キャッシュレス決済の方式として「前払式支払手段」があります。これは資金決済法で定義されているもので、一昔前でいえばテレホンカードがその代表的なものですが、商品券やカタログギフト券なども含まれます。要は、あらかじめ購入した金額分だけ利用できる支払い手段です。

定義上は、事前に残高をチャージして支払いを行うことも前払式支払手段に含まれることから、Suica/楽天Edy/WAONなどの電子マネー、PayPay/d払い/au PAYなどのようなQRコード決済もこの枠組みに収まることになっています。

こうした前払式支払手段の現状について、興味深い資料が公開されたのでご紹介します。

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前払式支払手段は、紙の商品券、磁気カードタイプのQUOカードやテレホンカード、ICカードのSuicaや楽天Edy、モバイル向けのモバイルSuica、QRコード決済のPayPay/d払い/au PAY、サーバー型になっているApple/Google/Amazonのギフトカードなどが当てはまります。スターバックスカードやスーパーの独自プリペイドカードなどもこの前払式支払手段です。

ちなみにギフトカードはコンビニエンスストアでも購入できますが、これは一般的にPOSAカードと呼ばれ、購入した残高をサーバーに登録することで有効化するというもの。POSAカード自体は前払式支払手段ではなく、有効化したサーバー上の残高が前払式支払手段に当てはまります。

そんな前払式支払手段に関して調査したのが業界団体の日本資金決済業協会で、同協会から「前払式支払手段の利用実態調査2024年結果報告書」が公表されています。

前払式支払手段以外も含む決済手段では、最も利用経験率が高いのは現金の94.8%、次いでポイントの88.7%、クレジットカードの82.9%と続きます。QRコード決済は64.9%、IC型プリペイドカードは約73.3%などとなっていました。

ただし、上記は「利用したことがある」支払手段の数字です。「最も頻繁に利用する」支払手段を聞くと、クレジットカードが33.7%でトップになり、次いで現金の29.7%、QRコード決済の14.5%となりました。

  • 支払手段の利用経験率

    支払手段の利用経験率。「使ったことがある」だと現金が最大ですが、「最も頻繁に利用する」だとクレジットカードになります

利用頻度では、紙の商品券や磁気カードは半数以上が年1回も利用しておらず、「概ね毎日」利用している手段だと、現金の19.8%を除くとQRコードの8.5%が最大で、クレジットカードの6.6%を超えています。「月に数回程度」まで合わせると、クレジットカードが85.2%で首位となり、次いでQRコード決済が73.8%でした。

  • 支払手段の利用頻度

    「概ね毎日」だと、意外に多いのがQRコード。クレジットカードを超えています。とはいえ、現金に比べるといずれも低頻度

コロナ禍もあったからか、この1年で利用が触れた決済手段を見ると、現金利用の減った人が多く、逆にQRコード/クレジットカード/ポイントの利用が増えた人が多くなっています。

  • 支払い手段の利用機会

    減少した現金利用に対してQRコードやクレジットカード、ポイントが大きく伸びています。電子マネーは振るわなかったようで、伸びが低め

最近、QRコード決済事業者も力を入れ始めている送金機能について、その機能を知っている人が49.3%程度と約半数にとどまっていました。利用者は19.2%とさらに少ない割合。このあたりは、今後の開拓の余地がありそうです。

  • 前払式支払手段の利用状況

    複数の設問の回答がまとまっていますが、「残高送付機能の利用経験有無」を見ると、利用率は19.2%。もう少し伸びても良さそうです

ちなみに2023年11月時点の決済動向を日本銀行がまとめた資料によれば、電子マネーの決済件数は5億2,600万回、決済金額は5,333億円となっていて、継続的に利用は上昇しています。キャッシュレス推進協議会による「コード決済利用動向調査」では、QRコード決済の月間アクティブユーザー数は7,000万を超えて順調に拡大しているようです。

  • キャッシュレス推進協議会のコード決済利用率調査

    キャッシュレス推進協議会のコード決済利用率調査。2023年にはアクティブユーザーが月間で7000万人を突破しています

他に、インフキュリオンの「決済動向2023年下期調査」では、電子マネーの利用率は57%で上期と変わらず、コード決済は68%で順調に伸びていました。

基本的に電子マネーは既存ユーザーの利用は増えているものの、新規ユーザーの獲得には繋がっていないのではないかという印象です。

こうした背景を踏まえて日本資金決済業協会の調査では、普及への課題も取りまとめています。紙の商品券や磁気カードは利用拡大は難しく、行政のプレミアム商品券のように、あくまで一時的な発行にとどまるのが現実でしょう。

  • 日本資金決済業協会によるまとめ

    日本資金決済業協会によるまとめ。普及への課題が挙げられています

ICカードは、「残高の分かりにくさ」を解消することで若年層の利用増加に繋げたい考えのようですが、もともと物理カードにはそうした問題がありました。それを考えると、モバイルへの移行を促す方が賢明に感じます。ただし、日本限定の仕組みであるFeliCaは、今後これ以上の拡大は難しいようにも感じます。

モバイルに関しても認知率は8割を超えているものの利用経験率は低く、特に女性60代の利用経験率が低い状況。課題としては、「システムトラブル」「使えるお店が限定」「個人情報の漏えい」といった不安を挙げる人が多かったそうです。

「モバイルの電子マネー」(モバイルSuicaなど)では個人情報の漏えいトラブルはあまりなく、システムトラブルもICカードと大差はないでしょう。使える店もモバイルだけ異なるということもありません。どちらかというと「スマートフォンの使い方が難しい」という不満の方が多いような気がします。

まあ、2008年にiPhone 3Gが登場してから15年、そろそろ多くの人がスマートフォンを使えるようになっていてほしいものですが、まだ使えない人がいて、モバイルでキャッシュレス決済の設定するのが難しいというケースも多そうです。

ちなみに同様の不安の声はQRコード決済にも寄せられているようです。当初発生したトラブルが尾を引いている格好ですが、やはり「新しいよく分からないもの」というイメージも先行しているように思えます。

日本のキャッシュレス決済比率は2022年に36%に達し、コロナ禍で順当に伸びていることから、23年は4割に達している可能性すらあります。さらなる伸びを実現するには、現状の課題を解消できるか、さらなる工夫が必要になりそうです。