バルミューダ初の掃除機として2020年11月に発売された「BALMUDA The Cleaner」。これまでも、家電の価値やあり方を次々と塗り替えてきた同社だが、ユーザーの心地よい体験を徹底して追及する姿勢には驚くばかり。製品開発に関わった、3人の担当者に開発秘話と知られざるエピソードを語ってもらった。
掃除道具としての使い勝手を追求
掃除機と言えば、お手入れのしやすさも重要だが、この部分にも妥協はなかったという。
「使い勝手のこだわりとして、回転ブラシにベルトがかかっている構造は止めました。作る側としてはベルト式のほうが楽なのですが、そうしないがために、7つもの部品が(ヘッドに)入っているんです」と小久保氏。「コストも上がり、ゴミ取りの性能面でも不利になってしまうのですが、ユーザーの使い勝手を第一に考えました。ヘッドの両サイドにスリットを設けているのも、手入れのしやすさとゴミ取り性能を両立させるためなのです」と打ち明ける。
回転ブラシを取り外すための機構も、コインや工具を使ったりせず、「すぐに外せるように」とロック式を採用。これと同様に、ダストカップの着脱も本体にはめこむだけの設計にしたという。
「ダストカップが外側に飛び出している製品も多いのですが、ナチュラルなデザインをジャマせず、かつシンプルに取り外せるような設計にしました。また、今回は製品の特性上倒れやすいこともあり、簡単に着脱できるようにしなければ使い勝手が悪くなってしまうので設計を工夫しました。でも、最後までうまくいかなくて苦労しましたね」と小久保氏。
比嘉氏は、ダストカップを本体の胴体部分に収めるに至った経緯をこう語った。
「クリエイティブ部門からすると、(着脱の機構は)すぐにできるのかなと思っていたのですが、ダストカップの径が細くなってしまうので、(ただ本体に納めるだけだと)集じん容量とサイクロンの分離性能の確保が難しくなるとのことでした。また、デザインの観点では、『リビングに置きたい』、『やっぱりゴミを見たくない』という声もありました。だから、ダストカップが正面に見えるよりは、中に収まっているほうがいい。でも、ゴミの量が見えないといけないので、半分だけ見えるようにしました」
ハンディクリーナーとしても使える2Way仕様
BALMUDA The Cleanerは、他のコードレススティッククリーナーと同様に、ハンディ掃除機としても使える2Way仕様。持ち手部分を外し、本体にハンディ用のハンドルを取り付けるというユニークな方法を採用している。比嘉氏はその理由を次のように説明した。
「ハンドルが本体に付いている状態だと、フロアモードで掃除をしているとき、それが家具などにぶつかるなど、掃除のジャマになります。ハンドルを付けるという手間は増えてしまうのですが、割り切ってフロアモードとハンディモードを分けました」
本体側に操作部がないため、ハンディモードで使うハンドルにもボタンがある。比嘉氏によると、「ハンディのときにも手元で使えるよう、ハンドル部分にボタンを追加しました。最初は握る部分にボタンをつけていたのですが、誤操作をしやすかったんです。ボタンを追加すると当然コストもかかってしまうのですが、使いやすさを優先して変更しました」とのことだ。
「自然」に見せるためのこだわり
バルミューダならではといえるこだわりは、充電スタンドにも。掃除機をセットしたとき、「自然に壁に立てかけてある角度に見えるように」と、あえて少し傾いた状態になるように設計されているのだ。
「開発中はモックアップを壁に立てかけていました。それをずっと見ていたので、まっすぐに立っているクリーナーに違和感があったんです。製品を部屋に置いたとき、いかに自然に見せるかを追求していたので、スタンドのほうに傾斜をつけました。とはいえ、傾け過ぎると倒れてしまうので、転倒角の試験はクリアしながらも自然な角度をつけられるように調整しました」と比嘉氏。
「通常、クリーナーよりも充電台のほうが重心の位置は低いです。そのため、製品を傾けた状態だと、うまくバランスをとることができませんでした。製品を支える場所や重心の位置を見直しながら、最終的には底面に傾斜をつけて支えるような形状を作ってもらいました」(小久保氏)。
比嘉氏は、「自然なたたずまいは、ユーザーに安心感を与えるためにも必要なもの」と強調する。
「スタンドの支柱が高いところにあると、パッと目に入ったときにすごく違和感があると思います。なるべく低くして、かつ安定させることを意識してデザインしました。もっと薄くしようと思えばできたと思うのですが、ある程度の安定感も必要です。裏側にコードを巻ける機構にするなど、厚みを持たせてバランスをとりました」(比嘉氏)
そして、「今回、すぐに掃除ができるように出しておける、見せられるデザインを特に意識しました。とはいえただの置物ではないので、機能を『カタチ』にして、いかに自然に見せるか、というのがデザインで意識したところですね」と続けた。
バルミューダらしさが光る、開発のスタート地点
掃除機に限らず、バルミューダの製品のモノづくりにおいて、何よりも大切にされているのは「体験」。「一般的な掃除機と比べたとき、デザインだけを変えようとは絶対になりません。自分たちだったらどうやろうかというのを考えます。(他のメーカーとは)開発のスタート地点が違うんです」と語る、比嘉氏。
小久保氏も「企画が決まってから製品化するまでの進め方は王道なんですが、スタートが違うので、最初の半年は結構カオスですよ(一同爆笑)。ノウハウを持っているメーカーであれば、ある程度の前提が共有されていて、合意形成がスムーズなのかもしれません。バルミューダだと企画案の段階で『これじゃできない』と判断することはなく、まずはモノを作ってみて、実際どうなんだ?とお互いに確認しながらでないと進められないところもあったりします」と分析する。
2020年1月に入社し、BALMUDA The Cleanerからバルミューダのプロダクトに関わった原賀氏。その過程を改めて次のように評しながら振り返った。
「プロトタイプのスピードがすごく早いんです。週1のペースで違うコンセプトのものがブラッシュアップして出てくるんです。ふつうは資料で確認して、変更点の承認を得るプロセスなどを経てからモノができるんですけど、バルミューダの場合、最初にモノができ上がってるんです(笑)。カオスではあるものの、それが一番の強みだと思いました」
原賀氏のコメントを受け、「モノがないとなかなか体験まではわからないので。遠回りが、逆に一番近道なのかもしれないですね」と笑う比嘉氏。「掃除自体が楽しい、という人は少ないと思うのですが、その時間をいかに良いものにできるか、必要な時間をどれだけ短くできるかというのを強く意識して、この製品を作りました。ヘッドが大きくて自由に動くので、実際に掃除がサッと終わるんですよ」と、製品をアピールした。
トースターに始まり、電子レンジや電気ケトルなど、キッチン家電のカテゴリーを広げてきたバルミューダ。クリーナーについても同じように拡大を考えているとのこと。「この1台で終わることはないです。今まで掃除機についてあまり検討してこなかった自分たちなりの提案というか、バルミューダとしてまだまだいろいろできるのではないかと思っています。クリーナー系の製品企画が続々と進行していますので楽しみにしていてください」と、今後の展望についても明かしてくれた。バルミューダが提案する、あたらしい掃除のカタチに期待したい。