ハッと気付いたら、エンジン関連の話が10回以上も続いていた。いくら機械工学科出身のメカ好き・エンジン好きとはいえ、これは調子に乗りすぎである。ということで話題を変えて、飛行機の中でも特にメカ好きを喜ばせるパート、つまり降着装置の話に移ることにしよう。
降着装置とは
降着装置というと物々しいが、要するに「脚」である。固定翼機は滑走できないと離着陸ができないから、普通は脚柱に車輪が付いて走れるようになっている。ただし、その車輪がちゃんとした空気入りのゴムタイヤになっていることもあれば、空気が入らないゴムの塊、つまりソリッドタイヤになっていることもある。
固定翼機における降着装置の配置は、大きく分けると「尾輪式」と「三車輪式」に分けられる。
尾輪式というのは昔のプロペラ機に多い配置で、例えば先日に里帰り飛行を行った零式艦上戦闘機(いわゆるゼロ戦)もその1つ。サイズは小さいものの、尾輪もちゃんと車輪が付いている。機体を支える主役は前方の主翼付近に取り付いた「主脚」で、地上にいる時は「頭上げ」の姿勢になっている。
当然、前方視界は良くない。後述するように、離陸時の滑走では問題ないが、問題は地上でのタキシングだ。だから昔の戦闘機では、主翼の上に整備員が乗って前方を監視しながら、パイロットに「右」「左」と合図していた事例もある。
余談だが、尾輪式の機体で着陸時に頭上げ姿勢と角度をそろえた状態で進入して、主脚と尾輪を同時に接地させることを「三点着陸」という。
尾輪式の機体の中には、尾輪が車輪付きではなくて尾橇になっているものもある。もちろん、こちらのほうが滑走する時の抵抗は大きいはずだが、構造は簡単になる。舗装された滑走路だとこすれてしまって使い物にならないが、昔の未舗装や草地の滑走路なら、尾橇でも使えるわけだ。
対する三車輪式は、機首の下面に取り付けた「首脚」と、主翼付近の下面に取り付けた「主脚」の組み合わせ。どちらも読みが同じ「しゅきゃく」だからまぎらわしいが、漢字は違う。三車輪式の機体が地上にいる時は、胴体は基本的に水平である。ただし時々、頭上げになっている機体や頭下げになっている機体もある。
三車輪式だが4本脚・5本脚
ボーイング747やエアバスA380は三車輪式に分類されるが、実は主脚が2本ではなく4本あるから5本脚だ。似たような例で、マクドネルダグラス(現ボーイング)DC-10やMD-11の中には、主翼に加えて胴体中央にも主脚を追加して4本脚になっているモデルがある。長距離型は重量が増加したので、それを支えるために脚を増やしている。
変わった配置いろいろ
変わったところでは、「自転車式」がある。自転車は前後にひとつずつの車輪が付いているが、それと同じように、胴体下面に前後に並べた配置だ。
典型例としてロッキード社(現ロッキード・マーティン)のU-2偵察機がある。高度6万フィート(約1万8000m)を超える高空まで舞い上がるため、少しでも機体を軽くしたかった。そこで、降着装置の重量をケチる目的でこうなった。写真を見るとわかるが、降着装置はいかにも華奢である。
U-2の場合、胴体下面に取り付けた降着装置は機内に引っ込めるが、さらに、細長い主翼を支えるために「ポゴ」と呼ばれる補助輪が付いている。こちらは離陸したら切り離して地面に投下してしまう。
では着陸の時はどうするかというと、支援要員が乗ったスポーツカーが滑走路を追走して、着陸のタイミングをパイロットに教えるとともに、接地して停止したら直ちに主翼にポゴを取り付ける。その際に機体が安定するように、支援要員が主翼に飛びついて機体を押さえるという手を使う。
ボーイングB-47ストラトジェット爆撃機も自転車式だが、さすがにクルマで追いかけてポゴを取り付けるには相手が速く、大きすぎるため、ちゃんと左右の主翼端付近に降着装置を備えている。
ボーイングB-52ストラトフォートレス爆撃機は胴体下面の両側に降着装置を取り付けているので、2本脚ではなくて4本脚だ。ただし主翼が細長く、地上にいるときに翼端が垂れ下がってくるのはB-47と同じだから、こちらも主翼に降着装置を追加して翼端を支えている。
ちなみに、自転車式だと離着陸時の操縦が難しい。特に着陸の際は、前後の脚を同時に設置させないと、機体が波打って跳ねるような動き、いわゆるポーポイジング(ポーパジング)を起こしてしまう。U-2の初飛行でこれが発生して、なかなか着陸させられなくてひと騒動だったそうだ。
離陸については、最初から頭上げの姿勢にする、あるいは主翼に迎角をつけて取り付けるといった手により、機首上げをしなくても浮き上がるように工夫している。U-2やB-47は地上姿勢が頭上げになっているし、B-52は主翼に迎角が付いている。だからB-52が離陸する際は、機首をあまり持ち上げず、水平姿勢のまま高度を上げていく。
主脚は主翼の近隣に取り付く
自動車だと、前後の車輪の間隔(軸距、ホイールベース)の長短が操縦安定性に影響するらしい。飛行機でも、前後の降着装置の間隔が短いと、駐機している時に不安定そうに見える。ことにF-16ファイティングファルコンは、そんな印象が強い。
だから前後の間隔は長ければ長いほどいい……とはならない。実際には、首脚は文字通りに機首下面に、主脚は主翼の辺りに取り付ける。機体重量の大半を支えるのが主脚だから、重心位置に近いところに配置する必要があり、結果としてこういうことになる。
それに、あまり後ろのほうに主脚が付いていると、離陸時の機首上げ操作が難しくなる。水平尾翼の昇降舵を作動させて尾部を下げても、そこに降着装置があれば邪魔になるからだ。
では、尾輪式の機体はどうかというと、離陸する時は、滑走して速度がついてくると尾部が持ち上がって機体が水平になる。そこで、十分に速度がついたら操縦桿を引いて機体を浮揚させる。だから、機首にエンジンとプロペラが付いている機体では、尾部を持ち上げすぎるとプロペラが地面をたたいてしまう。