パナソニックが9月1日に発売した卓上型食器洗い乾燥機の新製品「NP-TZ300」。同日発売されたサーモスのステンレスボトルと合わせて、両社史上初めて「食洗機対応」をうたった製品だ。

異なる業界の2社が手を組み、製品開発を行うに至った背景や経緯について伺った前編に続き、後編では、その具体的な開発内容やプロセス、協業による意義について語ってもらった。

  • 9月1日発売のパナソニックの卓上型食器洗い乾燥機の新製品「NP-TZ300」

    9月1日発売のパナソニックの卓上型食器洗い乾燥機の新製品「NP-TZ300」。従来からスタイリッシュな外観が好評を博していたが、さらなる普及拡大を図るため異業界であるサーモスと手を組み、「マイボトルを洗える」食洗機の開発に挑んだ

「どうしたら“食洗機対応”と言えるのか?」という原点に立ち返った議論からスタートした、2社による共同開発。サーモス側では、まずは熱への耐性を持たせる対応が行われた。検討の結果、2つの部分の素材変更に着手。サーモス マーケティング部 商品戦略室企画課企画第1グループの柏原雄樹氏はこう説明する。

「1つ目がせん(栓)ユニットの上部と横の部分、飲み口の部分。この部分にガラス素材を配合することで、熱による変形の抑制に対応しました。2つ目は、本体部分の塗装の材料。塗装のはげを防ぐために、塗料を従来のアクリル樹脂からポリエステル樹脂に変更しました」

  • せんユニットの試作品。上部とサイド、飲み口部分にガラス素材を配合し、熱による変形を抑える処理が施された

    せんユニットの試作品。上部とサイド、飲み口部分にガラス素材を配合し、熱による変形を抑える処理が施された

サーモス 技術部研究開発課の岩井寿倫氏によると、「塗装のはがれは、塗料の間に水が浸入することで起きやすくなる」傾向があるという。

「塗装を厚くしやすいという特徴を持つポリエステル樹脂を採用し、従来はプリントで印字していたサーモスのロゴ部分や底に貼付するラベルも、レーザーで焼き付ける処理を施しました」(岩井氏)

  • 未塗装状態のステンレスボトル

    未塗装状態のステンレスボトル

  • 食洗機で洗うことによって、塗料の間に水が浸入して発生しやすくなる塗装のはげを防ぐために、塗料の変更が検討された

    初期の塗装サンプル。食洗機で洗うことによって、塗料の間に水が浸入して発生しやすくなる塗装のはげを防ぐために、塗料の変更が検討された

パナソニック側では、食洗機内に設置する「ボトルホルダー」の形状設計に取り組んだ。下カゴの部分にボトルホルダーを3つ備え、それぞれ直径75ミリまでのボトルやグラスに対応する。

ボトルホルダーは2段階のサイズ調整を備え、細いグラスでも安定してセットできる。また、それぞれに独立して取り付けられているため、使わないホルダーは折り畳んで収納可能。パッキンなど取り外したパーツは、2年前のモデルから搭載されている上段の「ちょこっとホルダー」にセットして同時に洗える。

  • 新開発の「ボトルホルダー」を増設。直径75ミリまでのボトルやグラスを固定してセットでき、3つのうち使わないホルダーは折り畳んで収納しておける

    新開発の「ボトルホルダー」を増設。直径75ミリまでのボトルやグラスを固定してセットでき、3つのうち使わないホルダーは折り畳んで収納しておける

  • ボトルから取り外したパッキンなどのパーツ類は、上段の「ちょこっとホルダー」にセットして洗える

    ボトルから取り外したパッキンなどのパーツ類は、上段の「ちょこっとホルダー」にセットして洗える

2社それぞれがハード的な仕様や設計を変更し、次の段階では、食洗機とボトルを実際に用いた洗浄性能の検証や耐久試験が共同で行われた。

その過程を、食洗機の機構・設計などを担当したパナソニック キッチン空間事業部 冷蔵庫・食洗機ビジネスユニット 食洗機技術部コンパクト商品設計課の佐藤百合菜氏は次のように振り返った。

  • パナソニック キッチン空間事業部 冷蔵庫・食洗機ビジネスユニット 食洗機技術部コンパクト商品設計課の佐藤百合菜氏。食洗機の機構・設計など技術的な部分を主に担当した

    パナソニック キッチン空間事業部 冷蔵庫・食洗機ビジネスユニット 食洗機技術部コンパクト商品設計課の佐藤百合菜氏。食洗機の機構・設計など技術的な部分を主に担当した

「まずは、洗いやすいポジションについて検討しました。ボトルの内部をしっかりと洗うには、下から水が十分に入らなければ奥まで洗うことができません。そのため、ボトルの口にノズルの噴射水がしっかりと当たる位置にセットする必要があるのですが、庫内に別の食器と一緒にセットしたとき、長いボトルが手前側にあると他の食器を洗浄する際の邪魔になり、ボトルが傾いたりすることでガラス製の食器が割れたりするおそれがあります」

解決法がすぐに見つかったわけではなく、試行錯誤の連続だったという。

「出し入れのしやすさを考えて、まずはボトルは手前側にセットするように設計したのですが、別の食器との折り合いをつけるのに苦労しました。ボトルを根元のバー部分で固定して傾かないようにして、洗浄中にボトルの口が外側に向かないようにしました。その後も、ボトルの口の向きや位置を変えてみるなど、あらゆるパターンをシミュレーションし、繰り返し検証して細かく確認を行いました」

  • セットしたボトルがキレイに洗えることはもちろん、同時にセットした他の食器類もきちんと洗えることが絶対条件。上下段ともカゴのレイアウトにも工夫と検証を重ねた

パナソニック キッチン空間事業部 冷蔵庫・食洗機ビジネスユニット 商品企画部食洗機商品企画課の山田恭平氏によると、「カゴが引き出し式のため、引き出すときにボトルやタンブラーが倒れたりすることもあり、その検証も必要でした」とのこと。

その過程について、食洗機の機構・設計を担当したパナソニック・佐藤氏は、「操作性の確認や洗浄試験においても、ボトルやタンブラーについて、サーモスさんから情報を提供してもらったことでスムーズな開発につながりました」と共同開発の意義を語った。

たとえボトルやタンブラーをきれいにする洗浄力が担保できたとしても、一緒に洗う他の食器に対して洗浄能力を落とすわけにはいかない。しかし、ボトルホルダーを1本ずつ使える仕様がそのハードルを上げた。

「ボトルホルダーは使うか使わないかを選べる仕様になっているのですが、食洗機のサイズそのものを大きくすることは避けたかったので、限られたサイズの中で、使い勝手の良さと性能を両立させるのが難しかったです」(佐藤氏)

一方、サーモスの岩井氏も、異なる業界のメーカーが協業したことによる、新たな気付きや効果について、次のような点を挙げた。

「『サーモスのボトルは食洗機対応じゃないですよ』と言ってきたこともあり、これまで食洗機のことはあまり考えていませんでした。たとえば製品の形状とかサイズは、ボトルが持ち運びしやすいか、食器棚に収まるかといったことを検討していました。

それが今回、開発陣の側に『食洗機に入り、洗えるか』という新たな視点が加わりました。耐久性の試験に関しても、1回洗浄するのに約80分かかるので、当時は1年後の発売に向けて評価するだけでもかなり厳しいのではと思っていましたが、パナソニックさんの知見のもと、協業でスピーディーに実現できたと思っています」

  • サーモス 技術部研究開発課の岩井寿倫氏。ステンレスボトルの設計・素材など主に技術的な部分を担当した

    サーモス 技術部研究開発課の岩井寿倫氏。ステンレスボトルの設計・素材など主に技術的な部分を担当した

これに対し、パナソニックの佐藤氏は「試験中にサーモスさんから聞かれたことの中で印象に残っているのは、『せんユニットを取り外さずに洗ったらどうなるの?』という質問でした」と話す。

「パナソニックとしては、あくまでせんユニットを取り外した状態で洗うことを前提に考えていました。ですが実際には、毎回取り外して洗わない人もいるのではないかというのは、お客さま視点を考えたら検証しておくべきことですよね。そういった視点を常に持たれているのは、さすがボトルメーカーさんだなと思いました。それから、洗浄される食器側の塗装の評価というのはこれまでしたことがなかったので、その評価のお手伝いをしたことがとても勉強になりました」と振り返った。

パナソニックの山田氏も、「世の中に食洗機対応のボトルというのがあまりない。でも、手では洗いにくいし、食洗機で洗えたらいいな……というところから、『世の中にないからこそ作りましょう』という発想で今回の製品は生まれました。サーモスさんとの協業によって、パナソニックだけでは難しかったことが実現できたことは、世の中になかったものを作り出せる成功事例として、今後も大いに活用できそうです」と、業界の垣根を超えた今回の取り組みの意義を強調し、製品開発における今後の意気込みを語ってくれた。

食洗機メーカーとしても、魔法びんメーカーとしても、どちらも長年課題と認識しながら、1社の努力では実現できずにいた「食洗機で洗えるステンレスボトル」。パナソニックとサーモスがともに取り組む中で、1業界・1メーカーだけでは見えてこなかった新たな視点を開くことにもつながり、期待以上の効果だったようだ。

企業間の“協創”の重要性が叫ばれる昨今、その好例としても注目に値するのではないだろうか。

  • 「NP-TZ300」の操作・表示部分。従来機種と同様に、キッチンに置いたときのデザイン性やインテリア性を意識。合わせて、わかりやすさと使いやすさを両立させたインタフェースデザインを採用している

    「NP-TZ300」の操作・表示部分。従来機種と同様に、キッチンに置いたときのデザイン性やインテリア性を意識。合わせて、わかりやすさと使いやすさを両立させたインタフェースデザインを採用している