• 東京メトロ大手町駅の英語表記。今回の改定で、いつか「Ōtemachi」になるかもしれない

    東京メトロ大手町駅の英語表記は「Otemachi」だが、いつか母音字Oに「¯」(マクロン)が付くŌtemachiになるかもしれない

「ta ti tu」から「ta chi tsu」へ、文化審が答申案

文化庁の文化審議会国語分科会によるローマ字の綴り方の改訂に向けた答申素案がまとまった。1954年の内閣告示以来、約70年ぶりだ。

学校教育などで教えられてきたローマ字は「訓令式」と呼ばれるものだった。たとえば、「たちつてと」は「ta ti tu te to」とつづられた。

ところが一般的な社会生活の中で使われているローマ字の事実上の標準的なつづりは「ヘボン式」と呼ばれるものだ。ヘボン式では「たちつてと」が「ta chi tsu te to」とつづられる。ヘボン式という呼称は江戸時代末期の宣教師であり医師だったジェームス・カーティス・ヘボンによる綴り方だったことに由来する。

パスポートや道路標識などはこれまでもヘボン式が原則

とはいえ、この改訂によって世の中のローマ字綴りが一気に変わるものでもない。改訂の考え方としては、日本語を書き表すために国際的に使われる文字数の限られたローマ字を使う場合の表記は現状として多様になってしまっていることを受け、将来に向けてつづりを安定させ、日本語表記の上で十分な機能を果たし、さらには表記の慣用も整理することをめざしてきた。

一方、パスポートなどでは以前からヘボン式ローマ字でつづることになっている。また、道路標識、各種案内表示などでもヘボン式はポピュラーだ。

個人的には、一度、パスポートのローマ字表記を変えようとしたことがある。というのも、パスポートを取得するずっと以前から自分の本名である山田祥平の「祥平(しょうへい)」を「syohei」とつづってきたので、ヘボン式の「shohei」を使うのにあまり気乗りがしなかったからだ。

現行内閣告示では「syohei」が正しいが、パスポートではヘボン式が原則で「shohei」しか認められないという説明を受けた。その氏名での生活実態がある場合には、非ヘボン式ローマ字表記であっても、その使用を認めることになっているので、相応の理由があれば出来ることもあるらしい。

そのときは、過去に発行した単行本等で「Copyright(C) SYOHEI YAMADA. 2025 All Rights Reserved.」などと記載されている部分を提出してもダメだった。特に、一度パスポートを取得したあとで表記を変更することは特に必要と認める場合を除いて認められないらしい。内閣告示は日本語教育における標準、パスポートは国際的な慣習を重視しているといった事情によるものらしい。実際、一部のクレジットカードはsyohei名義だ。

  • 改定ローマ字のつづり方の表。パスポートや道路標識や各種案内表示などはこれまでもヘボン式が採用されてきた

日本語を円滑なコミュニケーション手段とするために

国語を誰にでも発音できるように表記するのはたいへんだ。日本語は漢字もあればひらがなも、カタカナもある。そしてそこに英数字が混じる。それをなんとかローマ字だけで表記するのだからたいへんだ。

そういう意味では韓国語もたいへんだ。韓国で電車に乗ると、駅名案内などにはアルファベットによる表記、ハングルによる表記、漢字による表記、日本語のカタカナ表記という4種類の表記で記されている。スペース的にもそれを確保するのはたいへんだ。

今回の改訂は文化町の文化審議会国語分科会ローマ字小委員会によるもので、この内容が最終決定となるわけではないが、これが議論、修正を経て最終的な答申となる。

自分たちのネイティブな言語を、世界中の多くの人々に正しく発音してもらい、円滑で誤解のないコミュニケーションを成立させるためにはとても大切なことだ。たかがローマ字といって安易に考えるべきではない。

  • 改定ローマ字における長音表記の例