三菱電機から10月1日に発売された、コードレススティッククリーナー「ZUBAQ(ズバキュー)」。部屋に出しておいても違和感のないデザインで、思い立った時にすぐに使える“小掃除”の習慣を叶える商品だ。まさに、新たなライフスタイルを提供してくれると言ってもいいだろう。

製品化への背景や開発経緯を中心に紹介した前回に続き、後編では製品化に至るまでの具体的な苦労話や、課題に対する克服方法について聞いていく。

  • ZUBAQ誕生の秘話を伺った、三菱電機ホーム機器 営業部 家電営業課の丁子裕樹氏(右)と、三菱電機 デザイン研究所 ホームシステムデザイン部の志村嶺氏(左)

デザイナーに課せられた使命

前編で紹介したとおり、本製品は充電台からの取り出し方によって、ワンアクションでスティック型とハンディ型を切り替えられるという、これまでにはなかった形の掃除機だ。実際にそのスタイルを実現するには、同社の安全基準に加え、「倒れないけれど外しやすい」機構の実現など、思い描いていた以上に乗り越えるべきハードルがあったという。

  • 10月1日発売の三菱電機の「ZUBAQ」。充電台からの取り出し方によって、スティッククリーナーとハンディクリーナーの2通りに変化するコードレスタイプの掃除機。およそ掃除機とは想像がつかない、生活感のないスタイリッシュなデザインで、部屋に出しておき、いつでもサッと使える機動力のよさも魅力だ

一方、デザイナー側に課せられた使命は、家具のように部屋に溶けこみ、かつ前機種であるiNSTICKらしさを踏襲したデザインを生み出すこと。志村氏はデザインプロセスについて次のように語った。

「iNSTICKに比べて、同じ円筒のスティック型でもモーターが小型なので、本体の径を小さくすることができました。一方、ファンがないため、デザインの要素が大きく変わっています。(iNSTICKでは搭載されていた)空清用のフィルターの性能を確保するためには一定の断面積が必要でしたが、今回の商品では(空清を搭載しないため)、まずは軽く見えて軽く使えるために、iNSTICKから何を受け継ぎ、何を変えるかからというところから検討してきました」

志村氏によると、ZUBAQをデザインするにあたって最大の難所は、"表裏"のデザインだった。というのも、ワンアクションでスティック、ハンディ用として取り出せる機構を採用した今回の充電台は、掃除機本体をセットすると、従来は裏側だった面が、収納時には表に出てくる。「使用上の注意など本体に表記しなければならない要素などもあり、それを満たしながらインテリアとして部屋に映えるものをデザインする必要がありました」とも語る。

  • スタンドにセットした状態だと、パッと見は掃除機とはわからないデザイン。正面から見ると細身で圧迫感がなく、さりげなく部屋に出しておける

  • スタンドは充電台を兼ねており、サイドにハンディ掃除機用の取り付けパーツもセットしておける設計に

さらに、掃除機として使いやすい“軽さ”を同時に満たす必要もある。本製品はハンドル部分がループ状になっているのも特徴だが、この構造を採用したことにより、ユーザーが自由に持ちやすい位置を握ることができ、ハンディとして使用する際も、スティック掃除機として使用する際も、快適に掃除ができるようになったという。

また、ブラウンとシャインブロンズのツートンカラーを基調にしたカラーリングは、ブラウンの部分が軽量のカーボン素材。「2パートに分けたことが、機能性とデザイン性の両面に生きた」と話す。

  • モーターやサイクロン部、ダストボックスといった掃除機の要となる部分が、表側に配置されているのがユニークな特長。それらは裏側に装備するのが一般的だが、充電スタンドにセットした際に表裏が逆転することからこの配置になった

  • 本体の重心部が表側になったことにより、このようにヘッドブラシ+パイプを床面に這わせた状態でも掃除しやすくなり、図らずも機能強化となったという

  • ハンドル部分をラウンド形状にすることで、ハンディクリーナーとして使用する際も、ユーザーが持ちやすい場所を握って快適に掃除できる

カラー展開は1色のみだが、もちろん製品化前の段階ではさまざまな色が検討されたという。

「実際はもっといろんな色を検討したのですが、部屋に出しておくことが前提の商品なので、万能な色で高級感があり、ある程度の存在感もあるということで、この1色が選ばれました」と丁子氏。志村氏は「ベースとして意識したのは木目のブラウン。ほどほどに存在感があり、光の反射や部屋の明るさなどでも印象が変わるので、空間に調和しやすい色と質感を選びました」と明かす。

  • ラウンド形状のハンドル部分は、そのままスタンド設置時のデザイン意匠にも。アルファベットの「Q」をイメージさせる形状で、ZUBAQという商品名にもつながった

掃除機で「吹き付ける」機能も

本製品には、密かに“エアブロー”というユニークな機能も搭載されている。吸い込むのではなく、キレイな排気を利用してゴミを吹き飛ばす機能だ。同社のキャニスター型掃除機「風神」にも既に採用されているものだが、「コードレスであることによって活用できるシーンや領域がさらに大きく広がる」という理由から、ZUBAQにも採用されたとのこと。

しかし、通常時の排気口にアタッチメントを接続することでブローが可能になる従来の設計をハンディクリーナーに応用する上で、そのままだと排気がユーザーの身体に当たって不快だったり、掃除している周囲の床に当たって埃を舞い上げてしまったりする問題があり、排気口の配置に工夫が必要だった。「ZUBAQでは、そうしたデメリットを抑えながらも、ブローの操作性を両立できるように、排気口とブローの接続部の構造を見直しています」と丁子氏。

  • “エアブロー”機能。クリーンな排気を利用してゴミを吹き飛ばす機能で、キャニスター掃除機で採用された後、ZUBAQにも搭載された

また、“エアブロー”は特徴的な機能である一方で、多くの方にとってはまだ馴染みのない機能でもある。簡単に使えなければメリットや使いどころが伝わらず、“宝の持ち腐れ”と化してしまう。そこで、「隙間ブラシと同様に、アタッチメントをワンタッチの動作で装着できるようにデザインすることで、サッと利用できるように設計しました」と語る。

確かに、ZUBAQはこれまでになかったまったく新しい形の掃除機でありながら、部屋に置いてあるとパッと見は掃除機とはわからないくらいに"秘密兵器"的なデザインだ。その“奇想天外”さに、多くのユーザーが初めは戸惑い、「どう使っていいのかわからない」というジレンマを抱えている商品と言ってもいいかもしれない。

そのために、難所を隠しつつも、製品の使い方・接し方は"チラ見せ"しなければならないという、多くの意味でチャレンジを感じる商品と言えよう。