アナログ電波とデジタル電波?

人間は、根本的にデジタルが苦手なのかもしれない。ある人からこう相談された。「アナログ用のUHFアンテナで、地デジも受信できるってほんとう?、だってデジタル電波をアナログアンテナで受信できるの?」。なんとなく乗せられてしまいそうな誤解だが、電波そのもにアナログ、デジタルという区別はない。電波に乗せられている信号がデジタル方式かアナログ方式かの違いがあるだけだ。かくいう私も、彼を笑うことはできない。既設のUHF放送を受信していたアンテナで、なぜ地デジが受信できるのか、よくわかっていないのだ。

総務省の「地上デジタルテレビ放送のご案内」には、こんな図がある。「すでにUHFアンテナがついている?」の問いにYesと答えると、次の質問は「地上デジタル放送とアナログUHF放送の受信方向が同じ」。これにNoと答えると、「UHFアンテナを新たに設置する必要があります」となる。あれ? なのだ。UHFアンテナはアナログ放送でも、地デジでも受信できるはずなのだから、受信方向が違っても方向を調整すれば見れるのではないだろうか。わざわざ新しいアンテナを買わなくてはいけないの?

総務省の「地上デジタルテレビ放送のご案内」にあるアンテナの案内チャート。放送塔がアナログとデジタルで異なる場合、アンテナを交換する必要があるような内容になっているが、あえて交換しなくても向きを調整すれば、既設のUHFアンテナで問題なく地デジも視聴できる

ローチャンネルのUHF放送が映っていれば地デジが受信可能な目安に

八木アンテナに聞いてみた。「アンテナはアナログ放送でも地デジ放送でも、基本的に同じUHF用のものでかまいません」。ただし、一部の地域では古いUHFアンテナを流用できないこともある。UHF放送はテレビの13チャンネルから62チャンネルまでの周波数帯の電波を使って放送している。このうち、地デジは主な地域では13チャンネルから44チャンネル付近と同じ周波数帯の電波を使うことが多い。ところが、地域によってはこの周波数帯のアナログUHF放送が行われてなく、25チャンネルから62チャンネルの周波数帯だけを使ってアナログUHF放送を行っていた地域がある。このような地域では、25チャンネル以上を受信するハイバンドUHFアンテナを使っている場合があり、すべての地デジ番組を受信できないことがある。そのため、アンテナの交換が必要となるのだ。「ほとんどの方は、従来のUHFアンテナがそのまま使えます。アナログ放送で13チャンネルや16チャンネルといったローチャンネルのUHF放送を現在見ているのであれば、同じアンテナで地デジが試聴できる目安になります」。「放送塔の位置が変わる場合でも、アンテナの向きを調整すれば、地デジ放送が見れるようになります」。ただし、屋根の上での作業となるので、転落などの危険もあるので、調整作業は専門業者に依頼してほしいという。

VHFアンテナの写真。VHFはアナログ放送の1チャンネルから12チャンネルまでを受信するためのアンテナで、UHFアンテナに比べるとかなり大きめ。2011年7月24日のアナログ停波以降、このアンテナは完全に不要になる。地デジ用にアンテナ交換をするときは、ついでに、このVHFアンテナを取り外してしまった方がいい。(型番V-W8S。写真提供:八木アンテナ)

UHFアンテナの写真。UHFアンテナはさきほどのVHFアンテナと比べるとかなり小ぶりだ。魚の骨のように連なっている金属棒は素子と呼ばれ、このアンテナは金属棒が14本、つまり14素子(放射機と反射機は1素子とする)。素子数が大きくなるほど、感度が強くなり、20素子、30素子などというアンテナもある。一般的には14素子のアンテナで問題はないはずだ。(型番U-DW19。写真提供:八木アンテナ)。

アンテナの方向はご近所さんと同じ方向に向ける

では、自宅がビル形式で屋上があり、手の届くところにアンテナが設置してある場合なら、自分で方向調整はできるだろうか。「安全に作業ができるのでしたら、方向調整は自分でもできます。地図で放送塔の方向を確認してあわせるか、あるいは周りの地デジを受信していると思われる家のアンテナを見て、同じ方向に向けるだけでも受信は可能です」。といっても、放送塔から距離があり電波が弱い場所では、微妙な調整やブースターの取りつけ、外来ノイズ対策などが必要となることもあるので、そこまでは素人の日曜工作ではなかなか難しくなる。自分でやってみて、うまくいかない場合は、素直に専門の業者に依頼した方がいいだろう。

総務省の案内ページの不親切

では、総務省のホームページでは、なぜ放送塔の位置が違う場合はUHFアンテナを新設しなければならないような案内をしているのだろうか。地デジコールセンターに電話して聞いてみた。「リビングのテレビは地デジにしたけど、2台目、3台目のテレビはアナログのままという家庭がありますね。放送塔の位置が変わる場合、アンテナの向きを地デジ放送に合わせてしまったら、2台目、3台目のアナログテレビでUHF放送が見られなくなってしまいます。この場合は、地デジを見るテレビ用に新しくUHFアンテナを設置してくださいという、そういう意味」ということだった。だったら、お役所お得意の小さな小さな文字の但し書きを入れておいてほしいと思うが、まあ、深く追求するのはやめておこう。

買い替えるならDHマークつきのアンテナを

電子情報技術産業協会が提供しているDHマーク。地デジ放送に使えるアンテナや関連機器に与えられるマークだ(もちろん、アナログ放送用にも使える)。詳しくは電子情報技術産業協会の解説ページを参照のこと

地デジ放送に対応しているUHFアンテナにはDHマークのロゴがつけられているものがある。これは電子情報技術産業協会が、地デジ関連機器を審査、登録して付与しているものだ。一種の品質保証マークで、このマークがつけられているアンテナなら安心して使える。また、アンテナはアナログ時代から比べて進化していないわけではなく、ケーブルとの接続部分、ケーブルなど、細かいところに改良が日々施されていて、最新のアンテナは、古いアンテナよりも感度がよくなったり、外来ノイズの影響を受けにくくなっている。使えるものを捨ててしまうのはもったいなので、今まで使っていたUHFアンテナが利用できるのであれば使うべきだが、専門業者に点検してもらい、老朽化、腐食などの問題が発見されたときは、思い切って新しいアンテナに交換してもらうと、安心して地デジライフを楽しめることになるはずだ。

このコラムでは、地デジにまつわるみなさまの疑問を解決していきます。深刻な疑問からくだらない疑問まで、ぜひお寄せください。(なお、いただいた疑問に個々にお答えすることはできませんので、 ご了承ください)。