ゼネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)社は2018年7月、社有機のMQ-9Bスカイガーディアンを、アメリカ中北部のノースダコタ州グランドフォークスから、イギリスまで自力飛行で送り込んだ。足の長い機体だから、かなり遠方まで自力展開できるが、必ずそうするとは限らない。

無人機を遠方に展開させる

いろいろな名称の機体が出てきてややこしいが、MQ-9Bスカイガーディアンも、壱岐空港にやってきたガーディアンや米空軍のMQ-9リーパーと同様に、プレデターBの一族に属する無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)である。搭載するセンサー機器などに違いがあるため、名前も変えたようだ。

それはともかく、本題は、機体を本拠地以外のところで飛ばす場合にどうやって移動するかだ。空中給油が可能な有人機であれば、大抵の場合、自力で飛んで行ってしまう。しかし、空中給油ができないと話は違う。例えば、航空自衛隊のブルーインパルスが1997年にアメリカで飛んだ時は、T-4練習機を船便で運んだ。

では、UAVはどうか。機体が有する航続距離の範囲内で、かつ、UAVが自力飛行できる空域であれば、やはり自力で目的地まで飛んで行くのが簡単である。例えば米空軍では、グアム島のアンダーセン基地に配備しているRQ-4グローバルホークを、自力で日本の横田基地や三沢基地に飛ばしてきている。

ただし有人機と違い、UAVは遠隔操縦やセンサー機器の操作を担当する地上管制ステーション(GCS : Ground Control Station)が別にあるから、それは整備員、支援機材、整備機材などと一緒に、別便で現地に輸送する必要がある。

では、何らかの事情があって自力展開ができない場合はどうするか。例えば、航続距離が足りないとか、空域の制約があるとかいった場面が考えられる。グローバルホークみたいな大型の機体でも、そういう制約に遭遇する可能性はあるし、もっと小型の機体ならなおさらだ。

そこで、分解してコンテナに格納できる構造になっているUAVは少なくない。プレデターBの一族がそうだし、9年ほど前にボーイングが日本で報道関係者向けにお披露目したスキャンイーグルもそうだ。

ガーディアンを日本に搬入した時は?

分解といっても、完全にバラバラにしてしまうわけではない。場所をとる主翼と尾翼、それとプロペラを取り外して、降着装置を畳んでしまえば、残るのは細長い胴体だけになる。その胴体と、取り外した主翼や尾翼やプロペラをまとめて、専用のコンテナに収容して蓋を閉める。これで、トラックや飛行機による輸送が可能になる。

米空軍が中東の戦域で使用していたMQ-1プレデター、あるいは現用中のMQ-9リーパーは、この方法で本国から戦域まで運んでいる。英空軍もMQ-9リーパーを使っているが、それをアフガニスタンに運び込んだときには、やはり分解してコンテナに入れて現地に空輸したそうだ。

  • 分解してコンテナに収められたMQ-9リーパー。ベースが同じプレデターBだから、ガーディアンも似たような形になると思われる Photo : USAF

GCSは最初から移動を想定してトレーラー型になっており、車輪がついている。自力走行するためのエンジンやドライブトレインは付いていないので、牽引車は用意しなければならないが、ただの箱よりは移動しやすい。ただし、かなり重たいらしい。

実際、ガーディアンを壱岐空港に持ち込んだ時は、まず分解した機体を入れたコンテナ、GCSや衛星通信アンテナ、そしてGCS用の発電機といった一切合切を、北九州空港までアントノフAn-124輸送機で空輸してきた。そこから壱岐までは船で運んできたそうだが、フェリーターミナルがある港と壱岐空港は少し離れている。だから、船便の前後では道路上を移動することになったはずだ。

分解といっても簡単ではない

ただ、「主翼と尾翼を取り外す」といっても、口でいうほど簡単な仕事ではない。というのは、主翼にしろ尾翼にしろ可動式の操縦翼面が付いているからだ。それを動かすためのアクチュエータを、主翼や尾翼、あるいは胴体のうち、どちらに組み込むか。

軽飛行機みたいな小型の有人機なら人力操舵だから、操縦桿やラダーペダルと操縦翼面を索やロッドで接続すれば済む。しかしUAVは人が乗っていないのだから、人力操舵もできない。機上コンピュータからの指令によって動くアクチュエータは不可欠となる。

アクチュエータを主翼や尾翼に組み込む場合、そのための動力源を供給する手段と、指令を送るための電気配線が必要になる。電動式アクチュエータなら電線で用が足りるが、油圧式アクチュエータだと面倒だ。エンジンにつないだ油圧ポンプとアクチュエータを結ぶ、油圧の配管も必要になってしまう。すると重くなるし、油漏れを防ぐための対策も必要になる。当然、整備に要する手間も増える。

それではペナルティが大きいので、電動式にする方が扱いやすい。そこで調べ回ってみたところ、プレデターBの一族ではウッドワード社製の電動式アクチュエータを使用しているようだ。これは作動用のモーター、位置を知るためのセンシング装置、制御用の電子機器などで構成する。

参考 : http://www.woodward.com/AirframeUtilityControl.aspx

では、アクチュエータを胴体内に組み込んで、そこから主翼や尾翼の操縦翼面を動かす方法はどうか。これをやろうとすると、単に主翼や尾翼を胴体に取り付けて固定するだけでなく、操縦翼面を動かすための索、あるいはロッドを接続する仕掛けが必要になる。

しかも、単につなげばよいというものではない。精確な操縦ができなければならないので、緩んだり、ずれが生じたりすることがないようにする必要がある。おまけに、容易に切り離しや再結合ができるようにしなければ、主翼や尾翼の脱着が面倒になる。

そんな混みいったメカを作るぐらいなら、翼内に小型の電動式アクチュエータを組み込んで電線をつなぐほうが合理的であろう。実際、ガーディアンの現物を見てみると、主翼の下面やV尾翼の側面に、アクチュエータを収容していると思われる張り出しが見受けられる。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。