第1回で説明したように、Microsoft Azureは世界全域の50のリージョンで提供され、140カ国で利用可能です(2018年5月1日現在)。そのグローバルな規模もさることながら、サービスの種類も多岐にわたります。

Azureの製品サイトでは180以上(プレビューを含む)サービスの説明がありますが、Microsoft Azureの管理ポータル(https://portal.azure.com/、以下、Azureポータル)の「すべてのサービス」のカテゴリ別(全般、計算、ネットワーキングなど)のリストでは250以上のサービスメニューを確認できます(プレビュー版および他のカテゴリとの重複を含む)。

  •  Azureポータル(https://portal.azure.com/)の「すべてのサービス」

    Azureポータル(https://portal.azure.com/)の「すべてのサービス」

これらの膨大な数の利用可能なサービスには、前回(第2回)に説明した3つのサービスモデル、すなわち「サービスとしてのソフトウェア(Software as a Service:SaaS)」「サービスとしてのプラットフォーム(Platform as a Service:PaaS)」「サービスとしてのインフラストラクチャ(Infrastructure as a Service:IaaS)」では単純に分類するのが難しいものもあります。クラウドが進化、普及してきた今では、明確に分類することにあまり意味はないこともあります。

しかしながら、さてAzureを始めてみようと思っても、どこから手を付けていいか途方に暮れてしまうかもしれません。あるいは、管理ブレードを操作していて迷子になってしまうこともあるでしょう。Azureポータルのブレードとは、ブレードとは、Azureポータル上で特定のサービスを管理するための左側に展開されるページのことであり、詳細な設定に入っていくうちに、知らないうちに別の管理ブレードに移動しているということもあります。

古くからAzureに接している人であれば、新しいサービスが追加されたり、新しい機能に拡張されたりといった経緯を目の当たりにしてきたわけですが、初めてAzureと向かい合う初心者にとっては道案内が必要です。

その道案内ですが、筆者はサービスモデルがはっきりと分かれていた、Azureのサービス開始時点にまで遡るのが早いと考えています。それも、Azureポータルの変遷を見ながらAzureの歴史を振り返ることで、古くからのAzureユーザーがたどった道を追体験してもらうのが良いでしょう。

Azure黎明期、それは開発者のためのクラウドだった

Azureは2008年10月27日に開催されたマイクロソフトのイベント「PDC 2008」で初めて発表され、2010年1月に正式なサービスの一般提供が始まりました。当時は、「Windows Azure」あるいは「Windows Azure Platform」と呼ばれていました。以下の画面は、2010年1月のサービス提供開始直後の管理ポータルです。

  • 2010年1月のサービス提供開始直後のWindows Azureの管理ポータル

    2010年1月のサービス提供開始直後のWindows Azureの管理ポータル

Azureのサービス開始当初、次のようなサービスとツールが利用可能でした。「コンピューティング(Webロール、Workerロール)」「ストレージ」「SQL Azure」といった、PaaSのために必要な少数のサービスで始まりました。

アプリ開発者は、開発ツールであるVisual Studioを使用してWebフロントエンドやビジネスロジックを開発し、ローカルのCUIエミュレーターでテストしたあと、Azureのステージング環境にデプロイし、その後は本番環境にデプロイするという手順で、クラウドで稼働するWebサイト/アプリを構築することができました。ストレージやSQL Azureは、Webサイト/アプリのためのクラウド上の記憶域およびデータベースとして利用できるものです。

サービス開始当初は、Windows ServerのIIS/ASP.NET、SQL Server、Visual Studioというマイクロソフトの技術に基づいたPaaSでした。現在も「Azure App Service」の「Web Apps」や「Azure SQL Database」として、これらのPaaSは提供されていますが「Web Apps for Linux」「Azure Database for MySQL」「Azure Database for Postgre SQL」「Azure Cosmon DB」など、マイクロソフトの技術に限定されないオープンな技術を利用できます。

また、WindowsのVisual Studioだけでなく、Linux/Mac、Eclipse、IntelliJ、Mavenなど使い慣れたプラットフォームや開発ツールから利用できます。

以下の画面は2010年11月に刷新されたMicrosoft Silverlightベースの新しいポータル(Windows Azure Platform Management Portal)です。現在の「Azure仮想マシン」の前身であるVMロールのプレビュー提供が始まり、ロールへのリモートデスクトップ(RDP)接続も可能になりました。

  • 2010年11月に刷新された2代目のAzureポータル(Windows Azure Platform Management Portal)

    2010年11月に刷新された2代目のAzureポータル(Windows Azure Platform Management Portal)

サービス内容に大きな変更はありませんが、インスタンスのRDP接続は開発者の手助けになったはずです(ログ解析やチューニングなどで)。それまでは、コードをデプロイして実行するだけの、文字通り雲(Cloud)をつかむような環境だったという印象です。

IaaS/Azure ADの登場で、ターゲットはITプロへ拡大

以下の画面は2012年6月に登場し、つい最近まで利用可能であった3代目のAzureポータルです。2015年12月に現在のAzureポータルが正式版となってからは「クラシックポータル」と呼ばれていました。3代目ポータルは主要なWebブラウザーから利用可能なHTMLベースになり、Microsoft Silverlightの依存性がなくなりました。

  • このAzureポータル(クラシックポータル)のもとで、Azureのサービスが拡充していった。このポータルは2018年1月8日に完全に終了

    このAzureポータル(クラシックポータル)のもとで、Azureのサービスが拡充していった。このポータルは2018年1月8日に完全に終了

現在のAzureのサービスの双璧を担うIaaSである「Azure仮想マシン」や「Azure仮想ネットワーク」は、このポータルの下で2013年4月から正式に一般提供となりました。

その後、「Azure Backup」や「Azure Site Recovery」など、IaaSに関連するサービスが拡張されていきます。このポータルで登場したもう1つの重要なサービスに、2013年2月に正式に一般提供となった「Azure Active Directory(Azure AD)」があります。

Azure ADは、もともとクラウドアプリのためのID管理サービスを提供するものですが、MicrosoftのSaaSであるOffice 365やMicrosoft Intuneのディレクトリでもあります。現在は、オンプレミスのActive Directoryとの統合や、Windows 10デバイスへのサービス(Azure AD参加)などにも利用されています。

そして現在のポータルへ、新旧APIの混在に要注意

2015年12月、現在のAzureポータルが正式に一般提供となり、その後の新しいサービスの追加や機能拡張は、新しいAzureポータルに対して行われるようになりました。2年ほどの移行期にはクラシックポータルと両方を利用できたわけですが、両者にはポータルだけでない大きな違いがあることを知っておく必要があります。それは、次の2つのサービス管理APIの違いです。

  • Azureサービス管理(Azure Service Management、ASM)
  • Azureリソースマネージャー(Azure Resource Manager、ARM)

ASMはXMLベースのAPI、ARMはJSONベースのAPIです。クラシックポータルはASMに基づいて構築されていますが、新しいポータルはASMとARMを利用可能であり、既定はARMです。前者に基づいたリソースやデプロイは、新しいポータルでは「クラシック」や「クラシックデプロイ」と呼びます。

すでにクラシックポータルは存在しませんが「仮想マシン(クラシック)」や「ディスク(クラシック)」など、クラシックタイプのリソースやクラシックデプロイは現在のポータルでも引き続き利用可能です。そのため、これからAzureを始める人にとって、クラシックは無用です。クラシックポータルで構築した環境にリソースを追加するなどの特別な理由がない限り、クラシックタイプのリソースやデプロイは利用するべきではないでしょう。

  • 特別な理由がない限り、クラシックタイプのリソースやクラシックデプロイの利用は避けるべき

    特別な理由がない限り、クラシックタイプのリソースやクラシックデプロイの利用は避けるべき

クラシックポータルは廃止されましたが、ASMのサポートは継続されており、その意味でまだ移行期と言えます。

そのため、Azureで現在、“クラシック”という表現はクラシックポータルから利用できていたASMに基づく、レガシーなタイプという意味合いで利用されることが多いのですが、コンテナやサーバレス(Logic as a Service:LaaSと呼ばれることもあります)の新しい技術の進化や普及、あるいはまだ登場していない全く新しい技術の登場により、今後はIaaS(あるいはPaaSを含めて)というクラウドのサービスモデルの分類そのものが“クラシック”と呼ばれるようになるかもしれません。その点については、ご注意ください。

<著者プロフィール>

山市良
Web媒体、IT系雑誌、書籍を中心に執筆活動を行っているテクニカルフリーライター。主にマイクロソフトの製品やサービスの情報、新しいテクノロジを分かりやすく、正確に読者に伝えるとともに、利用現場で役立つ管理テクニックやトラブルシューティングを得意とする。2008年10月よりMicrosoft MVP - Cloud and Datacenter Management(旧カテゴリ: Hyper-V)を連続受賞。ブログはこちら。

主な著書・訳書
「インサイドWindows 第7版 上」(訳書、日経BP社、2018年)、「Windows Sysinternals徹底解説 改定新版」(訳書、日経BP社、2017年)、「Windows Server 2016テクノロジ入門 完全版」(日経BP社、2016年)、「Windows Server 2012 R2テクノロジ入門」(日経BP社、2014年)などがある。