オーストラリアのNuheara社がIQbudsシリーズの日本発売を発表した。バリュートレード社が輸入し、各ECサイト、量販店などで販売されるという。左右独立型のワイヤレスイヤホン「IQbuds」が39,800円(税別)で6月末に、自分自身の聴力を測定分析し、キャリブレーションしてパーソナライズできる機能を備えた「IQbuds BOOST」が58,800円(税別)で8月末に発売される。

  • IQbuds

イヤホン以上、補聴器未満の新ジャンル

この製品は、いわゆる音楽を楽しむことを第一義にしたものではない。いってみれば、聴力の拡張をめざすことがコンセプトとなっている。かといって、音質が犠牲になっているわけではない。音楽を再生しても十二分にハイファイであり鑑賞に耐える音質が確保されている。スマートフォンとBluetoothで接続し、アプリで各種の設定を行うという点では、一般的なワイヤレスオーディオイヤホンとまったく同じだ。

同社によれば、たとえば日本の人口約1.3億人のうち3,000万人くらいはなんらかの聴覚障害を抱えているという。本来なら補聴器が必要な人々であるはずだが、その10%程度しか補聴器を使っていないそうだ。そこで、補聴器でもなければオーディオイヤホンでもない。トラディショナルな両者の間にくるものとして、この製品ができた。

IQbudsを使えば、聴きたい音だけを仮想的に選択できる。具体的には、

  • Workout……ジムなどでのトレーニング中に周りの音を認識する
  • Street……街中の雑踏での喧噪を低減する
  • Home……自宅などでの環境で家族との対話を補助する
  • Office……オフィスなどで同僚の声などを聞き取りやすくする
  • Restaurant……周りの騒音を抑え相手との会話を補助する
  • Driving……クルマや電車の車内で騒音を低減させる
  • Plane……飛行機内でのエンジン音を低減させる

という7種類のプリセットが用意され、そのときの居場所に応じたプリセットを選ぶことで聴きたい音を確保できるようになる。プリセットごとに細かいチューニングも可能なので、聴力や好み、必要に合わせて設定しておける。

ノイキャンなし、耳に届ける音を選択して再生

ただし、このイヤホンはノイズキャンセルの機能を持たない。つまり、電気的に逆相の音を生成してノイズをキャンセルすることはしていないのだ。

内蔵されたMEMSマイクが拾った外界の環境音を内部のDSPによって選択的に再生することで結果としてノイズがキャンセルされている。その理由として同社ではノイズキャンセルのための逆相音再生は、無音という音が常に再生されて耳に対する負担があるからだと説明する。

  • IQbudsのイヤーピースは計8種類。本体自体も耳にフィットしやすい楕円形状となっている

この製品では外部の音をできるだけ遮断するために耳を塞ぐ方法をとる。コンプライ社のイヤーピースが添付されているが、その数実に8種類ときわめて多い。丸型4種類、楕円型4種類でそれぞれS、M、L、XLが用意されている。これだけあれば、外界の環境音をうまく抑制でき、耳にフィットするものを見つけることができるはずだ。このあたりが、オーディオ再生だけをめざす他の製品とは違うこだわりなのだろう。

騒音の多い場所での会話ということを考えたときに、加齢とともに聴きたい音声を聞き取る能力はどんどん下がっていく。騒がしいレストランやクラブ、乗り物の中などで相手の声が聞き取りにくいと感じた経験はないだろうか。実は、この傾向は30代の半ばくらいから始まるという。今後、高齢化社会が深刻化すると、その悩みを抱える人口はますます増えていくにちがいない。

実は、医療用補聴器はとても高価だ。片耳あたり20万円というのは珍しくもなんともない。医療器具としての補聴器は調整料金などの技術料も含まれるためにどうしても高価になってしまうそうだ。日常的な生活には大きな不便はないけれど、ちょっと聞こえにくいと感じることがあるといった程度の難聴で購入するにはちょっと勇気が必要な価格だ。それに医療用補聴器は朝起きてから寝るまで、16時間以上は付けっぱなしでも負担がないようにさまざまな技術が投入されている。

そこで聞こえにくいと感じたときだけ使うカジュアルな用途をめざした製品が求められてもいいはずだ。いってみれば耳の老眼鏡。この製品はその先駆けだといってもよさそうだ。

オーディオ用イヤホンとしても魅力的

個人的にはピュアなオーディオ用イヤホンとしてもよくできていると感じた。普段は外界の音をオフにして音楽を楽しみ、必要なときだけ外界音再生をオンにして聴力を拡張するといった使い方ができそうだ。左右独立型のイヤホンでは左右ユニットの電波が途切れやすいという懸念があるが、この製品、両耳を手で覆うようなことをしても途切れることがなかったのは心強い。外界音と再生音の両立を目指した製品としては、ソニーのXperia Ear Duoが最近の製品として新しいコンセプトが話題になっているが、IQbudsはそれとは異なる方法論を提案する。

コンピュータディスプレイは人間の視力を拡張した。たとえば老眼で文庫本や単行本を読むのがつらくなってきても、電子書籍なら視力に応じた文字サイズでコンテンツを楽しめる。IQbudsは、その聴力版をめざすコンピュータイヤホンだということができるだろう。

  • プロモーションのためにオーストラリアから来日したNuheara社のJustin Miller氏(CEO & Mnaging Director/写真左)

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)