小型ハッチバック車のお手本として長い歴史を重ねてきたフォルクスワーゲン「ゴルフ」の新型が、ついに日本上陸を果たした。8世代目にあたることから「ゴルフ8」と呼ばれる新型車は、電動化とデジタル化が話題だ。クルママニアの安東弘樹さんは、新型ゴルフをどう評価するのか。

  • フォルクスワーゲンの新型「ゴルフ」

    フォルクスワーゲンの新型「ゴルフ」

日本で買える新型ゴルフは値段の安い順に「eTSI アクティブ ベーシック」(291.6万円)、「eTSI アクティブ」(312.5万円)、「eTSI スタイル」(370.5万円)、「eTSI Rライン」(375.5万円)の4グレード構成。全車種がマイルドハイブリッド(MHV)車で、前2車種が1.0Lガソリンターボエンジン、後2車種が同1.5Lを搭載する。安東さんが乗ったのは「アクティブ」と「R-Line」だ。

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    安東さんが乗った新型「ゴルフ」

驚異のスタビリティを実感

マイナビニュース編集部(以下、編):まずはデザインについてお聞きします。率直に、ゴルフ8の見た目はいかがでしょうか? 特に顔については、賛否両論あるようですが……。

安東さん(以下、安):私は素直にカッコいいと思います。これまでのゴルフは保守的過ぎて、購買意欲を刺激されたことはなかったのですが、今回は「顔」を含め退屈ではないエクステリアに好感を持ちました。

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    顔つきはかなり変わっているが、デザインについては好感を持ったと安東さん

:次は「電動化」についてです。日本で買えるゴルフ8は全グレードがMHVですが、走りはいかがでしたか? MHV搭載により1.0Lでも力不足を感じない、といったような意見もありました。

:1.0Lでは高速道路、1.5Lでは山道を走りましたが、特に1.0Lについては、エンジンだけではない全体としてのスタビリティに驚愕しました。

試乗時間を勘違いしていて高速で遠くに行き過ぎてしまい、時間内に戻るため帰りは少し急いだのですが、メーターを見ると結構な速度になっていて、慌てて減速したことがありました。たった1.0Lのエンジンなのに、この速度で安定して走れるパワーユニットはすごいと思いましたが、クルマ全体の剛性にも舌を巻きました。

:「DSG」(デュアルクラッチトランスミッション)は走り出しで引っかかりを感じる、という評価もありましたが、ゴルフ8はいかがでしたか? MHVが走り出しをアシストしてくれるので、発進がスムーズだったように感じたのですが。

:私は常にマニュアルモードで走っているので、これまでのゴルフでもDSGに違和感を覚えたことはなかったのですが、今回の新型では確かに、DSGの洗練の度合いが増したことを実感できましたね。MHVとの組み合わせにより、いかにスムーズになったかについては説明を受けましたが、実走して納得できました。

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    スピードを出しても安定して走れるスタビリティの高さは、さすがは「ゴルフ」といったところか

:ゴルフ8のもうひとつの話題は「デジタル化」ですが、どんな感想でしょうか? デジタル化されたコックピットは見やすく、使いやすかったですか?

:メーター自体はとても見やすく、自分が求める情報もすぐに呼び出せて、違和感はなかったです。グラフィックの色も私には見やすく、特に凝った意匠はありませんが、それがゴルフのゴルフたるゆえんでしょう。

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    新型「ゴルフ」のデジタルコックピット

:エアコンやオーディオをスライド操作とするなど、操作系にも変化があったと思いますが。

:このスライド操作は正直にいいますとイライラしたので、結局、使いませんでした。YOUTUBEなどで海外ジャーナリストの動画を見ても、この操作系は不評でしたね。実際に自分で操作してみて、海外ジャーナリストの評価に納得しました。ただ、オーナーになって慣れていけば、便利だと感じられるかもしれませんので、チョイ乗りしただけの段階でこういった評価を下すのは無責任かもしれません。

:運転支援システム「トラベルアシスト」は試されましたか? 制御の精度を含め、いかがでしたでしょうか?

:試しましたが、最近のドイツ車はおしなべて優秀ですので、ゴルフももちろん、違和感なく安心して使えました。ただ、これは個体差だと思うのですが、高速道路で通常走行している時に、セットしようと思ったら「ACCの作動範囲外です」と警告が出て、セットできないケースが2回ありました。フォルクスワーゲン グループ ジャパン(VGJ)の方に確認してみたら、「単なるバグだと思います、すみません」とのことでした。

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    ワンタッチで自動運転レベル2相当の追従走行を起動させられる「トラベルアシスト」

新型「ゴルフ」は誰にオススメのクルマ?

:価格についてもお聞きします。1.0Lの「アクティブ」と1.5Lの「スタイル」の間には約60万円と結構な価格差がありますが、どう思われますか? 1.0Lでも装備はそこまで貧弱になりませんし、見た目もほぼ同じなので、私なら1.0L、しかも最安値の「アクティブ ベーシック」で十分なのではないかと思ってしまいます。60万円をプラスして1.5Lを選ぶ意義はあるのか、そのあたりについてお聞かせください。

:いい質問ですね~(笑)。確かに、「スタイル」を選ぶ理由は薄いですね。インポーターもそれは理解しているようで、「ほとんどのお客様がアクティブを選ばれるのでは」と話されていたと記憶してます。

ただ、「ベーシック」だとほとんどのオプションを選べないので、それなら20万円の差ですので、アクティブが最もお買い得だと思います。しかも、ご指摘の通り1.5Lのエンジンは1.0Lより確かに余裕はありますが、1.0Lでも結構な速度で巡行できたことを考えれば、1.5Lを選択する理由は見当たりませんね。「R-Line」も、今後導入される「GTI」との価格差が現行モデル比で50万円もないので(新型は多少は価格が上がるとは思いますが)、正直、1.5Lモデルは1年後にはドロップするのでないかとさえ思っています。

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    新型「ゴルフ」の本命は1.0Lエンジンを搭載する「アクティブ」か

:「ゴルフ」自体にこれまでどんなイメージをお持ちでしたか? そのイメージを踏まえてゴルフ8をご覧になったとき、どんなご感想でしょうか? ゴルフはあくまでゴルフだったのか、あるいは何か別のクルマになってしまったのか、といったような意味の質問です。

:ゴルフは皆さんご指摘の通り、「5ドアハッチバックのメートル原器」というイメージです。「天才とまではいかない優等生」といったところでしょうか。器用貧乏で、モテるタイプではないけれど、結婚相手としては申し分ないパートナーといった感じですかね(笑)。

デザインについても、確かにフロントフェイスでは攻めていますが、全体的には保守的ですし、内装は基本的に「グレー一色」です。凝った意匠や隠し玉のような演出はありません。アンビエントライトの色は下位グレードで10色、上級グレードなら30色から選べますが、こちらも控えめですし、やはりゴルフ以外の何物でもないといった印象でした。

これは、いい意味でもあります。新型のゴルフ8は高速域での驚異のスタビリティがあって、安全装備は最新のものが備えられていてキチっと作動する。「全方位で優れている」という、実は難しいことを体現できているのではないでしょうか。評価に値すると思います。

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  • フォルクスワーゲンの新型「ゴルフ」
  • 一見すると控えめなイメージだが、これも「ゴルフ」の「ゴルフ」たるゆえんだ

:最後に、ゴルフ8は「買い」ですか? 値段から行くとアウディ「A3」の新型が10万円差くらいで買えそうですし、小型ハッチバックの輸入車はプジョー「208」があったりと、選択肢が豊富です。そんな中で、ゴルフ8を選ぶ意義とは何でしょうか。「300~400万円で、いいクルマが欲しい」と相談を受けたら、ゴルフ8はどのくらいの順位で勧めますか?

:これは難しい質問ですね(笑)。

ちょうど新型「A3」も乗ったばかりですので比較できるのですが、A3はベーシック価格でゴルフ8と10万円の差ですが、オプション価格が高く、私が乗った「1stエディション」は472万円でしたので、競合にはならないかもしれません。

  • アウディの新型「A3」

    アウディの新型「A3」

:プジョーの場合、競合するのは「308」だと思いますが、このクルマとの比較であればゴルフを勧めるでしょうね。308はモデル末期というのもありますが。ですから、相談してきた方が、「クルマで自己表現をしたい」タイプか、「とにかくいいクルマが欲しい」タイプか、「コスパだけで考える」タイプかによって、ゴルフ8を勧めるかどうかが変わってきます。

具体的には、後2つのタイプの方にはゴルフ8を勧めますが、自己表現タイプには勧めないと思います。そういう人にはルノーの「メガーヌ」や、意外かもしれませんがトヨタの「カローラスポーツ」を提案するかな~。カローラの場合、実は上位グレードでオプションを満載にすると350万円くらいになってしまうのですが、いまだに濃い色のカローラスポーツを街で見かけると目で追ってしまうほど、私にはクールに見えます。

勧める順位でいけばゴルフ8は上位にきますが、人によっては勧めないかもしれません。

:安東さんがゴルフ8を買う可能性はありますか?

:うーん、今のところ、購入する可能性は低いです(笑)。4人家族が乗るには少し狭いですし、現状、4輪駆動車のラインアップもありませんし、MTモデルもないですからね。ただ、私の様なクルママニアが人生の最後に乗るのが、もしかしたらゴルフのようなクルマなのかもしれませんね。

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    「ゴルフ」はクルママニアが最後に行きつく1台?

:最後に思うところを申し上げますと……。

日本にはMHVとはいえガソリンエンジンを積む新型のゴルフが、本国に比べ1年半遅れで導入となりました。しかし、グローバルで見ると、ゴルフの実質的な後継車といわれているEV(電気自動車)の「ID.3」がワールド・カー・オブ・ザ・イヤーを獲得しているんです。発表から1年半の間に、ドイツ本国では時代遅れになってきたクルマが、ようやく日本市場に入ってきた、という感覚すら覚えます。

実際に、VWとしては、ゴルフのエンジン車はヨーロッパ以外の国に向けたクルマという位置づけだそうです。2020年は、ヨーロッパだけで見るとゴルフが最も売れたクルマになりましたが、その内の3分の1が日本導入未定のプラグインハイブリッド(PHEV)のゴルフでした。そして、絶対数ではまだまだゴルフには及ばないものの、ID.3の販売台数の伸び率は、ゴルフをはるかに凌駕しています。ID.3より上位クラスの「ID.4」も人気を博していますから、これからのVGJは難しい舵取りを強いられると思います。日本市場が急激にヨーロッパの様にならないで欲しい、というのが本音なのではないでしょうか。

先日、VGJの社長が「ゴルフ8は最後のゴルフではない」と断言していらっしゃいましたが、今後、クルマの電動化が進んでいくのは間違いないと思います。そういう意味では、エンジンを搭載するゴルフに今のうちに乗っておくというのは、悪くないかもしれませんね。ゴルフは間違いなく、歴史に名を遺すクルマですから。