新明和というと、特装車や飛行艇、駐車場など、多様な製品を手掛けているメーカー。ところが実は、空港の必需品であるボーディング・ブリッジ(PBB : Passenger Boarding Bridge)でも多くの納入実績がある。

話はいささか旧聞に属するが、新明和が2020年3月に、こんなプレスリリースを出していた。

航空旅客搭乗橋「フルオートシステム(完全自動装着システム)」を開発

新明和というと、特装車や飛行艇、駐車場など、多様な製品を手掛けているメーカー。ところが実は、空港の必需品であるボーディング・ブリッジ(PBB : Passenger Boarding Bridge)でも多くの納入実績がある。

PBBは手動操作が一般的

旅客機がスポット・インすると、ターミナルビル側に待機しているPBBが移動して、ドアの位置に寄せてくる。最後に、雨風を避けるための覆い(クロージャ)を接続すると作業完了、これで乗降が可能になる。

PBBを手動で動かす際に使用する操作卓は、PBBの先端部、機体に面した場所の端に設けてある。ターミナルビルの側から見ると、機体に通じる開口部の左側に操作卓を置くのが一般的だ。乗降に使用するのはL1ドアとL2ドアが通例で、PBBと機体の位置関係はどこの空港でも同じだから、左側に置く方が通行の邪魔にならないのだろう。

機内でも前方寄りにある上級クラスの、左側の窓側席(つまりA席)に座っていれば、機体がスポットに着いた後でPBBが寄ってくる様子がよく見える。そのとき、PBBの先端部・機体に面した側で、操作員が操作卓に取り付いている様子がわかるはずだ。

機体によって扉の位置が異なるから、常に同じ場所に寄せればいい、とは行かない。また、1ヶ所だけ接続することもあれば、大型機では2カ所接続することもある。エアバスA380みたいに二階建ての機体が来ると、アッパーデッキ側のドアにもPBBを接続しなければならないことがある。

手動操作だから、オペレーター個人の技量に依存する部分が大きく、接続までの所要時間に差異が生じる事態は避けられない。自動化によって、常に円滑に接続を可能にして、かつ所要時間を一定にできれば、降機できるようになるまで機内で待っている旅客のイライラを、多少は減らせるかも知れない。

新明和では最初に、機体の10cm手前までPBBを寄せる段階について、自動化を実現した。これは2017年5月から徳島空港で試用しており、その後に成田国際空港でも導入されたという。ただしこの段階では、10cm手前まで寄せた後の作業は手動だった。

  • 自動装着システムを搭載した航空旅客搭乗橋(徳島阿波おどり空港) 写真:新明和

  • 航空旅客搭乗橋自動装着システムの概要 資料:新明和

フルオートの鍵はステレオカメラ

そして2020年3月に発表したのが、完全自動化を実現した「フルオートシステム」。新明和のプレスリリースによると、フルオート式では2台のカメラを使用して、扉の位置を3次元的に認識しているという。

なるほど確かに、カメラが1台だけでは、扉の位置は認識できても、映像による距離の把握が難しい。3次元的な位置の認識には2台のカメラによる、いわばステレオ撮影が必要になる理屈だ。どこかで聞いたような話だと思ったら、スバル車でおなじみのEyeSightと同じである。

ただしフルオートといっても、いきなり機体のところまで寄せるのではなく、最初は機体から1m手前まで寄せたところで一旦停止する。そこで改めて2台のカメラを使って扉の位置を確認したところで、レーザー距離計で距離を測りながら徐々に寄せて行って、機体にPBBをつける。最後にクロージャを展開すれば作業完了、降機が可能になるというわけだ。

では、レーザー距離計だけではいけないのか。レーザー距離計があれば精確な距離がわかるが、扉の位置がわからない。機体の側に新たな機器を追加することなく、扉の位置を外部から認識するためには、映像情報を使用するしかない。

幸い、PBBにつけるような旅客機であれば、扉の位置や形状やサイズにべらぼうな違いはない。そういう意味では、認識は比較的やりやすい部類といえるかもしれない。ただ、エアラインによって機体の外部塗装に違いがあるし、扉の輪郭が同じ形状でも、窓の位置や形状は意外とバラエティがある。

また、PBBの開口部と機体側の扉の位置関係に注意する必要がある。なぜかというと、扉を開閉する操作、そして開いた扉が、PBBと干渉してはいけないからだ。扉が単純な外開き、あるいは外に飛び出して左右にスライドする形態では、そのための空間がないと困る。

例えば、PBB側から見て扉が左に開くのであれば、PBBを機体につけた時に、左側に空きスペースを確保しておかないと、開閉ができなくなる。767のL1/R1ドアみたいに、扉が機内に引っ込んで、しかも上方にスライドして開く形であれば、PBBと干渉する心配はないのだが。

そこで、画像認識機能の部分に人工知能(AI : Artificial Intelligence)と機械学習を持ち込み、学習によって適応能力を高めていくことで、エラーを抑え込む仕組みになっている。天候や明るさの違い、光の加減によって見え方が違ってくる可能性もあるが、それもやはり学習の対象ということになるのだろう。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。