三菱電機から10月1日に発売された、コードレススティッククリーナーの新製品「ZUBAQ(ズバキュー)」。2015年に発売された「iNSTICK(インスティック)」と同じシリーズの1ラインアップという位置づけだが、見た目も機構も機能も、その様相は大きく異なる。

  • 新製品「ZUBAQ」の開発・デザインを担当した、三菱電機ホーム機器 営業部 家電営業課の丁子裕樹氏(右)と三菱電機 デザイン研究所 ホームシステムデザイン部の志村嶺氏(左)

そこで今回は、開発・デザインを担当した、三菱電機ホーム機器 営業部 家電営業課の丁子裕樹氏と三菱電機 デザイン研究所 ホームシステムデザイン部の志村嶺氏に、プロダクトデザインを切り口として、知られざるエピソードや秘められたこだわりなど、製品化に至るまでの舞台裏を伺った。本稿は前・後編に分けてお届けする。

1台で“2つの掃除機”に

iNSTICKと言えば、スティッククリーナーに空気清浄機を一体型させた商品。いつでも気軽に使えるよう、部屋に出しっぱなしにしておけることをコンセプトとして、インテリアとしても違和感のないデザイン性にこだわった掃除機として注目を集めた。

部屋に常設しておくのだから、ついでに空気清浄機としても機能できれば“一石二鳥”になるという発想そのものにも斬新さを覚えた。

  • 三菱電機が2015年から展開している「iNSTICK」シリーズ第一弾製品。スティック、ハンディ両用のクリーナーにプラスして空気清浄機としての機能も備えた商品だ

ところが今回、iNSTICKシリーズの新たなラインアップとして加わったZUBAQは、前例のようにカテゴリーをまたがって“一台で○役”となる多機能型の方向性とは異なり、機能はあくまで掃除機に絞られている。他にはない新規性というところでは、使い方の“スタイル”だ。

スティッククリーナーは、フロア掃除用の縦型掃除機としてもハンディ掃除機としても、2ウェイで使用できるのが一般的だ。それは通常、パーツの取り外しや付け替えによって実現する。

ZUBAQの場合、それがワンアクションで行える。スタンドに設置された状態から、本体を引き出す方向や方法で、それぞれのスタイルに変身するのだ。具体的には本体を手前に引くことでスティッククリーナーに、垂直方向に持ち上げることで、ヘッドが接続されているパイプ部分と分離して、ハンディクリーナーになる。

  • ZUBAQの訴求ポイントの1つが、スティッククリーナーとハンディクリーナーをワンアクションで切り替えられること。スティッククリーナーとして使用する際には、充電台からハンドルをそのまま手前に引いて取り出す

  • ハンディクリーナーとして使用する時には、ハンドルを垂直方向に真っ直ぐ引き上げる。パイプが根元から分離され、スティッククリーナー用のパーツがそのまま外れる仕組みだ

従来のiNSTICKとはまったく別物の新たなスタイルに行き当たった経緯や背景を、丁子氏は次のように語った。

「激戦区の市場の中で、単なるスティック型の形態ではお客様に選んでいただくのは難しいだろうと思っていました。iNSTICKは、“部屋に出しておける”が初代のコンセプト。そこで、一台で何通りにも使えるという方向性でなく、それを活かせる何か別の形を模索した結果、出しておける形態からすぐ掃除モードに入ることができるということをコンセプトに方向性を探りました」

シリーズ第一弾となったiNSTICKは、2015年に発売された。実はZUBAQの開発はその発売に先んじて、2014年ごろから始まっていた。ある程度の形になるまでに2年ほどを要し、第一弾のiNSTICKが世に出た後は、その市場評価のフィードバックを受けてブラッシュアップを繰り返した。

「(iNSTICKの)市場の反応は、空気清浄機付きというのがやはりキャッチ―で注目されましたが、イロモノ的な見方も多かったです。しかし、弊社としてはあくまで掃除機としての機能も追求し、吸引力という基本性能にも忠実でありたいと考えました。(ZUBAQでは)軽くてよく吸うという大きなコンセプトを掲げて、JCモーターという新しいモーターを採用するなど、軽さと吸引力というトレードオフの関係にある2つの要素を両立させるべく力を注ぎました」と丁子氏。

  • 新開発のJCモーター(左)。従来のものに比べて性能を下げることなく、かなり小型化されている

正統派で終わらない外装デザイン

これと並行して行われていたのが外装デザインだ。デザイナーの志村氏によると、デザイン、エンジニア、営業の担当者が早い段階からプロジェクトに関わり、共同で検討が行われたという。

「どういうものを作ろうかという段階から、本体の中に新開発のモーターや最新のバッテリーを使うことで性能を向上させつつ、できる限り小型、軽量化するという制約のある中でのデザインだったので、想像以上に大変でした」と志村氏は振り返った。

部屋に常設しておけるインテリア性という点で、iNSTICKのコンセプトを受け継いでおり、外観のみならず、アクションも含めてとてもスタイリッシュに仕上げられている。前回とはまったく違ったアプローチの新商品の企画・開発の背景や経緯について、丁子氏は「使い勝手の部分は、スタンダードなコードレススティックにして“正統派”でいけば一定のパイが取れるとは思いますが、そこだけでは終わらない。取り出す際のモーションにもこだわることにしました」と語る。

家具のようにインテリアとしても映え、出しっぱなしにしておくことができ、いつでもサッと使えることをコンセプトに生まれた、三菱電機のコードレススティッククリーナー「iNSTICK」シリーズ。その第2弾商品として登場した新製品「ZUBAQ」について、前編では、充電台の取り出し方の違いによって、ワンアクションでスティッククリーナーとハンディクリーナーに切り替わるというユニークな機構に至った経緯やバックグランドについて伺った。

後編の次回は、その機構を実現するにあたって、行き当たった壁や苦悩したエピソードを中心に紹介したい。