勝まで勝ち進んだのは、ウィナーズブラケットの、チクリン選手、Book選手、みきお選手と弦選手、ルーザーズブラケットのマサ選手、ノロマ選手、ゼウガル選手、Ulsan選手。注目したいのは、2冠がかかった世界チャンピオンのチクリン選手と、海外勢のUlsan選手とBook選手でしょう。特に、Ulsan選手は“鉄拳修羅の国”と呼ばれる韓国勢最後の1人なので、その行方が気になります。

ですが、大方の予想を裏切り、優勝はタイのBook選手。新キャラクターの「リロイ」を使って、圧倒的な強さを示しました。

  • 優勝したBook選手。賞金100万円が贈られました

ただ、今回の大会は、この新キャラクターリロイによって気を削がれたような気がします。なぜなら、大会参加者の多くがこのリロイを使用していたからです。

ファイナリストのなかでは、なんと8人中6人がリロイ使い。そのため、リロイ対リロイの対戦カードを何度も見かけました。もちろん、大会で勝つためには強いキャラクターを選ぶのは当然ですし、プロレベルで渡り合うためには練度を高めなければ結果は出せません。しかし、リロイに限っては、強いうえにお手軽さも際立ったのです。そのお手軽さは、ファイナリストに残ったノロマ選手が、リロイを使いはじめて1週間程度という話があるほど。いずれアップデートで弱体化するとは思いますが、それまで「リロイ無双」は続くでしょう。

また、弱体化についてチクリン選手は「一気にリロイが弱くなって、そのままの状態が続くのであればまだいいんですが、少しずつ弱くなるアップデートが続いて、最終的にかなり弱くなってしまうとしたら、このままリロイを使い続けていいものか考えてしまいますよね。身にならない練習を続けることになってしまいますので」と懸念していました。

  • ファイナリストのUlsan選手。以前から使用しているボブと一美を使い奮闘

  • 準優勝のみきお選手。一貫してジュリアを使い続け、リロイを倒し続ける姿に応援が集中していました

復刻ではない完全な新キャラクターなだけに、調整は難しかったと思いますが、これだけバランスが悪い状態は明らかに失敗。鉄拳ワールドツアーがスタートする前までには、いい調整どころを見いだしてほしいものです。

  • 『鉄拳7』ファイナリスト

桜井政博氏のサプライズに会場が湧いた『スマブラ』

次に行われたのは『スマブラ』です。ウィナーズブラケットには、コメ選手、てぃー選手、しゅーとん選手、ぱせりまん選手が残り、ルーザーズブラケットには、ザクレイ選手、ライト選手、KEN選手、shky選手が残りました。

『鉄拳7』とうってかわって、ファイナリストに残った8人はいずれも使用キャラクターが違い、バラエティに富んだファイナルに。優勝したのは「ピクミン&オリマー」を使用したしゅーとん選手。グランドファイナルでコメ選手を退け、無敗での優勝を決めました。

表彰式では、サプライズで『スマブラ』ディレクターの桜井政博氏が登壇。これには、来場者だけでなく選手も驚きの表情を隠せません。任天堂のゲームタイトルを用いたeスポーツイベントはありますが、会社としての任天堂の協力はこれまでなかなか得られていませんでした。それもあって、今後は任天堂がeスポーツに大きく関わってくる、または、そこまで行かなくても『スマブラ』に関してはこれまで以上の協力が得られる可能性があるかもしれない、と思わせるワンシーンだったと思います。

桜井氏は、ファイナリストに渋谷パルコの任天堂ストアの商品詰め合わせを手渡し、優勝したしゅーとん選手には特製のクラシックコントローラを手渡しました。

  • EVO Japan2020でもっとも騒然としたシーンのひとつ、桜井政博氏の登場

  • オープン当初、入場規制まであった渋谷パルコ「Nintendo Tokyo」のグッズの詰め合わせがファイナリストに手渡されました

  • 優勝したしゅーとん選手には、オリジナルクラシックコントローラーが贈られました

  • 『スマブラ』ファイナリスト

『ストV』は、若手の成長に“満開のさくら”

そして最後に『ストV』です。ウィナーズブラケットには、ナウマン選手、マゴ選手、sako選手、Infiltration選手が残り、ルーザーズブラケットにはNuckleDu選手、トラボ選手、板橋ザンギエフ選手、まちゃぼー選手が残りました。

海外勢の参加が少なかったこともあり、ファイナリスト8人中日本人が6人。注目は、ナウマン選手とトラボ選手でしょう。どちらも成長著しい若手です。中堅、ベテランの層が厚い『ストV』において、若手がファイナリストになるだけでも相当な健闘振りですが、その若手からナウマン選手が勝ち進み、みごと優勝。「さくら」という決して強豪ではないキャラクターを使い続けた結果が実を結んだ瞬間でした。まさに“さくらを咲かせた”戦いっぷりといえます。

印象的だったのは、優勝した瞬間、まちゃぼー選手と板橋ザンギエフ選手がステージにかけより抱きしめたシーン。ナウマン選手の努力が結果につながったことを自分のことのように喜んでいるようでした。

  • さくらを使って快進撃を見せたナウマン選手

  • 『ストV』ファイナリスト

  • 悲願の優勝を遂げたナウマン選手

「EVO Japan 2020」の決勝トーナメントは、いずれもドラマチックで感動を呼ぶ内容でした。来年の開催も期待しつつ、余韻に浸りたいと思います。