2023年4月19日に発売されたPS5用アクションRPG『Horizon Forbidden West』の「焦熱の海辺」は、ゲーム本編クリア後の物語を描く有料追加コンテンツ。主人公のアーロイは、協力者(味方ではない)のサイレンスから呼び出され、本編で敵対していた組織「ファー・ゼニス」の生き残りを追いかけるべく、危険な火山性諸島となったロサンゼルスへ向かう。
ゲームのシステムや魅力については、『Horizon Forbidden West』本編のレビュー記事【『Horizon Forbidden West』の超豪華版「レガーラエディション」を開封&プレイ】に詳しいので、本稿では、DLCで追加された要素を中心に紹介する。
新登場の「バイルガット」は機械なのに卵を産む
「焦熱の海辺」の主な新要素として、新たな機械獣や武器、エリアマップが追加されるほか、本編では登場しなかったキャラクターが登場し、DLC独自のストーリーが展開される。
機械獣とは、「ホライゾン」の世界に生息している存在で、それぞれ、シカやカンガルー、ワニなどの姿をしており、動きもさまざま。「フォーカス」という文明の遺物を使うと、近くにいる機械獣の弱点や移動ルートといった情報が表示されるので、それをもとに、武器や罠を切り替えて狩りをするのが、このゲームの醍醐味でもある。
「焦熱の海辺」では、本編で見かけなかった機械獣として、「ウォーターウイング」と呼ばれる鳥型の機械獣が登場する。地上ルートをのそのそと歩いている機械獣と違って、空を飛ぶタイプが相手だと、見つからずに近づくのが難しく、個人的にかなり苦手。「ホライゾン」シリーズのプレイ自体が久しぶりだったこともあり、かなり苦戦した。
カエルのような姿の「バイルガット」も手ごわい。遠くから大ジャンプで飛んできたり、酸を放出したりと、ダイナミックな攻撃を仕掛けてくるだけでなく、機械なのに卵を産んで、そこから生まれる小型の機械獣「スティングスポーン」とともに襲いかかってくる。
単体では、たいして強くない「スティングスポーン」だが、「バイルガット」と一戦交えているときにうろちょろされると、かなりやっかい。しかも、「バイルガット」の部位「エッグランチャー」を破壊しない限り、戦闘中にもドシドシ卵を生産してくるし、最初からフィールド上に植え付けられている卵も多く、袋叩きに遭うことが何度もあった。
そんな新たな機械獣との白熱したバトルを楽しめるのが「焦熱の海辺」の魅力の1つ。ロサンゼルスでは、本編で登場した機械獣の「強化型」もわんさか生息しているので、緊張感あるプレイを味わえるだろう。
また、機械獣だけでなく、新しい武器も追加されている。「焦熱の海辺」の拠点とも言える「船団の果て」では、「レジェンダリー」ランクの武器が買えるほか、ストーリーを進めると、敵対組織の技術で作られたハイテク武器「スペクターガントレット」が手に入る。
「スペクターガントレット」は、敵にマーカーを当てると、細かいエイム(照準操作)なしで自動追尾してくれる便利な武器。スピーディな機械獣相手でも、ガシガシ弾を当てられて爽快だ。
意外と広い! ロサンゼルスの探索はリハビリにもピッタリ
「焦熱の海辺」の舞台であるロサンゼルスは、いくつもの島が点在する追加マップ。『Horizon Forbidden West』本編ほどではないが、意外と広く、探索しがいのあるマップが用意されている。
特徴的なのは、海の面積が大きいこと。序盤から船に乗ってさまざまな島へ行けるだけでなく、海に潜れば、神秘的な水の世界が広がる。火山地帯だからか、南の島のような雰囲気もあり、ちょっとしたバカンス気分を味わえるだろう。
久しぶりのプレイだったこともあり、物語を進める前にいくつかの島を探検してみた。最初は、機械獣の倒し方から壁を破壊するプルキャスターの使い方、武器の変更方法まで、すべて忘れていて、思い出すのにひと苦労。いくつかの島に足を運んでみて、機械獣にボコボコにされながら少しずつ操作感を取り戻していった。序盤の探索は、リハビリにもちょうどいい。
さらに、物語を進めると、先述した新しい鳥型の機械獣「ウォーターウイング」にオーバーライドして搭乗できるようになる。「ウォーターウイング」は空を飛べるだけでなく、水中に潜ることも可能。高速で移動しながら、飛んだり潜ったりを繰り返すシーンは、かなりスリリングでおもしろかった。
メインストーリーだけを進めていると寄らないエリアも多いので、旅の合間にあちこち行ってみるのもいいだろう。本編と同様に、かつての文明が残した建造物や、それを長い年月かけて飲み込んでいった大自然が、圧倒的なグラフィックで描写されている。昼と夜で表情を変えるロサンゼルスの景色を眺めるのも楽しいものだ。思いもよらない場所で、サブクエストが始まることもあった。
なお、ロサンゼルスにも「機械炉」があり、クリアすると「バイルガット」をオーバーライドできるようになる。「闘技場」も用意されているので、新たな武器を手に、挑戦してみてもいいだろう。
メインクエストを最後までプレイして感じたこと
新しい機械獣との戦いや、追加ストーリー、広大なロサンゼルスのマップなど、「焦熱の海辺」には「ホライゾン」シリーズの拡張コンテンツとして満足できる内容が収録されている。だが、1つだけ、未プレイの人へ注意点を伝えるならば、最後の演出だろう。
「焦熱の海辺」では、ロサンゼルスで出会った海洋民族のクエン族の海兵隊員「セイカ」とともに旅を進める。冗談を言い合ったり、憎まれ口をたたいたりと、頼れるパートナーが同行することで、アーロイも心なしか楽しそうに見えた。船団で問題児のように扱われていたセイカに、異端者として育った自分を重ねて、シンパシーを感じたのかもしれない。そして、エンディングで迫られる3択。アーロイがどう答えるかによって、演出が変化する。
個人的に、わりとゲームはなんでも楽しんでプレイできるタイプなのだが、今回の演出では「あ、選択肢間違えたな……」とややガッカリ。ネタバレになるので詳しくは説明しないが、SNSでも話題になったので、気になる人は事前に調べてみてほしい。「吊り橋効果」ではないが、短いながらも命を懸けた激闘をともにすることで生まれる感情として、ないこともないのかもしれない……と、飲み込むことにした。
映画、ドラマ、マンガ、アニメ、小説などと同様に、ゲームにも作り手がいる。作品にメッセージを込めることは珍しくない。たとえば、人種、戦争、LGBT、SDGsなど、一貫したテーマを立ててストーリーが描かれているのであれば、それらの要素がいかに入っていようが、違和感を覚えることはないだろう。むしろ、マイノリティに目を向けるきっかけや、社会問題を考えるいい機会にすらなる。
もしくは、物語の序盤から見え隠れする設定であれば、納得いく演出に見えるのかもしれない。だが、「焦熱の海辺」は「ホライゾン」シリーズ2作品目の追加コンテンツ。これまで描かれてこなかった部分が、意外な形で明らかになったことに戸惑うユーザーもいたはずだ。
たしかに、思い返せば本編でアーロイは、サン王アヴァードから向けられた好意に対して困惑している様子を見せていた。なので、もしかすると最初から設定上あったのかもしれないが、個人的には“後出し感”が否めなかった。
社会情勢を作品に反映させることが創作の常套手段とはいえ、時代に迎合しすぎたがゆえに、特定の要素を無理やりねじ込んで、“異物感”のあるストーリーや演出になるのは、いちユーザーとして残念に思う。
とはいえ、新しい武器を手に、新しいマップで新しい機械獣と戦うのはそれだけでもおもしろいし、『Horizon Forbidden West』のエクストラエピソードとして楽しめることは間違いない。価格も2,200円とお手ごろだ。たとえば「PS5を購入したばかりで、本編をPS4で体験して以来プレイしていない」という人は、PS5でロサンゼルスの火山地帯へ冒険に出てみるのもいいだろう。