10月26日、27日に、バンダイナムコ未来研究所にて、鉄拳ワールドツアーの東京大会「Tokyo Tekken Masters 2019」が開催されました。鉄拳ワールドツアーは、年間を通して世界各国で27大会開催されているトーナメントシリーズ。日本での開催は2回のみであるうえに、今回は、12月に行われる決勝大会出場に必要なポイントを多く獲得できる「マスタークラス」の位置づけのため、日本在住のプレイヤーにとって重要度が高い大会です。
『鉄拳7』といえば、“鉄拳修羅の国”と呼ばれるほど、韓国に強豪プレイヤーが集中していることでも有名です。現在の鉄拳ワールドツアーのポイントランキングも、韓国勢が上位を占めており、1位のKnee選手、2位のLowHigh選手、4位のJDCR選手、9位のUlsan選手、10位のRangchu選手とトップ10に半分の5名の選手がランクインしています。
「Tokyo Tekken Masters 2018」でも、1位と2位は韓国勢。2019年も韓国勢が上位を占めると予想されていました。しかし、ふたを開けてみれば、優勝したのはパキスタンのAtif Butt選手。準優勝も同じくパキスタンのAwais Honey選手で、パキスタン勢のワンツーフィニッシュだったのです。
実力を示したパキスタン勢
『鉄拳7』のeスポーツシーンでは、今年に入ってから国際化が進んでいます。今回の大会には28の国と地域からの参加がありました。これを見ても『鉄拳7』が世界的にプレイされていることがわかるでしょう。
2019年2月に福岡で開催された「EVO Japan 2019」の鉄拳部門では、突如現れた無名のパキスタン人Arslan Ash選手が優勝。表彰コメントで「自分より強い選手がパキスタンには7人はいる」と話したことで鉄拳界に激震が走りましたが、今回の大会でそのコメントが事実であったと証明されました。しかも、今回優勝したAtif Butt選手はパキスタンの地元ランキングでは17位。まだ見ぬ強豪の存在を示しています。
また、今回の大会では、ファイナリストの8名のなかに韓国勢がいなかったのが印象的でした。パキスタン勢の躍進もあり、韓国勢の力が落ちたようにも感じますが、先述したとおり、ランキングではまだまだ韓国勢の力の高さは証明されています。おそらく、世界的にレベルが上がり、各国の実力が拮抗してきたのでしょう。
日本勢も成長を見せています。今回のTokyo Tekken Mastersでも優勝は逃したものの、ファイナリストには、ウイナーズサイドの破壊王選手、チクリン選手、ルーザーズサイドのノビ選手、ダブル選手、ゲン選手と5名が名を連ねました。2018年は、ファイナリストに残れたのがダブル選手だけだったことを考えると、まさに大躍進。鉄拳ワールドツアーのポイント算出方法が今年から変わり、韓国人選手が数名参加していない事情があるものの、確実に日本勢も着々と力を付けているといえます。
パキスタンの勢いは今後も続くとは思われますが、日本勢がまったく敵わないかというと、そうでもないと考えます。試合後、ダブル選手に話を聞いたところ「日本ではレアキャラの豪鬼対策ができていませんでした」と答えていたように、キャラクターや選手の情報が少ないなかでの対戦だったわけです。
何度も同じ選手と対戦する可能性があるワールドツアーでは、キャラ対策やプレイヤー対策が進んでいきます。実際、ルーザーズファイナルでは、チクリン選手がAwais Honey選手から1セット勝ち取っていますし、歯が立たない印象ではありませんでした。
もちろん、パキスタン勢が「初見殺し」で勝ち上がったわけではなく、実力を兼ね備えたうえでの結果であることは、Arslan Ash選手によって証明はされています。今後は、パキスタン勢の対策も生まれるでしょうし、お互いを知り尽くしたうえでどのような対戦になるのか楽しみです。
鉄拳はライセンス取得が難しいタイトルの1つ
今回の大会は、JeSUのプロライセンスを獲得する資格のある大会でもありました。ベスト8のファイナリストになれば、プロライセンスが獲得できます。そんな状況のなか、「あと1回勝てばプロライセンス取得」のベスト16まで勝ち進んだ選手が2人いました。
1人は新進の「はずれメタル選手」で、もう1人はベテランの「影丸選手」です。どちらもライセンスをかけた試合の相手が日本人プロ選手。はずれメタル選手はノビ選手と、影丸選手はダブル選手との対戦でした。
結果的には、どちらもプロ選手が意地を見せて、勝利をおさめます。新たなプロ選手の誕生はなりませんでした。JeSUのプロライセンスのなかでも『鉄拳7』は取得のハードルが高いタイトルの1つ。現在でも14名しかプロ選手はいません。はずれメタル選手と影丸選手は、実力的にはプロであってもおかしくないとは思いますが、それでも簡単にプロ選手になれないのが、『鉄拳7』のプロライセンスの重みになっているのではないでしょうか。
今回の大会は、より国際的になった『鉄拳7』や、パキスタン勢の強さ、プロライセンスのハードルの高さなど、さまざまなドラマがありました。ただ、1つ気になることがあるとすれば「会場」です。
2018年はバンダイナムコ未来研究所のカフェエリアを使い大会を開催していました。今年はベスト64まで同じカフェエリアで、ベスト32以降はミーティングルームを使用しています。ミーティングルームはシアター型の会議室で常設の座席があり、カフェエリアよりもeスポーツイベントを行うには良い環境でしたが、それでも観客が大挙して入れる座席数はありませんでした。
実際、参加者以外の観客は少なく、興行的な側面はほぼなかったように見受けました。せっかく、eスポーツとして見どころのある大会だっただけに、配信の視聴がメインとなってしまい、現場での興奮を感じ取れないのは、いささかもったいない気がします。
『鉄拳7』は、eスポーツとしては数少ない国産の世界的タイトル。Tokyo Tekken Mastersは、2回しかない日本開催の1つでもあるので、2020年の大会はもう少し大きな規模の、観客が訪れやすい会場で開催してほしいところです。