昔は、飛行機の降着装置はみんな固定式だった。しかし、性能向上に伴い、空気抵抗を増やす降着装置は邪魔だということになり、飛行中は内部に収納する、いわゆる引込脚が登場した。そのせいで、脚を出し忘れて着陸してしまうとか、脚が降りなくなって胴体着陸する羽目になるとかいう事故も起きているが、それはそれとして。

固定脚

飛行速度が低く、かつ価格を安く、構造をシンプルにまとめたい軽飛行機や小型機は、今でも固定脚である。下の写真は、MRJ初飛行の取材で訪れた県営名古屋空港から飛び立っていった、中日本航空のセスナ208Bグランドキャラバン。

固定脚の例・セスナ208Bグランドキャラバン

この機体では降着装置はむき出しだが、できるだけ空気抵抗を少なくしたいということで、固定脚のまま、スパッツと呼ばれるカバーで降着装置を覆った機体が、昔はけっこうあった。例として、ボーイングP-26戦闘機を示す。

スパッツ付き固定脚を使用するボーイングP-26戦闘機 Photo:USAF

このP-26も含めて、第2次世界大戦の頃までのレシプロ戦闘機は大半が尾輪式だった。上のP-26の写真でおわかりの通り、尾輪だとストロークが短いので、脚柱とオレオを一体化することはしない。前方ヒンジで下に降ろした脚柱の先に車輪(または橇)を取り付けて、その上に別途、オレオを設けて衝撃の吸収を図る形が一般的だ。

引込脚

固定脚でなければ引込脚だが、実のところ、引っ込め方のバリエーションはかなり多い。取り付けられる場所と収納する場所に、それぞれ制約要因があるからだ。

降着装置を取り付けられる場所は、機体構造に関わる理由(第27回を参照)によって、ある程度制約される。また、それと地上にいる時にちゃんと立っていられるかどうかという安定性の問題もある。重心位置と比べて降着装置の位置が前方あるいは後方に外れていると、地上でちゃんと立っていられなくなったり、離着陸時の操縦を邪魔したりする。

また、左右の主脚の間隔が狭いと、地上滑走中の安定性に問題が出てくる。だから、ある程度の間隔は欲しい。これも取り付ける位置を制約する要因のひとつとなる。

ところが、一方では「機体内のどこに収納スペース(脚収納室)を設けるか」という問題もある。脚収納室は降着装置がすっぽり収まるだけのサイズを必要とするから、それだけの空間を、降着装置の近隣で確保しなければいけない。しかも、そこに機体構造材を構成する桁を通すわけにはいかない。

これが戦闘機や爆撃機になると、胴体や主翼の下に兵装や燃料タンクをつるして飛ぶから、それらとぶつからないようにしながら降着装置を出し入れしなければならない、という制約まで加わる。だから、降着装置のメカ的な面白さという話になると軍用機のほうが上を行くし、バラエティも豊富だ。

三車輪式の場合、最もわかりやすい形は、「首脚は前方か後方に振り上げて収納、主脚は左右の主翼下面に取り付けておいて内側に振り上げて収納」となる。旅客機は大抵このパターンだ。例として、ボーイング767をベースとしている、航空自衛隊のKC-767給油機が離陸した直後の写真を示す。地上にいる時は脚柱の部分しか扉が開いていないが、出し入れの際には車輪収納部の扉も開くので、動きがわかりやすい。

離陸した直後のKC-767。首脚は前方向きに振り上げて収納する。主翼下面についた主脚はそれぞれ内側に振り上げて収納する

前に上げるか、下に上げるか

さて。MRJも含めて、大抵の旅客機は首脚を前方に向けて振り上げて収納する。理屈の上では、後方に向けて振り上げて収納してもいいのだが、前方振り上げが多いのにはちゃんとした理由がある。

降着装置の上げ下げには力がいるので、油圧を使うのが普通だ。昔の戦闘機では手でハンドルをグルグル回して上げ下げしていた機体もあって、それではパイロットが疲れてしまう。そして第17回で解説したように、油圧の源はエンジンで回す油圧ポンプである。

ということは、エンジンが停止すれば油圧ポンプも止まってしまうから、油圧で動くものは使えない。エンジンが回っていても、故障や破損、軍用機の場合には被弾損傷もあり得るが、とにかくさまざまな理由から作動油が漏れてしまうこともある。そうなったら動翼は動かないし、降着装置の上げ下ろしもできない。

そこで、首脚を収容する向きの話に関わってくる。もしも首脚が後方振り上げ式だったら、収納している首脚を降ろす時は空気の抵抗にあらがいながら降ろさなければならない。その点、首脚を前方振り上げ式にしていれば、ロックを外して収納室の扉を開くことで、空気の流れにアシストされて脚を降ろすことができる。

もちろん、中途半端に降ろすのではかえって危険で、ちゃんと下まで降ろしてロックできなければ着陸はできない。それでも、前方振り上げ式のほうが緊急時に具合が良いということで、この方法を使う機体が多い。

もっとも、先に述べたように降着装置の取り付け場所や収納室の設置場所が絡んでくる問題でもあるので、みんながみんな前方振り上げ式とは限らない。ことに戦闘機だと、案外と後方振り上げ式の機体がある。機体が小さい分だけ、収納室の場所を確保できるかどうかという問題がシビアに出るからだろうか。

ちなみに主脚はどうかというと、主流派は内側振り上げ式。前述したように、滑走時の安定性を考慮すると、ある程度の左右間隔が必要になる。だから、取り付け位置は主翼下面となる。そして、機体が大型になると主脚は並列のダブルタイヤにすることが多く、それでは主翼内部に収納スペースを確保しようとしても主翼の厚みが足りない。そこで、収納室を胴体内の翼胴結合部に設けることになり、結果として内側振り上げ式ということになる。

それだと「自然落下で降ろせるの?」と疑問に思えるが、主脚のほうが大きくて重いから、なんとかなるのだろうか。

C-130みたいな軍用輸送機だと、胴体の側面に主脚を収納するためのバルジ(張り出し)を設ける方法をとっており、いささか流儀が異なる。軍用輸送機は後部ランプから車両を積み卸しするので床を地面に近づける必要があり、しかも機内に脚収容室が食い込めば貨物室のスペースを圧迫する。

だから、降着装置の長さを短くするとともに外部のバルジに収容するようにして、「床を低く」「収納室を機内に食い込ませない」という要求を解決している。不整地でも離着陸できるように、タイヤの数を増やして接地圧を下げる機体が多いのも、軍用輸送機の特徴だ。

航空自衛隊のC-130Hが離陸した直後。胴体側面のバルジに主脚を収容しようとしている様子が見て取れる

また、プロペラを使用する多発機だと、エンジンナセルに主脚を収納する機体が多い。ジェット・エンジンと違い、レシプロ・エンジンやターボプロップ・エンジンはナセルの中をまるごとエンジンにするわけではないので、エンジンの後ろに脚収納室のスペースを取れる。

海上自衛隊のP-3C哨戒機。首脚は定石通りの前方振り上げ式、主脚は内側2基、つまり2番エンジンと3番エンジンのナセルに収容する