日立グローバルライフソリューションズの「Chiiil(チール)」は、クラウドファンディングサイト「GREEN FUNDING」を活用した先行予約(2021年12月27日~2022年3月27日に実施)で好評だった冷蔵庫。目標とした100万円の7倍以上となる、約728万円の支援を集めた。
これまでの冷蔵庫にはない設置の自由度やインテリア性で話題となり、2022年4月下旬から一般販売されている。今回は、Chiiilについて商品企画とデザインの双方から語ってもらった。
多様なライフスタイルにフィットするミニ冷蔵庫
Chiiilの開発経緯について、商品企画を担当したホームソリューション事業部 商品戦略本部 商品企画部の小川真申氏はこう話した。
「生活スタイルの多様化が進む近年の社会背景を受け、新しい冷蔵庫のあり方を提案するChiiilのアイディアは、コロナ以前からありました。それがコロナ禍になり、さらに生活の変化が加速していく状況を受けて具体的に製品化する機運が高まり、発売に至りました」(小川氏)
働き方やライフスタイルの変化によって、自宅で過ごす時間が増えている昨今。Chiiilは「冷蔵庫の新しいあり方の提案」をコンセプトに掲げている。
Chiiilという名称は、「冷やす、くつろぐ」を意味する「Chill」と、生活スタイルや好みによって自由に使うさまざまな人をイメージした「iii」を組み合わせたものだ。
Chiiilの特筆すべき点として、まずは本体サイズが挙げられる。冷蔵庫では少数派のコンパクトな寸法(幅55.9×高さ75×奥行き42センチ)だ。
「『キッチン以外のさまざまな場所に置きたい』と思っていただくためには、どういった要素が備わっていなければならないか。それが検討の出発点となり、製品のサイズ感やカラーバリエーションといった仕様を具体化していきました」と小川氏。
つまり、冷蔵庫の新しいあり方として、リビングや寝室、ダイニング、ワークスペースなどで使われることを意識したサイズと言っていい。
しかし、コンパクトさが大切とはいえ、冷蔵庫にはある程度の容量が必要不可欠だ。小川氏は、「Chiiilはコンセプト上、設置のしやすさが重要でした。できるだけコンパクトで、インテリアの中でも成立するサイズ感でありつつ、収納量も確保できる構造にすることが課題となりました」と打ち明ける。
奥行きは「家具に合わせやすい」という理由から42センチに設定。また、背面を壁にぴったりとつけて設置できる仕様にもこだわった。そのために、メスを入れたのは放熱の機構。冷蔵庫は本体の背面から放熱するのが一般的だが、「冷蔵庫の下の部分に(放熱の機構を)設けることで、壁に本体をぴったりつけられる機能を実現しました」とのこと。
もうひとつ、Chiiilのユニークなポイントは、冷やす温度を大きく2つの温度帯から選べること。スイーツや軽食など冷やして保存したい食品は「冷蔵」の強め(約2℃)、標準(約4℃)、弱め(約6℃)の3段階から選択。常温保存したい飲料やコーヒー豆など冷暗保存に適した食品は「セラー」の強め(約8℃)、標準(約12℃)、弱め(約16℃)から設定できる。
小川氏は、この冷蔵方式を採用した理由を次のように語った。
「キッチン以外での使用シーンを検討したとき、冷蔵品を保存するユースケースが多く出てきたため、今回は冷蔵温度帯で製品化しました。一方で、冷蔵品といっても食品によって適切な保存温度はさまざまです。お気に入りのものを保管いただくためには、保存温度へのこだわりにもお応えできるようにしたいとの考えから、『冷蔵』『セラー』といった温度帯を設け、その中でもさらに細かく温度設定を調整できる仕様にしました」(小川氏)
冷蔵庫は庫内のレイアウトも重要だ。Chiiilでは、庫内で棚の位置を動かすことができ、上段は棚の高さを上下2通りに変えられる。中段は棚を奥側に重ねることで、背が高いビン類やペットボトルなどを立てて収納できる。
北欧の暮らしをヒントにカラーを選定
デザイン面で大切にしたのは、家具としてインテリアに調和すること。「さまざまな場所に置きたくなるデザインとは何か? デザイナーと何度も議論を繰り返し、最終的に今回のデザインにたどり着きました」と小川氏。形状に関しては、「空間との調和性を重視して、水平垂直をベースとした視覚的にシンプルなフォルムとしています」と解説する。
インテリア性へのこだわりが端的に示されているのが、10色のカラー展開。ライフスタイルストアのACTUSとコラボレーションしてインテリアとの相性を考え、中間色といわれるグレーを基調とした10色が選ばれた。
デザインを担当した、日立製作所 研究開発グループ 社会イノベーション協創センタ プロダクトデザイン部の佐藤知彦氏は「Chiiilのカラーは中間色を中心に構成し、部屋の中で扱われる色や素材とのバランスを図り、インテリアと相性の良い繊細な色合いに調整した10色を創出しました」と説明した。
本体のカラーについて、佐藤氏は「北欧の暮らしから着想を得た」と話す。
「冬が長く、家にいる時間が長い北欧では、家の中で快適に過ごすためにインテリアを楽しむ文化が広く根付いています。日本でもコロナ禍によって自宅で過ごす時間が増える中、空間をより快適にしたいとするニーズが高まっています。北欧の暮らしで使われる色をヒントにしながら、快適な空間を演出する色の世界観をつくり上げました」(佐藤氏)
空間との調和性、インテリアに置かれるモノとの相性を考慮し、ドアと本体天面の表面はマットな質感で仕上げた。佐藤氏は仕上げの質感について、「狙いとする中間色の世界観がより際立つ表現を目指しました。光沢感があり、空間の中で主張する冷蔵庫ではなく、落ち着いたマットな質感で空間に自然になじませ、リビングや寝室などさまざまな空間に合わせやすい仕様としました」と補足した。
庫内色は、全色とも共通してダークグレー。手探りの状態でレイアウトを検討したときにたどり着いた色だった。
「庫内の仕様は、Chiiilの模型に食品を入れてみて、見え方を確認しながら検討しました。庫内色をダークグレーにするアイディアも、模型で確認したところ通常の冷蔵庫とは異なる新しい印象となり、Chiiilのコンセプトともよくマッチするということで採用しました。Chiiilの特徴の一つになっていると思います」(小川氏)
家具のようなモジュール型という、これまでになかった冷蔵庫。プロジェクトを開始したものの、前例がないことづくしのため、最初から最後まで手探りの状態が続いた。結果として予想を超える反響が寄せられたChiiilプロジェクト全体について、小川氏は次のように総括した。
「サイズの決定ひとつにしても、『本当にそれで良いのか? 』と議論を繰り返し、開発のスタートを切ることから苦労しました。実際に製品模型を作成し、社内で多くの人間に確認してもらった結果、非常に良好な反応を得たことで、やっと自信をもって開発を進められるようになったと思います」(小川氏)