2015年に発売されて大ヒットを記録し、その後の「トースターブーム」の火付け役にもなったと言える、バルミューダの「BALMUDA The Toaster」。発売から5年が経過した2020年9月に、リニューアル版の新製品が発売になった。

その経緯と旧製品との違いについて話してもらった前回に続き、後編となる今回は、ハード的な改良に伴って予想以上に苦労したという開発裏話や、あえて新機能を搭載しなかった理由について、2人の担当者に語ってもらった。

  • 5年ぶりにリニューアルされたバルミューダの「BALMUDA The Toaster」

    5年ぶりにリニューアルされたバルミューダの「BALMUDA The Toaster」

寺尾社長のOKのために奔走したあのメニュー

バルミューダといえば、寺尾社長のOKが出るまで、“ベスト”をとことんまで追求することで知られる。今回、特に苦労したのは「チーズトースト」だった。

「社長からは一口かじった瞬間に『違う』と言われましたね(笑)。『焼き加減はいいけどチーズがダメだな。ミルクの臭みがある』と。チーズと言っても、本当にいろいろな種類がありますし、ありとあらゆるチーズで試しましたね。もう成分や見た目だけで、ベストのパン・チーズかどうかがわかるようになりました」と、開発担当のバルミューダ 商品設計部 ソフトウェア設計チームの御代出裕之氏。

マーケティング担当のバルミューダ マーケティング部 プロダクトマーケティングチームの佐藤史織氏も「えっ、焼き上がりはいいのに味がNG!? って感じでした。以前、社内でのテスト用に『ベストチーズ』とされていた商品があったのですが、実はもう廃番になってしまっていたんです。だから今回はチーズ探しから始まりました(笑) 開発チームと一緒にあらゆるスーパーを回ってチーズを探し、最終決定日の朝、社長に食べてもらったら、笑顔で『うまい!』と一言。あのとき、やっと製品が発表できる! と開発チーム一同安心したのを覚えています」と続けて明かす。

また、御代出氏にとって、BALMUDA The Toasterのリニューアルは一から始める試行錯誤だったそう。

「実は、初代からトースターのソフトウェアを開発していた人が退職してしまっていたんです。ソフトウェアの制御についての引き継ぎはできていても、味に対する評価や知見は感性的な部分なので。社内で初代開発当時の知見を持っている人を頼りに、本当に一から、庫内の温度とその結果得られる味を、繰り返し比較して試験しました」

また、トースターを試験した時期の気候も、御代出氏にとって逆風となった。

「パンの味は湿度や温度に左右されますが、試験は7月ごろ。高温多湿で、チューニングするには1年中で最も不利な気象条件でしたし、実際、毎日味が微妙に変わってしまいました。入社前、BALMUDA The Toasterの開発ストーリーを見たとき、パンを5,000枚食べて味を調整していたとあったのですが、私も同じように、来る日も来る日もパンとチーズを食べ比べましたね。本気でやるんだ、と身をもって感じました。おかげさまで私自身がしっかり増量してしまいました」と笑いながら振り返った。

  • バルミューダのWebサイトでは、開発に苦労したチーズトーストモードへのこだわりや、BALMUDA The Toasterを使ったおすすめレシピが閲覧できる

    バルミューダのWebサイトでは、開発に苦労したチーズトーストモードへのこだわりや、BALMUDA The Toasterを使ったおすすめレシピが閲覧できる、

一方、従来モデルから継承し、大切にされたポリシーは、「誰でも簡単に美味しいトーストが焼けること」だった。「トーストが1枚でも2枚でも、お客様は3分のタイマーをセットするだけでベストの焼き加減になる状態を目指しました」と御代出氏。

あえて新機能を搭載しなかった理由

新製品では、焼き上がりこそチューニングされたが、新機能は追加されなかった。その理由について佐藤氏は次のように説明した。

「5年前に、『いま出せる最高のものを出そう』と発売しました。もちろん、リニューアルで機能やデザインを大きく変えようという話もあったのですが、議論を進める中で、『いまのデザイン・性能が愛されている』との結論に達し、改良に留まりました。我々としても愛着を持っている製品ですから、最終的には大きく変えないことを大事にしました。『まだ使っていないけど、買おうかな』と迷っている人に対して、より自信を持って出せるものにしたい。一方で、リニューアルとはいえ、従来機種のユーザーの方にも良い製品だと思ってもらえる仕上がりを目指しました」

  • 「トースト」、「チーズトースト」、「フランスパン」、「クロワッサン」という4つのモードを持つバルミューダのトースター。リニューアルにあたり機能を追加することも検討されたが、4つのモードは「誰でも簡単に美味しいトーストを焼くために厳選されたもの」と、新製品でも変えることなく引き継がれた

    「トースト」、「チーズトースト」、「フランスパン」、「クロワッサン」という4つのモードを持つバルミューダのトースター。リニューアルにあたり機能を追加することも検討されたが、4つのモードは「誰でも簡単に美味しいトーストを焼くために厳選されたもの」と、新製品でも変えることなく引き継がれた

BALMUDA The Toasterは現在、日本以外でも、韓国、台湾、アメリカなどで販売されている。パンは国によって少なからず違いがあり、味覚に関しても各国に合わせて調整しているそうだ。

「海外向けの製品では、味の検証も現地のパンを使っています。アメリカだと、『サワードウブレッド』と呼ばれるパンが、韓国・台湾では砂糖が多く入ったパンが好まれる傾向にあります。日本のトースターのレシピをベースにしていて、基本は崩しませんが、どのエリアの方々にもバルミューダの感動体験を伝えられるよう、微調整を行っています」と御代出氏。

  • リニューアルにあたって作成された、デザイン案のラフやCGの一例

    リニューアルにあたって作成された、デザイン案のラフやCGの一例

開発陣おススメのトースター活用法は?

最後に、ありとあらゆる方法を試し、「BALMUDA The Toaster」を知り尽くした2人に、独自の活用法や、おススメの食べ方を紹介してもらった。

「たい焼きをクロワッサンモードで温めるリベイクがおススメです。中のあんこが温かいのはもちろん、皮がパリッとしておいしいんです。魚のグリルも、両面を焼いてくれるので、温度と時間だけ設定してほったらかしにできるのが便利です。焼いた後も庫内に生臭さが残りづらいので安心して使えます。パンのおいしさを散々語りましたが、パン以外にも万能に使える調理器具だということもぜひ知っていただきたいです。バルミューダのWebサイトではおいしいレシピも多数公開しているので、そちらも見ていただけると嬉しいです」(佐藤氏)

「一番はやっぱりチーズトーストです。お話ししたようにとても苦労したぶん、自信のあるモードなので、チーズの種類にこだわったり、好きな具材をのせたりして、自分だけのアレンジトーストを試してみてください。変わったところだと、韓国の販社の方から、冷凍餃子をクラシックモード230℃で15分焼くと、皮が揚げ餃子みたいにパリっと焼けて、中の具はジューシーになると教えてもらいました。どのような温度コントロールを行っているかをわかっている側からすると、確かに理にかなった方法だと思います」(御代出氏)

  • 開発担当のバルミューダ 商品設計部 ソフトウェア設計チームの御代出裕之氏(左)と、マーケティング担当の同社マーケティング部 プロダクトマーケティングチームの佐藤史織氏

    開発担当のバルミューダ 商品設計部 ソフトウェア設計チームの御代出裕之氏(左)と、マーケティング担当の同社マーケティング部 プロダクトマーケティングチームの佐藤史織氏