バルミューダから今春発売された「BALMUDA The Pure」(以下、The Pure)。2013年に発売された「AirEngine」以来となる、同社の空気清浄機の新モデルだ。
常にベストな形で、“完成品”として製品を世に送り出すことをポリシーとして掲げてきた同社だが、およそ6年ぶりに同一カテゴリーの製品をあえて新製品として発売した。その意図とこだわりを、前モデルにはない新たな要素に注目して、企画・デザイン・設計の3名の責任者に伺った。
空清に“光”を取り入れた理由
ほぼ同じ本体サイズで、タワー型を採用していながら、The Pureの佇まいはAirEngine以上に洗練されている。例えば同じ白を基調としていながらも、よりシンプルでムダのないデザインで、部屋のインテリアの邪魔をしない。それでありながらも、部屋の中で存在感を示す絶妙なデザインだ。
その大きな要因として、デザインの一部として“光”を取り入れた点が挙げられるだろう。The Pureは、吸気と流路の部分に白色LEDを採用し、本体から漏れ出る青白い光がデザインの一部になっているとともに、空気清浄力の強さを明るさによって表現する仕組みだ。これはライティングによる演出的要素というよりも、むしろ空気清浄機の作用感を視覚化的に示すためのデザイン要素の1つだという。
「AirEngineは、性能もよく、消費者からはその面でも好評でした。しかし、他方で実際に機能しているかどうか実感しづらいという声もありました」と坂元氏。
高野氏は「空気清浄機がしっかりと作用していることをわかりやすく感じてもらうための"ユーザー体験"の方法として、この手法を採用しました。空気がこの"光の柱"を通ることで、部屋の空気が清浄されていくことを体感してもらおうというものなんです」とその意図を説明した。
続けて、「作用感を出すために何ができるかというのをとにかく突き詰めていきました。でも足し算のようになっていってしまい、あるところで過剰かもしれないとなりました。そこで一度本質的なところに立ち返り、どういう光であればちゃんと吸ってる感が出るのか、設計とソフトチームのプログラマーと一緒に何十パターンと作って、弊社社長の寺尾と確認して決めていき、社内で検証を重ねました。光らせ方そのものだけでなく、光が手前に迫ってくるような印象になるよう、光がキレイに見えるような面のハリだとか、開口部の質感といった部分など、少しでも自然に感じられる美しさを追求しました」と振り返る。
吸引口の開口部からビームのように漏れ出る光。やりすぎでない、最適なバランスになるようにいくつものパターンを作って実験されたという
デザイン意匠として、もう1つ大事にされたのが、操作性やユーザーインタフェースだ。The Pureの操作ボタンはシンプルなアイコン状の3つのボタンに集約され、ジェットクリーニングボタンなどデザイン部分も、AirEngineからほぼそのまま引き継がれている。ユーザーに親しまれた要素は大事にしたいという思いからだ。
バルミューダの製品は「音もUIの一部」
また、昨今のバルミューダの製品と言えば、“音”へのこだわりも挙げられる。本製品でモチーフとなったのは、“飛行機”だ。風量の切り替えボタンを押すと、航空機内のシートベルト着用サインの音に似た効果音が鳴る。高野氏は、この音が採用された経緯を次のように明かした。
「BALMUDA The Toaster以降から、弊社では音も体験とかUIの一部として捉えようということになりました。そこで、The Pureでは、航空機とかそういう場所に感じる音、緊張感、透明感のある音というのが検討されました。ピアノの音も鳴らしてはみたのですが、風が出て来る道具ということで、楽器の音というのはやりすぎ感があり、印象が違うかなということで、最終的にこの音が採用されました」
だが、空気清浄機というのはそもそも風を発生させる装置。風切り音などの雑音が発生する中での音の再現は簡単なことではなかったという。岡山氏は、半ば笑い話のように次のように話してくれた。
「ポーンというこの音自体がすごく振動しやすいので、録音したそのままの音では震えていたり、製品自体と共鳴してしまったり、動作時と停止時で音の聞こえ方も違いました。音は3種類あるんですが、どうしても周波数で振動しやすい音があり、音の大きさとか響き方を、エンジニアが聞きながらチューニングをして、1~2ヶ月もの間ひたすら何回も試作をして決まりました。The Pureは操作パネルの下にスピーカーも搭載しているんですよ。そんな空気清浄機なんて他にはないですよね(笑)」
パット見はシンプルでアナログっぽくもあるのに、中身はギミック満載で、それを実現する技術力の高さに毎回驚かされるバルミューダの製品。今回のThe Pureもその期待を裏切らない以上に、想像を上回る中身の"濃さ"が詰まった、"マニア心"をくすぐる製品である。それでいて、そうとは感じさせない、"さりげないカッコよさ"がまた心憎く、バルミューダファンをまた熱くさせてしまうのだろう。