この1月24日で、アナログ停波まで半年となった。そこで、総務省は「完全デジタル化に向けた最終国民運動」を発表した。だれが中心になっているのかはよくわからないが、そうとうにやる気らしくて、冷めた人から見れば「最終国民運動」という言葉に、妙なハイテンションさを感じてしまい、余計に冷めてしまうことだろう。なんだか、背後から軍靴の響きが聞こえてきそうな言葉遣いだ。

ところが、その国民運動の具体策として、挙げられている3つは「1:スポーツ施設などで地デジスポットを上映」「2:著名な方々による地デジ普及活動」「3:身近な場所への斬新なポスターなどの掲出」なのだ。1は、野球場、サッカー場、競馬場などで、大型ビジョンにスポットCMを流すということ。2の著名な方々とは、応援隊メンバーに選ばれた著名人で、現在6人。王貞治さん、桂歌丸さん、北島三郎さん、高橋英樹さん、萩本欽一さん、茂木健一郎さん。全員男性というのがなぜなのかよくわからないが、このような方々にテレビ番組、CM、イベントなどに出演していただくというもの(なお、総務省発表資料には、無償協力していだくと明記されている)。3は、駅張りポスター+屋外ビジョンでのCM上映。どこが「斬新」なのかはよくわからない。

この3つでは、なぜ「国民運動」なのかピンとこないだろう。おそらくは、「地デジボランティア全国声かけ・念押し運動」を指しているのだろう。これは「ギリギリまで腰をあげない層」を「待ちデジ」と名づけ、全国のボランティア(民生委員、自治体関係者、ボランティア団体)などが戸別訪問をして地デジ対応を促すというものだ。

もし、まだ地デジに対応されていない方がいらっしゃったら、きっとだれかが家にやってきて、「早く地デジ対応した方がいいですよ」と言われることになる。このような「最終国民運動」には、平成22年度には870億円+補正90億円、平成23年度には660億円もの予算が計上されている。この財源は、税金ではなく、電波利用財源ではあるが、決して少なくない額だ。電波利用料の平成21年度の歳入は642.5億円でしかなく、通常の電波監視等の歳出も601.9億円あるのだ。いわゆる埋蔵金がどのくらあるかはわからないが、埋蔵金のほとんどを地デジ対策で吐き出してしまうようなことになるのではないだろうか。さらに、「一部を除き、国庫債務負担行為を講じる」とも記されている。これは、当面は電波利用料財源で建て替えておくけど、後で国庫から返してねという話で、これだと結局は国庫(税金)から支払われることになる。

ちなみに、近年の電波利用料の8割近くは、携帯電話からのもので、これは携帯電話利用者が毎月の通話料金の中で負担をしていることになる。荒っぽい言い方かもしれないが、「携帯電話料金の上がりで、地デジ化をする」あるいは「税金で地デジ化をする」ような具合だ。

しかも、この地デジ対策予算は、政府の事業仕分けで「半額」と決定されたはずだった。仕分け人からは、こんな批判が出てきていた。ひとつは、なぜテレビがユニバーサルサービスでなければならないのか?という疑問だ。他のラジオやインターネットは、ユニバーサルサービスではないのに、なぜテレビだけがという話だ。仕分け人は、公費負担は極めて限定的にすべきだと言う。

また、相談業務については、説明会などでは効果が見られないという批判も出て、明らかに広報のやり方に無駄があるという批判もあった。実際、私も地域の相談会に顔を出してみたが、無駄の極みだと思った。というのは、相談会に出席する人は、すでに地デジへの乗換えを具体的に考えている人ばかりで、相談内容のほとんどは、「アンテナ工事にいくらかかりますか?」「ケーブルテレビも継続して見られますか?」などのような質問ばかりだった。直接、電器店や役所の担当窓口に行けばいいような内容ばかりだった。一方で、地デジに無関心な人は、相談会が開かれていることすら知らないから当然出席しない。

結局、事業仕分けでの結論は「国民に地デジを理解してもらうための取組み」「受信者への支援」をゼロにして、「送信者側の取組み」を継続することで、全体予算を半減させるというものだった。ところが、地デジコールセンターの運営費は、18.4億円+5.6億円(平成22年度)から、47.9億円(平成23年度)に増額、デジサポによる受信相談などが110.6億円から129.0億円に増額になっている。いずれもアナログ停波後しばらくしたら必要なくなるのだから、月額換算すれば大幅増額といっていいだろう。

ところで、まだ地デジ化していない人のために、いくつか耳寄り情報をお伝えしておきたい。ひとつは、エコポイントでアンテナ工事ができるようになっていることだ。家電エコポイント制度は3月末で終わってしまうが、電器店でテレビを購入すると、その得られたエコポイントでアンテナ工事代を支払うことができる。どの電器店でもできるというわけではないので、テレビを購入するときに、エコポイントによるアンテナ工事が可能かどうか確かめるといいだろう。

もうひとつ、どうやら、アナログ放送での停波告知方式が少し変わったようだ。以前、このコラムでもお伝えしたように、アナログ放送では、上下をカットしたレターボックス映像にし、上下の余白部分に地デジ化を促すメッセージを表示するようになっている。今年の4月からは、この告知方式を強化し、番組画面にかぶせて全面メッセージを表示、あるいは番組画面を1/3程度に縮小してメッセージを表示するという方式を順次導入するという計画を紹介した。この計画は、前倒しすることも計画されていて、「これでは4月以降はまともにテレビが見られないじゃないか」というお話をした。

しかし、今回1月24日に発表された「完全デジタル化最終行動計画」には、このような告知方式に言及されていない。あまりに評判が悪いから中止したのかどうかはわからないが、それに代わって、画面にカウントダウンをする字幕を入れる方式が紹介されていて、これを7月から一斉導入するそうだ。

予算のことも、国民運動のことも、もうあと半年のこの段階に至っては、大きく変えることは不可能だろう。7月24日に向けて、全員がなだれこんでいくしかないのだ。しかし、この「デジタル化」は、後からでもかまわないので、きちんと検証されるべきだろう。電波利用料や公共電波の利用法など、たださなければならない点は多い。とにもかくにも、あと半年だ。

7月1日以降、アナログ放送には、このようなカウントダウンが字幕スーパーで表示されるようになる。全面字幕スーパー、画面縮小などの方式は、「完全デジタル化最終行動計画」には言及されていない。評判が悪いので、中止したのか? 総務省資料「完全デジタル化最終行動計画」より引用