テレビでもうおなじみの「ジャパネットたかた」で、「今おもちのテレビを5万円で下取りします!」というのをやっている。読者の方から「古いテレビがなぜ5万円もの高額で下取りできるのか?」という質問をいただいた。もちろん、古いテレビに5万円もの価値があるのではなく、値引き戦略の一種だ。しかし、これがなかなかツボをついたうまいやり方なのだ。

たとえば、ジャパネットたかたの通販サイトで、発売されているLED AQUOS 40V型(LC-40SE1)とブルーレイレコーダー(BD-HDS53)+オーディオラックのセットは、この原稿を書いている4月27日現在で、価格が24万9800円となっている。そして、古いテレビを下取りに出すと、実質19万9800円で購入できる。同じものを価格.comでの最安値を見てみると、10万4211円+7万9800円で、合計で18万4011円となる。もうおわかりだろう。ジャパネットたかたは元から下取り後の金額も想定した上で販売しているのだ。

なんで、こんな複雑なことをするのだろうか。「最初から素直に19万9800円で売ればいいじゃないか」と思う人もいるはずだ。しかし、この価格戦略は極めてうまい。おそらくはジャパネットたかた独特の手法で、こういうところにジャパネットたかたが躍進する秘密があるのだろう。ちなみに、ある大手量販店で同じ商品の価格を調べてみると、17万8000円+7万9800円で合計25万7800円となる(ただし、ポイントが10%つくので、実質23万2020円)。

ジャパネットたかたの通販番組をテレビで見ている人の気持ちになってみよう。最初に、量販店での表示価格と同じか、やや安い価格が提示される。この段階では、消費者はまだ買おうかどうか迷うだろう。しかし、ここで高田社長があのかん高い声で「お宅のテレビを5万円で下取りします!」といって、通販最安値に近い価格にドーンと落とす。そして、「さらにオーディオラックもつけちゃいましょう!」なのだ。次の瞬間には、電話機をあげてダイアルをしてしまう消費者が続出するという仕掛けなのだ。

しかも、この「下取り5万円」は、行動経済学の見地からも、非常に有効な手法だ。行動経済学の説くところによると、保有効果と呼ばれる「だれもが自分のもっていているものには、客観的価値よりも高く価値を見積もりがちである」心理がある。自分の持ち物は価値があると思いこみたいのだ。しかし、一方で、古くなったテレビの価値は実質0円であることも知っている。そこに高田社長は「あなたのテレビには5万円の価値がある」と言ってくれるのだ。価値があると思いこみたいけど、無価値であることを知っているテレビが目の前にある。それを高田社長は5万円の価値があるといってくれる。今、この"5万円の価値"を行使しなければ、また無価値に戻ってしまう。買うのだったら、今しかないという気持ちになってしまうのだ。

さらに、アナログテレビを今見ている人は「このテレビが壊れたら、あるいはアナログ地上波が停波したら買い替えよう」と考えている人も多い。しかし、その頃には今のテレビが無価値になることは明らか。5万円の価値があるうちに、その価値を行使したくなり、買い換えてしまうというわけだ。実は、地デジテレビ購入の障害になっている最大の理由は「今のテレビでじゅうぶん見られるから」というシンプルな理由。そこに対して、メーカーは「新しいテレビは素晴らしい」という対比のしかたしかできないが、ジャパネットたかたはどうすれば「古いテレビを手放してくれるか」ということを考え抜いている。消費者の立場になって考え抜いたからこそ、出てきたアイディアだろう。これこそ、小売店がやるべきことなのだ。

なお、5万円で下取りしたテレビは、すべて家電リサイクル法に従ってリサイクルされいている。ネットの掲示板などには「転売している」みたいな憶測が書き込まれていることがあるが、もしそうであったとしたら、リサイクル料金をとっているのだから法に触れる行為になってしまう。きちんと家電リサイクル法にのっとって処理されていることは、ジャパネットたかたのサイトにもきちんと記載されているし、ジャパネットたかた広報に問い合わせをしてみると、下取り手順については「お客様の所へ直接、リサイクル業者が対象商品を取りに伺っています。また、リサイクル券の排出者控えをその場で業者より手渡ししています」という手順で行っており、当然ながら「ジャパネットでは家電リサイクル法に則り、サービスを行っています」という回答があった。わかりやすく言えば、一般の小売店がやっているリサイクル作業と基本的に同じことをやっているだけなのだ。

たしかに「5万円で下取り」と言われると、「なんでそんなに高額で?」「なにか裏があるのか?」と思ってしまうのは自然なことで、ある意味では正しい消費者感覚だ。しかし、その仕組みがわかれば、実にまっとうなことをやっているだけであることがわかるはずだ。

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