パナソニックから9月1日に発売された、卓上型食器洗い乾燥機の新製品「NP-TZ300」。ステイホームの新習慣で需要が高まっている食洗機市場において、魔法びんメーカー・サーモスと業界の垣根を越えて手を組み、開発を行った新機能を搭載した。

本稿では、異なる業界とのコラボレーションに至った背景と経緯、開発秘話など、協業にまつわる話を中心に両社の担当者に伺った。

  • 9月1日発売のパナソニックの卓上食器洗い乾燥機「NP-TZ300」とサーモスの食洗機対応マイボトル「真空断熱 ケータイマグ(JOKー350/500)」

    9月1日発売のパナソニックの卓上食器洗い乾燥機「NP-TZ300」とサーモスの食洗機対応マイボトル「真空断熱 ケータイマグ(JOKー350/500)」

パナソニックの調査によると、手洗いしにくい食器として上位に挙げられるのが、水筒やマイボトルやタンブラーなど長筒形状の食器類。しかも、市場にはこれまで食洗機対応をうたう商品がほとんど存在していなかったという。これを実現するために、今回、パナソニックでは魔法びんメーカーで業界大手のサーモスと手を組み、製品開発を行った。

サーモス マーケティング部 商品戦略室企画課 企画第1グループの柏原雄樹氏によると、食洗機対応のボトルやタンブラーがなかった理由にはおもに2つ。

「1つ目は、熱によってボトルの塗装がはげてしまうためです。そしてもう1つは、プラスチック樹脂の部分が熱によって変形するおそれがあるためです。変形すると中の飲料が漏れてしまう原因にもなります」

  • サーモス マーケティング部 商品戦略室企画課 企画第1グループの柏原雄樹氏

    サーモス マーケティング部 商品戦略室企画課 企画第1グループの柏原雄樹氏

一方で、食洗機メーカーであるパナソニック側も課題を抱えていた。パナソニック キッチン空間事業部 冷蔵庫・食洗機ビジネスユニット 商品企画部食洗機商品企画課の山田恭平氏は次のように明かす。

「手洗いがしにくいとされるタンブラーやマイボトルを食洗機で洗えるようにするために、庫内にボトルホルダーの機能を付けたとしても、対応している製品がなければ意味がないと悩んでいました」

食洗機自体の普及率が伸び悩んでいる中で、一メーカーとしてもボトルへの対応というのはずっと持ち続けていた課題でもあった。山田氏は、「従来の洗浄力といった基本的な価値だけの訴求ではなくて、新しい視点で食洗機に興味を持ってもらうためのきっかけを作らなければならないという思いから、マイボトルと食洗機の掛け合わせを考えるに至り、サーモスさんにお声がけさせていただいた次第です」と経緯を説明した。

  • パナソニック キッチン空間事業部 冷蔵庫・食洗機ビジネスユニット 商品企画部食洗機商品企画課・山田恭平氏

    パナソニック キッチン空間事業部 冷蔵庫・食洗機ビジネスユニット 商品企画部食洗機商品企画課・山田恭平氏

サーモス側でも、実は以前から食洗機対応ボトルの発売を水面下では検討していたという。サーモス 技術部研究開発課の岩井寿倫氏によると、「もともと弊社内でも食洗機対応という需要はあるだろうと思ってはいました」とのこと。「ただ、弊社には食洗機についてのノウハウがなく、中まできれいに洗えるのだろうか? という懸念などもあって、着手できずにいたところに、パナソニックさんからちょうどいいお話をいただいたという状況でした」と続けた。

“お客様の困りごとを解決したい”という両社に共通する想いが合致し、2019年5月からプロジェクトがスタート。ところが、初期の段階で実は一度暗礁に乗り上げそうになった。

「パナソニックとしては2020年の商品として企画・考案し、進めようとしていたのですが、サーモスさんの通常の開発・製造・販売スケジュールからすると、イレギュラーなタイミングとのことでした。そのため、時期的な問題で当初は難しいという判断だったところを、弊社が猛アタックして、なんとか予定通りの発売にこぎつけました」と、パナソニックの山田氏は笑いながら語った。

  • パナソニックとサーモスが協業して開発したマイボトルをセットした食洗機庫内

    パナソニックとサーモスが協業して開発したマイボトルをセットした食洗機庫内

こうして、紆余曲折を経ながらも、異なる業界のメーカー2社が手を組んで誕生した協業開発商品として、9月1日にそろって発売された食洗機とマイボトル。製品開発を始める際には、まずは「どうやったら“食洗機対応”と言えるのか?」というところからの議論と模索だったそうだ。

今回の前編では、パナソニックとサーモスが共同で「ステンレスボトルを食洗機で洗うことに挑む」に至った背景や経緯について語ってもらった。次回後編では、その具体的な取り組みと意義についての話を紹介したい。