アリゾナのボーンヤードに中古機がゴロゴロ

米軍では、用途廃止になった飛行機や艦船をいきなりスクラップにしないで、中古として売りに出したり、また自軍で使用を再開したりする事態に備えて保管している。特に有名なのが、アリゾナ州のデビスモンサン空軍基地にあるAMARG(Aerospace Maintenance and Regeneration Group)だろう。別名を「ボーンヤード」という。

もう、あれこれ書く前に現地の航空写真を見ていただいたほうが話が早い。以下の写真を見て「機種判別遊び」をするのも一興である。

ここには、「もう、どう見ても出番はないだろ」という古い機体から、比較的最近の機体まで、さまざまな機体が保管されている。空気が乾燥した砂漠地帯だから機体の保管には好都合だが、いざ古い機体を引っ張り出すことになれば、ボーンヤードから持ってきた機体をそのまま引き渡して終了というわけにはいかない。

まず、飛行に耐えられるかどうか検査して、傷んでいるところがあれば補修・強化する必要がある。また、古くなった部品の交換や陳腐化した電子機器の交換と最新規格への対応、といった作業も必要である。

これはボーンヤードに保管されている航空機に限った話ではなく、航空機でも車両でも同じである。また、ずっと前に用途廃止になったものだけでなく、用途廃止になったばかりのものでも同様に、点検・補修・アップグレード改修といった作業は必要になる。

といったところで、防衛産業界に仕事ができるわけである。

中古品の再利用の具体的に発生する仕事

先にも少し触れたが、中古品には新品と異なる注意点があるので、その部分でオリジナルの製造元あるいは搭載機器のメーカーなどが関わる必要がある。具体的な内容を列挙してみよう。

構造材の検査と補修

航空機でも車両でも艦艇でも、それ自身を構成する構造材(胴体・主翼・車体・船体など)が新品と比べて傷んでいるはずなので、問題がないかどうか検査して、必要に応じて補修や補強、場合によっては新品や同等品との交換を行う必要がある。特に、安全性の面で要求水準が高い航空機、それと日常的に海水に浸かっている艦艇では問題になりやすい。

配管・配線の引き直し

内部で使用している配管や配線も傷んでいることが多いので、検査・補修・交換が必要になる。ロシアで中古空母を改装してインドに引き渡すことになった際に、艦内配線の引き直しに予想外の手間がかかり、それが納期遅延の一因になったとする報道がある。

ウェポン・システムの交換・更新

各種ウェポン・システムが古いままだと戦闘能力不足になる。そこで、そのまま引き渡すのではなく新型に交換したり、そこまで行かなくても老朽化したパーツやコンポーネンツを交換したりするのは普通である。武器輸出規制の関係や政策的な理由から、一部の武装を外したり、他の代替品に置き換えたりすることもある。

搭載機器類の交換・更新

例えば航空機の場合、航空交通管制関連の機材が古いと、最新の規格に対応できなくなって、飛べなくなったり、飛べる場所が限られたりする。そうした場合は機器の更新が必要になる。無線機を相手国の規格や仕様に合わせて交換する、なんていう需要もしばしば発生する。航空機や艦艇は航法関連の機材を新しくしたり、増設したりすることも多い。

古い機材であっても、構造部材の検査・補修・交換や配線の引き直し、電子機器の換装を行って長く使い続ける事例は多い。写真は米空軍のKC-135給油機で、これも他国への中古輸出事例がある(Photo : USAF)

さらに、引き渡しに際して相手国の要員を訓練する業務も発生する。こうした業務を複数の企業が分担することも1社で一括受注することもあるが、それは担当する企業の陣容による。特に中古絡みでは「ドンガラ」より「アンコ」の部分をいじることが多いので、そちらを手掛けるメーカーに旨味がある。

ともあれ、中古と新品では事情が異なるが、何らかの商機であることに変わりはないので、防衛産業界のパイが小さくなってきている昨今では特に、中古品絡みの商売といえども争奪戦になりやすい。提案する内容や価格によっては、他国の企業に油揚げをさらわれることがあってもおかしくないからだ。