前回は、ゼネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)社の無人機(UAV)、ガーディアンの概要について取り上げた。今回は、機体の運用にまつわる部分として、規制や規定への対応について紹介してみたい。

離着陸は人の手でやること!

近年、自動車の業界では自動運転を巡る話題がいろいろ出ている。実のところ、加減速だけでなく左右の旋回、車線変更、追い越しなど、多種多様なタスクが発生する自動車の運転は、最も自動化が難しい部類ではないだろうか。しかも、周囲の人やクルマの動きは読みづらい。

鉄道の場合、すでに信号保安システムが整備されているし、進路の設定(分岐器の切り替え)は地上側の仕事。運転操作は加速と減速だけだから、比較的、自動化しやすい部類といえる。現に、各種の新交通システムみたいに無人運転している事例はあり、それを見て不安がる人もいない。

では、空の上ではどうか。本連載の第108回で取り上げたように、オートパイロットは日常的に使われているし、慣性航法システム (INS : Inertial Navigation System)やGPS(Global Positioning System)を使えば自己位置の把握にも問題はない。

飛行中の、他機との衝突回避を実現する技術もあり、これはいずれ取り上げることにしている。そして、着陸進入についても光学機器やレーダー、電波誘導を活用することで自動化を実現できてきている。

したがって、無人機が自律的に離着陸と巡航をこなすこともできそうではある。しかし、技術的にできるということと、それを実際に行えるということは別の問題である。

GA-ASI社によると、現在、日本では無人機の自動離着陸は認められていないのだという。これは技術的な問題ではなくて、法規制の問題である。そこでガーディアンが壱岐空港で飛行試験を実施した際には、離着陸は地上管制ステーション(GCS : Ground Control Station)に詰めたパイロットが手作業で実施した。

ガーディアンの機首には、可視光線用のTVカメラと赤外線カメラが組み込まれていて、そのライブ映像をGCSの画面に表示するようになっている。パイロットはそれを見ながら、GCSに設置してある操縦桿、スロットルレバー、ラダーペダルを使って機体を操る。その操縦指令は、無線で機体に送られてエンジンや舵面の操作に反映される。

  • ガーディアンの機首には2個のカメラ窓が付いていて、ここのカメラで撮影した映像をGCSで見られるようになっている

これはガーディアンに限った話ではなくて、米空軍で使用しているRQ-4グローバルホークも同じ。こちらもやはり、機首に取り付けてあるカメラの映像を見ながら遠隔操縦できる。

ガーディアンの仕様上は、自動離着陸が可能である。面白いことに、地上の参照点を把握してから着陸進入にかかり、参照点を参考にしてコース取りをするので、地上側に誘導電波発信機みたいな仕掛けはいらないそうだ。

実のところ、手作業で遠隔操縦するよりも自動操縦で離着陸するほうが事故が少ないのではないか、という指摘が米軍部内でなされたことがあるぐらいで、自動装置はちゃんと使えるのである。しかし、規制・監督を行う側がそれを信頼してくれないと、実際に使うことはできない。これは実績を積み重ねながら納得してもらうしかないだろう。

電波に関する規制

遠隔操縦というと、情報や指令の伝送に使われる無線通信の話は避けて通れない。この無線通信の信頼性が、無人機の信頼性に関わってくるといっても過言ではない。

例えば、機首に設けたカメラのライブ映像を見ながら操縦するとなると、そのライブ映像が途絶したら大問題である。ガーディアンやグローバルホークのように、水平線以遠まで進出できる機体では、離陸した後は衛星通信に切り替える仕組みになっているが、その衛星通信が頼りにならないと困ってしまう。

ところが、見通し線圏内の無線通信にしろ見通し線圏外の無線通信にしろ、使用する電波の割り当てや規制は国によって異なる。ある国で使えた周波数帯が、別の国に行くと使えない、ということは実際に起きている。

(余談だが、アメリカでは周波数割り当て変更のトバッチリでB-2A爆撃機のレーダーが使えなくなり、改造する羽目になったことがある)

壱岐空港に持ち込まれたガーディアンはGA-ASI社の社有機で、もともとアメリカで飛ばしていたもの。だから機体登録記号もアメリカ式のNナンバー(N○○という番号なので、こういう)がついている。使用している通信機材も、アメリカで使用しているものと同じだ。

それをそのまま日本に持ち込んで使えるのか、という話になったが、1カ月足らずの飛行試験のために機材を載せ替えるのも現実的ではない。そこで今回の飛行試験では、現場となる九州周辺に限定して「そのまま使ってよろしい」ということになったそうだ。

つまり、飛行機を飛ばすのだから国土交通省の航空局が関わるのは当然だが、それだけでなく電波行政を所管する総務省との折衝も必要になったのである。

  • 壱岐空港に据え付けられた、見通し線圏内通信用のCバンド・アンテナ

面倒な話だと思うかもしれない。「こんな規制があるから日本では新しい産業が育たなくて云々」と文句をいう人が出るかもしれない。しかし、電波は限りある公共の資源だし、好き勝手に使えば混乱やトラブルを引き起こす原因にもなる。

これは、当局と時間をかけて折衝したGA-ASI社も、条件付きで使用を承認した当局も、両方とも「よくやってくれた」と評価されるべきだろう。制限や条件が付いていても、まず実際にやってみて、実績を積み重ねなければ話は先に進まない。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。