福井県小浜市、福井県立大学、KDDIの三者が協業し、サバの養殖現場にIoT技術を導入、そのノウハウのマニュアル化を目指す『「鯖、復活」養殖効率化プロジェクト』。
いけすに各種センサーを設置、通信回線経由でサーバーにそのデータを蓄積し、iPadなどのタブレットで漁師が水温や酸素濃度、塩分濃度をチェック。また、そのデータを専門家が閲覧できるようにして、これまで経験やカンに頼ってきたサバの養殖を効率化しようというチャレンジだ。飼育方法のマニュアル化に貢献するプロジェクトで、三者が3年前から取り組んできた。
今回は、そのプロジェクトの継続、そして、養殖事業の普及・拡大や、サバをフックとした観光誘客など、小浜市の地域活性化のためにICT技術など三者の資源を有効に活用する連携協定が締結された。小浜市の漁業をはじめとした産業振興に寄与するべく、小浜市の地域活性化を目的とした連携を推進していくという。
小浜市は、京都に若狭湾の海産物を運んだ鯖街道の起点として知られる。近年、鯖の漁獲量が激減していた。そこで養殖サバに活路を見いだそうとしているわけだが、その過程で、養殖サバに酒粕を混ぜたエサを与えた「よっぱらいサバ」が生まれ好評を博しているという。
小浜市長の松崎晃治氏は「小浜で育ったサバを鯖街道の起点で食べてもらいたいためのプロジェクトだが、独自のブランドとしてのよっぱらいサバ養殖管理マニュアルを作成するために、各社の力を貸してほしい。これを契機に連携関係をさらに強化、サバ養殖事業の発展とサバをキーワードにした小浜市全体の活性化につなげていきたい」とした。
また、福井県立大学 海洋生物資源学部長の横山芳博氏は、「教育と研究を持っているのが大学の強み。品質を見極め、生産から食品加工までを一気通貫でサポートし、いい育て方を探りたい。ただ、現状ではICT技術の活かし方についてはなかなか徹底できていないので、KDDIが手伝ってくれることは心強い」と謝意を表明した。
KDDI北陸総支社長の渡辺道治氏は「養殖にIoTを取り入れることで、これまでもいろんなデータを取れてきた。それを蓄積してノウハウを見える化しようというのがこのプロジェクト。今後はAIを用いたデータ分析で育成方法の高度化を目指したい。技術は技術で導入するが、漁師が喜び、作業の負荷が減るような方向で、おいしいサバが将来にわたって食べられるようにしたい。
さらに、特産品の販売や観光誘致でも地域発展に貢献したい。せっかくIoT養殖した美味しいサバなのだから、それを消費者の手元まで届ける必要がある。au WALLET Marketで扱うことなども検討し、ふるさと納税のサポートを始めたこともあり、小浜市も参加してもらう検討に入っているなど活動は活発だ。これからも漁業、農業、安心安全のまちづくりに貢献していきたい」とコメントした。
よっぱらいサバと言えば、同市の若狭高校の生徒が12年かけて開発した宇宙食としてのサバ缶「サバ醤油味付け缶詰」が話題になったのは記憶に新しい。JAXAの宇宙日本食に選ばれている。
誰もが興味を持ちそうな名物だが、このサバ缶、一般に販売しようとすると一缶あたり4000~5000円の高級品になってしまうという。小浜名物として流通している一般的なサバ缶の小売価格が500円程度なので、その10倍を覚悟しなければならない。
そうはいっても宇宙食としてのサバ缶は小浜市をマーケティングしていくうえで強力なアイテムだ。松崎小浜市長も、それについては理解している。積極的に取り組み、一般に販売できるように進めていきたいという。
今後、通信は5Gの時代がやってくる。IoTの通信は3G程度の帯域で十分とされているが、もし5Gが普及したときに、こうしたプロジェクトはどう変わるのかをKDDIに尋ねてみたところ、「まだどんないいことが起こり、なにに役立てることができるのかを見いだせてはいないが、水中の映像をどこかに送るようなケースなどで役に立つ可能性はある。観光客に、どんなサバがどんなイメージで育っているかの映像を見せるといったことでも貢献できるかもしれない。さらには、空中を飛ぶドローンによって高精細画像で漁師がいけすをチェックしたり、もっといえばドローンで給餌するようなことも可能性がある」という。
もう手書きの日報には戻れないともらす漁師、浜屋直澄さんの言葉が印象的だった。通信と漁業の融合は、これからもまだまだ進化を続けていきそうだ。
(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)