2025年に、大阪で「大阪・関西万博(日本国際博覧会)」が開催されます。万博といえばご存じのとおり、各国がパビリオンを設置して様々な技術や文化を紹介するイベントです。基本的には5年ごとに開催され、前回は2021年のUAE(アラブ首長国連邦)でのドバイ万博でした(新型コロナウイルスの影響で1年延期)。

そして今回、大阪を中心に日本で万博が開催されることになって準備が進められています。4月6日には、大阪・関西万博(以下、大阪万博)では完全キャッシュレスになることが表明され、キャッシュレス決済のさらなる進展を目指したいという目標が示されました。

もともとこの大阪万博は、国内のキャッシュレス決済政策においてひとつの区切りとされていました。2025年、キャッシュレス決済はどのような状況になっているのでしょうか。

  • ミラノ万博の様子

    こちらは2015年のミラノ万博の様子

大阪万博はキャッシュレス決済の起爆剤になるか?

日本政府は、国内のキャッシュレス決済比率の拡大を目指しています。2018年の「キャッシュレス・ビジョン」において、当時18.4%のキャッシュレス決済比率を2025年6月までに4割程度に引き上げるという目標が掲げられ、将来的には80%を目指すとされました。

2019年からスタートしたキャッシュレス・ポイント還元事業、2021年/2022年と実施されたマイナポイント事業はその一環。実はもう1つ、大きなイベントとして東京五輪も想定されていたのですが、ご存じの通り新型コロナウイルスの流行によって無観客開催となってしまい、東京五輪でのキャッシュレス化の夢は断たれてしまいました。

次の区切りとなるのが、2025年の大阪万博のタイミングです。4月から開催される大阪万博に対して前述の目標達成期限が6月なのでぴったり重なるわけではないのですが、以前から大阪万博はキャッシュレス化のターゲットとされていました。世界各国から人が集まる万博に向けて、国内でもキャッシュレス決済を推進する気運が高まっています。東京五輪の前にもそうした気運がありましたが、それがご破算になってしまった今、“大阪万博”を合い言葉に様々な施策が今後も登場してくることが予想されます。

日本にとっても、東京五輪時点でのキャッシュレス移行よりは少し猶予ができたと言える状況です。キャッシュレス決済への移行は、インフラだけでなく消費者マインドの変化も必要になります。もともと進展しているキャッシュレスの状況に、人々の意識も変わってきているように感じますので、2025年には、さらにキャッシュレスへの移行は進んでいるでしょう。

とはいえ、80%という最終的な目標の達成はなかなかに難しそうです。基本的に、民間の努力だけは実現は不可能なので、政府による取り組み――現時点での動きはポイント事業ぐらいですが――も重要になります。

大阪万博自体が起爆剤となるというよりも、それに向けた取り組みが増えることで、キャッシュレス決済の進展が期待されます。加えて、大阪万博が終了して以降、キャッシュレス比率を80%に伸ばすための気運が政府/民間/消費者でそれぞれ高まれば、さらなる進展が見込めるでしょう。

大阪万博で何で変わるのか

大阪万博をきっかけにキャッシュレス化をさらに進めたいという状況を考えると、大阪万博が完全キャッシュレス化するのは自然な流れです。万博側の発表では、会場内で現金を取り扱わず、「日本最大級のブランド数による多彩な決済手段」でキャッシュレス化するとなっています。

現時点では60種類の決済手段に対応することが目標で、クレジットカードの国際ブランドであるVisa/MasterCard/JCB/銀聯など、交通系ICなどの電子マネー、PayPayや楽天ペイなどのQRコード決済に加えて、海外のQRコード決済に対応することを目指します。電子マネーと日本のQRコード決済の数が多いため、対応するのが60種類と膨れ上がっていますが、特に中国をはじめとしたアジア諸国のQRコードへの対応は重要でしょう。

「決済手段を持たない外国人来場者」という表現もありますが、日本を訪れる外国人旅行者が何らかのキャッシュレス決済手段を持っていないとは考えにくいので、その点ではクレジットカード(デビットカード)と一部アジアのQRコードをサポートしていれば大きな問題にはならないように思われます。キャッシュレス決済を持たない/使いたくない日本人などに向けては、現地でプリペイドカードの提供も行う方針で、現金を入金して会場内で利用する形になるようです。

筆者が体験したことのある万博は、2015年のイタリア「ミラノ万博」のみです。このときは現地で現金を使うこともできましたが、クレジットカードもサポートしていたので、旅行者(取材でしたが)としてはクレジットカードでの決済をしていました。「完全キャッシュレス」というのは、万博として「初めての試み」ということのようです(一部の飲料自販機で現金が使えるという話はあります)。

  • ミラノ万博における日本館の決済端末

    ミラノ万博における日本館の決済端末。クレジットカードに対応しており、現金の取り扱いもありました

もうひとつ導入されるというデジタルウォレットサービスに関しては、現時点では詳細が不明というか、おそらく「まだ決まっていない」というのが正確でしょう。独自の電子マネーとポイントサービスに加えてNFTやブロックチェーンといった技術も導入するそうです。今後、加盟店などの募集も行い、万博会場だけでなく一般の店舗でも利用可能にする考えです。スマートフォンを使ったサービスとのことなので、決済手段としてはQRコード決済になるのでしょう。

2023年度中にアプリのダウンロードを開始する計画で、事前に使い始められるようにして万博とキャッシュレスへの気運を高めつつ、万博後は「レガシー」としてサービスを継続するかどうか検討するとしています。

キャッシュレス決済とデジタルウォレットサービスは、SMBCグループ/りそなグループ/SBIグループ/三菱UFJフィナンシャルグループというメガバンク3行のグループとSBIによるコンソーシアムが運営。SBIはブロックチェーン技術のSBI R3が傘下にありますし、りそなグループもブロックチェーン技術を使った決済の実証実験をしたこともあります。SMBCはsteraがありますし、いろいろな技術・サービスを組み合わせてきそうです。

  • 埼玉りそな銀行などによる実証実験1
  • 埼玉りそな銀行などによる実証実験2

    埼玉りそな銀行などが実施した電子通貨決済の実証実験。ケロロ軍曹をモチーフにした電子コインを購入し、それを使った支払いをするというもの。応用が利きそうです

レガシーとして万博のオリジナルデジタルウォレットが継続するのか、各社のサービスのベースとして生き残るのか、展開としてはいろいろと考えられるでしょう。2022年のキャッシュレス決済比率は36%まで到達しており、4割に迫っています。大阪万博までにどこまで伸ばせるか、大阪万博後にどこまで伸びるか。新型コロナウイルスで東京五輪が区切りとならなかった今、大阪万博がキャッシュレス決済の試金石としても注目されます。