2015年にスタートし、日本最大級のeスポーツ大会へと成長した「RAGE」。その舞台は、運営企業やスポンサー、選手など、さまざまな人々によって支えられている。

インタビュー連載企画「零人伝」では、RAGEを創る偉人たち“零人”にフォーカス。第1回では、運営会社であるCyberZの大友真吾氏に、総合プロデューサーとしての考えを聞いた。

国内最大級eスポーツイベント「RAGE」が生まれた瞬間

かつて、日本ではマイナーなカルチャーであった「eスポーツ」が、徐々に巨大化する様子を肌で感じている人も少なくないだろう。世界中のプレイヤーが集う国際大会が開催され、名だたる大企業が続々と参入。動画プラットフォームが激戦を配信し、幅広いファンが熱狂している。

活気づくeスポーツ大会のなかでも、国内最大規模の「RAGE」は、計20を超えるゲームタイトルのイベントを実施してきたeスポーツの総合イベントブランドだ。CyberZが2015年に立ち上げ、現在はエイベックス・エンタテインメント、テレビ朝日を含む3社が協業で運営している。RAGEが目指しているのは、日本を代表するeスポーツ大会のブランドだと、総合プロデューサーの大友氏は語る。

「サッカーのリーガ・エスパニョーラや格闘技のUFCのように、RAGEを国際的に注目される大会にすることが、私の仕事です。エイベックスさん、テレビ朝日さんとも、その思いを共有しています」

  • RAGE 零人伝

    CyberZ 取締役 / CSO eスポーツ事業統括 RAGE総合プロデューサーの大友真吾氏

数あるeスポーツ大会のなかでも、RAGEが飛躍した理由の1つは、豊富なタイトルだろう。eスポーツの大会は、ゲームのタイトルごとに企画されるのが主流だ。しかし、RAGEはそうではない。複数の競技を横断したオリンピックのような構造が、あらゆるタイトルのファンを集め、大会規模を大きくする。

そうして少しずつ成長していったRAGEだが、そもそも、サイバーエージェントグループの子会社で、当時広告代理店事業が主であったCyberZが、RAGEを立ち上げた理由はどこにあるのだろう。

OPENREC.tv(オープンレック)という動画配信プラットフォームで、新たな視聴者の獲得を目指していた2015年ごろ、eスポーツの大会を配信しようという構想が生まれました。しかし、eスポーツ配信の後発だった私たちは、なかなか放送権を獲得できなかったんです。1つの大会を複数のプラットフォームで同時配信するサイマル放送に加えていただくことはありましたが、なかなか視聴者は集まらない。立ち上げ間もないOPENRECに興行主が集まらないのは当然だと思いました」

しかし大友氏は諦めなかった。eスポーツの可能性を感じ、拡大した未来の市場でトップに立つため、早期から参入することを決意。そこで目を向けたのが、大会そのものを開催することだった。RAGE誕生の瞬間である。

「やるからには中途半端でなく、『とんでもない大会が現れた』と思われるようにしたかったので、初回から億単位の予算をつぎこみました。特に意識したのが、ほかの大会との差別化です。規模だけでなく演出も徹底的にこだわりました。プレイヤーの臨場感を伝える抽選会や、豪華なMCの起用、人気ヒップホップアーティストが手掛けた主題歌など、当時斬新だったスタイルで、初回から注目を集めることができたと思います」

なかでも特徴的だったのは、登場シーンで見られる派手な演出だ。選手たちが闘志むき出しで煽り合うその姿は、あたかも格闘技イベントのよう。明確な世界観を第1回から抱いていた大友氏は、現場でスタッフに細かな部分まで指示を出していた。

「子どものころにテレビで見た、K-1やPRIDEの印象が残っていたのだと思います。個々の競技に興味がなくても、『この大会で勝ったら世界一強いんだ』『あのスター選手同士が因縁の対決をするんだ』といった格闘技イベントのワクワク感を、一連の演出に持ち込みました。当然、eスポーツにはそうした文化がなかったので、選手に無理やり頼み込んだのですが(笑)」

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    「RAGE vol.1 ~Vainglory Japan Cup」の様子

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    初回にもかかわらず、会場には多くの観客が駆けつけた

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    ワクワク感を演出する選手の登場シーン

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    華やかな舞台で戦う選手たち

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    コスプレイヤーもイベントを彩った

強力なパートナーとタッグを組んだ転換期

こうして走り出したRAGEは、着々と集客を伸ばしてきた。結果的に失敗ではなかったものの、巨額の投資に不安はなかったのだろうか。

「立ち上げ当初、収益化は度外視していました。追求したのは視聴者数と来場者数。絶対に毎回記録を塗り替えるようにして、日本一のイベントを目指してきたんです。転換期となったのは、エイベックスさんと提携した2017年。お互いに出資する協業モデルがスタートし、チャレンジできる領域が一気に広がりました。この年に、日本eスポーツ業界では記録的な、来場者3万人超えを実現しています」

エイベックスとの提携は、大友氏がプロデュースに専念するリソースを生み出す。さらに、その相乗効果は次なる成長にもつながり、RAGEのクオリティも向上させた。

「演出をエイベックスさんに一任したら、私の想像を超えるプランを提案していただきました。クオリティの高さはもちろん、私の思いもしっかりと踏まえてくれるところに、パートナーとしての魅力を感じます。CyberZは広告代理店なので、自社興業でイベントを開催するという点は弱かった。興業・制作のノウハウを長年培ってきたエイベックスさんから学べることは、多かったです」

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    エイベックスと提携後、初めて行われたRAGE

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    オープニングアウトでは、バンド演奏も

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    会場にはスティックバルーンを叩く観客の姿が

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    コスプレイヤーの撮影コーナーも用意

さらに2019年には、テレビ朝日の参画が決定。現在の体制が確立した。

「エイベックスさんと組んで1年ほど経ったころから、地上波がeスポーツを取り上げることが増えたんです。eスポーツ文化をより普及させるためにも、テレビ局と組むことは必須だと考えていました。そんななかで、サイバーエージェントグループとも関係が深く、スポーツ分野に強いテレビ朝日さんと意気投合したんです」

  • 零人伝 RAGE

eスポーツに必要なのは、スタープレイヤーの存在

そして現在、RAGEは平均で1万人を集められるようなイベントに成長した。3社はどのような理念を共有しているのだろう。

「技術やチームワークといったスポーツ的な要素だけではなく、エンターテインメントとしての要素も重視しています。世界チャンピオンと日本チャンピオンによる夢の対決など、単なる試合という枠組みを超えることを今後やっていきたいですね。こうしたイメージを、私たちは『新しいスポーツエンターテインメント』という言葉で共有しています」

3社が協業することで勢いを増したRAGE。ここまで大きなeスポーツイベントブランドはほかに見ない。5年前の立ち上げ当初、大友氏は現在のRAGEの成功を予測していたのだろうか。

「実は、もっと成長している姿を想像していました(笑)。日本のeスポーツ産業が堅調に伸びているのは確かですが、海外では4000万人以上が最大同時視聴する大会も生まれており、多くのリアルスポーツの市場規模を凌駕しています。5000万人以上のゲーム人口がいる日本のポテンシャルは高いはずなのですが、視聴者数は10〜20万人で御の字。実際は、最大同時視聴者数5000〜3万人程度の大会がほとんどです。何か1つ、大きな変化がなければ、産業は発展しないでしょう」

RAGEを国際的に注目される大会にする目的がある以上、大友氏の心が満たされる日は遠いのだろう。しかし、「大きな変化」とは、何を指すのか。大友氏はすでに想定していた。

「スター選手の誕生です。フォギュアスケートや将棋が流行ったのは、圧倒的なスタープレイヤーが生まれたから。お笑いブームの加速も、登竜門的なイベントとしてのM-1グランプリができて、その先にスター街道が広がったことで一気に盛り上がりました。ですので、eスポーツが次にチャレンジすべきことは、スターの育成。そのためのエコシステムをこれから作り出そうと思っています」

  • RAGE 零人伝

    RAGEが次にチャレンジするのは、スターの育成

RAGEという自社の事業だけでなく、業界全体の成長も重視している点が、“大友マインド”だと言えよう。プロデューサーとして、eスポーツをどのように変えていくのだろうか。

「現在のeスポーツは、放映権やスポンサー収入といった、いわゆるB to Bのマネタイズで成り立っています。しかし今後は、グッズやチケットなど、B to Cの収入も視野に入れ、強化していかなければ、発展は頭打ちになるでしょう。つまるところ、eスポーツを大きな産業へと発展させるために必要なのは、資金が興行主に入り、さらに選手やチーム、IPホルダーにも循環すること。大会の品質や規模をグレードアップさせ、視聴者に良質なコンテンツを提供し続けるためにも、新たなマネタイズエンジンを生み出すことが不可欠なんです」

  • 零人伝 RAGE

オフラインの魅力を最大化させることが、ウィズコロナ時代のeスポーツ

発展の途中にあるRAGEにとって、2021年はどのような年になるのか。コロナが収束しない現状で、先行きの見えない不安が大きいのかと思いきや、大友氏は前向きな意見を語ってくれた。

「コロナ禍で多くの大会がオンライン化を余儀なくされましたが、オンラインの魅力に気付くことができたのが2020年でした。しかし同時に、オフラインの“盛り上がり”や “うねり”は、オンラインで代替できないことも分かったんです。結局どちらも大事なんですが、今eスポーツに必要なのは、年に1〜2回の風物詩となるような、日本国民全員が知っているイベント。エイベックスさんと大きな会場を借りて、テレビ朝日さんがゴールデンタイムで中継をする。そんな青写真を目指しながら、2021年も邁進するのみです」

最後に、挑戦をつづける大友氏の原動力を聞くと、意外な答えが返ってきた。

「もともとゲームが大好きだったわけではないんですよね。学生時代はバスケットボールに熱中していたんですが、当時はBリーグのようなプロリーグはありませんでした。だから、畑は違えど、プロシーンを創る意義はすごく感じていましたし、今はどっぷり浸かっています」