MWC取材のためにスペイン・バルセロナに来ている。この原稿が掲載されるころには閉幕しているはずだが、MWCはモバイル関連の展示会であり、通信事業者やインフラ事業者が商談をする場としての意味合いが強い。しかも今年(2018年)はちょっと雰囲気があわただしい。商用サービスまで秒読み段階に入った5G通信に強烈なスポットライトがあてられているからだ。
ただ、5Gはまだ一般エンドユーザーには遠い存在だ。対応スマホが発売されているわけでもなければ、そもそも商用サービスそのものがまだ始まっていない。5Gによって、われわれは高速大容量、低遅延、超大量接続という世界に足を踏み入れることになるわけだが、今年のMWCではまだ、事業者にとっての5Gが披露され現実のソリューションとして提示されているにすぎないし、実証実験段階での実力が示されている雰囲気も強い。
暮らしを見つめる5G
モバイルネットワークについては、コーデックがアナログからデジタルになったとき、3G通信ができるようになってi-modeが使えるようになったとき、LTEでの高速通信ができるようになったときと、個人的には四半世紀ほどかけていくつかの節目のようなものを体験しているが、今回も、とりあえずはワクワクする。
少なくとも、まるでカメラしか進化の要素がないように見えるスマホシーンを眺めているよりは未来を感じることができるというものだ。ハンドセットの進化はそれはそれで楽しいが、ちょっとした踊り場感を感じないかというとうそになる。
5G関連の技術展示をいろいろと見ていて感じるのは、有限の資源である電波を、そして、国によってはかなりのコストを支払わなければならない電波を、いかに無駄なく使おうとしているかだ。コストを支払うのは通信事業者だが、そのコストはわれわれの支払う通信費にはねかえってくる。通信によって豊かな暮らしがかなうのはいいが、今の通信費が跳ね上がるのでは意味がないからだ。
しかも5Gは老人にやさしい。おはようからおやすみまで日々の暮らしを見つめ、健康を維持するためのデータを記録し、たとえ病気になったとしても遠隔治療などの技術でケアができる。特に日本では、これからやってくる高齢化社会に欠かせないインフラになるはずだ。
スマートフォンの普及がもたらしたもの
働き方改革も進んでいる。大学を出て会社に入れば一生安泰という時代ではないし、毎日同じオフィスに通って仕事をすることも珍しくなる。この春から社会に出て行く学生諸君が、すぐにそんなワークスタイルを謳歌できることはないだろうが、少なくとも、時代はそちらにシフトしようとしている。
その一方で、日本ではパソコンの持ち出しを禁止している企業がまだまだたくさんある。当然デジタルトランスフォーメーションなど夢の夢だ。ところがパソコンの持ち出しを禁止している企業でも、携帯電話の持ち出しはゆるゆるだ。スマートフォンの普及がもたらしたもっとも大きな習慣は、一般エンドユーザーであっても端末をロックするようになり、指紋や顔といった簡単な要素で認証し、安全に端末を使うようになったことだ。それによって、個人の秘密を守るというのはどういうことかという意識をもたせることができたのではないか。
今後5Gのネットワークが浸透していくにつれ、パソコンと同等、いや、それ以上のリソースにスマートフォンを通じてアクセスできるようになることを考えると、今のうちからセキュアに端末を使うことを当たり前にしておくのは必須といえるだろう。まさか、そういう時代に、情報流出を怖れてスマートフォンの持ち出しを禁止する企業はないだろう。それは企業としての死を意味する。
5Gは「できたらいいな」を実現する
暮らすこと、働くことのクオリティを向上させるために、通信が必須の要素になるというのはこの四半世紀でようやく浸透してきたと思う。それがいよいよ本格的な実用の時代に入る。5Gとはそういうことだ。そして今、その通信をどう使えば、どのようなマネタイズができるかが考えられはじめているし、すでに、大きな利益を生みはじめている現場もあるとも聞く。
絵に描いた餅が、本物になる時代。それが5Gの時代でもある。2019年のMWCでは、さらに具体的な様相が見えてきているはずだ。2018年のMWCは終わったばかりではあるが、今からもう楽しみでもある。
(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)