今年はAI PC元年とされている。

先日行われた日本HPの報道関係者向け説明会でも、同社代表取締役社長執行役員、岡戸伸樹氏がAI PCの市場を立ち上げる2024年の戦略を表明、AIを使った新しいサービスやソリューションを創っていくことをアピールした。つまり、今言えることはあまりない……。

これからのパソコンは「AI PC」になっていく

そのHPが掲げているのが「PCはパーソナルコンピューターからパーソナルコンパニオンに」というスローガンだ。テクノロジーがわかりやすくなって人間に伴走すること。それがコンパニオンだ。

今のスマートデバイスにおけるAI処理は、そのほとんどがクラウドベースで、遅延、セキュリティ、コストなどの問題を抱えているが、その多くの処理がエッジ、つまり、オンデバイスで処理できるようになると同社は考える。それで処理は今の5倍ほど速くなり、コストも8割削減できるという。だからこそAIはエッジでというのが同社の考えだ。

その結果、今後のPCのうち、4割から5割はAI PCになると岡戸氏はいう。その予測のもとに、市場での買い換えの促進を牽引していくためにも、今後は、シリコンベンダーと強く協業していくと岡戸氏はいう。

  • 日本HPの代表取締役社長執行役員を務める岡戸伸樹氏。AIを使った新しいサービスやソリューションを進めていくと話した

オンデバイスでのAI利用はスマホが少し先を走る

オンデバイスでのAI利用はスマホが少し先を走っている。

通信などのネットワーク接続により、クラウドにデータを渡し、クラウドにあるコンピューターリソースで処理し、その処理結果を受け取るのがクラウドベースのAI処理だ。

今、オンデバイス、エッジなどと呼ばれているAI処理は、その処理を通信に頼らない。つまり、スマホが機内モードでも期待した結果が得られる。

Googleのスマートフォン「Pixel 8」シリーズなどは、音声認識や画像処理などの多くをオンデバイスでこなし、Gooleは、OSやアプリの更新により、それを旧機種に遡ってできるようにした。

  • サムスンが発表したGalaxy S24シリーズでは、オンデバイスで動くAI機能に「Galaxy AI」という名前が与えられた

また、先日、サムスンはGalaxyシリーズのフラグシップ機S24をグローバルイベント「Galaxy Unpacked 2024」を開催して発表したが、こちらも「Galaxy AI」をスローガンに掲げ、リアルタイム翻訳や写真加工などのAI処理を進化させている。

今のところ、パーソナルコンパニオンとしてのスマホやPCのAI利用は、その恩恵がわかりやすいからなのか、画像処理や翻訳分野のものが多い。

これらの応用は昨日、今日始まったことではなく、ずっと以前からクラウドサービスで提供されてきたものであり、それが通信が絶たれた環境であっても同じようにできることが、AI活用の方向性と可能性をわかりやすく一般の消費者に伝える。

コンピューターが自律的に考える能力を持とうとしている

スマホやPCなど、かつてのコンピューターがインターネットにつながることが新しい当たり前となって、その活用範囲は大きく拡がった。

このことで、コンピューターは計算機ではなく通信機でもあるのだと気がつくことができた。その結果、通信網につながっていないコンピューター的なデバイスは、実用度に乏しいと思われるようにもなった。大容量のデータを蓄えてそれを再生に使うゲームや音楽、動画再生などは、クラウドにあるデータのコピーをオンデバイスで持っているだけだ。

長年の新しい当たり前は、今、次の当たり前に上書きされようとしている。

オンデバイスでのAI処理ができるようになったコンピューターは、自律的に考える能力を持とうとしているといっていい。それを使い、この先、どのような用途を見出すことができるのか。それを見極め、消費者にわかりやすく提示できたところが、これからのAI PCの覇権を握る。それまでの待ち時間はわずかだ。