テーマは、クルマの魅力と文化を新しい世代に伝えること――。
PlayStation 5(PS5)/ PlayStation 4(PS4)用ソフトウェア『グランツーリスモ7(GT7)』のメディアイベントにて、シリーズのプロデューサーである山内一典氏はそう話す。
前提となる知識がなくても、クルマの魅力に目覚めて、コントロールする喜び、所有する喜び、チューニングする喜びを知ってもらうことが、カーシミュレーションゲーム『GT7』の目標なのだと。
正直なところ、自分には同作のレビューができないと考えていた。なぜならば、ペラッペラのペーパードライバーであり、クルマ文化のリテラシーはゼロ。車種の知識もまったくないし、最後にハンドルを握ったのは10年以上も前だ。
だが、テーマが「クルマの魅力と文化を新しい世代に伝えること」であるならば、むしろ初めて「グランツーリスモ」シリーズに触れた感想を素直に伝えることで、筆者のようにクルマ文化に疎くてカーシミュレーションを敬遠していた人に興味を持ってもらえるかもしれない。そう思い、コントローラーを握る決意をした。
そのため、本記事がクルママニア向けの深掘りレビューではないことを最初に断っておきたい。筆者は『GT7』をインストールしている時点において、「FF」と「FR」の違いすら理解していないのだから。
最初に音楽を聴きながらドライブできる新モード「ミュージックラリー」をプレイ
ゲームを起動し、初期設定を終えると、『GT7』から搭載された新モード「MusicRally(ミュージックラリー)」のプレイを促される。説明には、「音楽を聴きながら爽快なドライブを楽しむミニゲーム」と書かれていたので、操作方法を覚えるためのチュートリアルかと思ってスタートしたのだが、思いのほか難しい。
レースがスタートすると、画面に表示される「ビート数」がリズムに合わせて減っていき、これがゼロになるとゲームオーバー。コース上に設置されているエクステンドゲートをくぐればビート数が加算されるので、ビートがなくなる前にゲートを越え、最後まで音楽を聴ければ、無事クリアだ。
熟練のグランツーリスモドライバーなら、難なくクリアできるのかもしれないが、筆者の場合、何度トライしても演奏途中でビート数がゼロになってしまった。しかもカウントが20を下回ると、画面がモノクロに近づいていき、“ピンチ感”を演出する。
カウント3くらいでエクステンドゲートをくぐったときは、コントローラーを握る手が汗ばむほどの緊張感。そしてギリギリでゲートを通過したということは、当然、次の区間もビートの余裕がない状態が続く。すぐにまたカウントが減ってきて、心のなかで「ヤバい」と思いながら、必死にアクセルを踏み込む。そんな状況が繰り返されるのだ。
10回目のトライでようやく曲を最後まで聴くことができたが、あまり爽快なドライブとは言えない体験になってしまった気がする。いつか優雅なミュージックラリーを楽しめるよう、ドライビングスキルを高めることが、目標の1つに設定された瞬間だった。
ちなみに、ミュージックラリーには、直前のドライブを楽曲とともに振り返る「ミュージックリプレイ」機能を搭載。実際に聴けた曲の長さに合わせてリプレイが再生される。途中で失敗してしまったときは、プレイ中の画面と同じくリプレイ映像も徐々にモノクロになって終了。エクステンドゲートをくぐると拍手が起きるのだが、その音まで再現されていた。
楽曲を最後まで聴けたあとのミュージックリプレイは爽快だ。途中、おかしなコース取りをしている自分のリプレイが映し出されるのはご愛敬。はたして、カッコよくドリフトを決めるリプレイを見られる日がくるのだろうか。
ミッションを提示してくれる「カフェ」で、『GT7』とクルマ文化を学ぶ
ミュージックラリーの洗礼を受けたあとは、いざ本編の「ワールドマップ」へ。表示された選択肢で「グランツーリスモ」シリーズをプレイしたことがないと伝えると、案内役のサラさんが丁寧にガイドしてくれる。言われるがままに中古車ショップへ行き、「フィット Hybrid '14」を購入。初めて手に入れたマイカーはなんだか特別に思えるから不思議だ。名前でもつけたくなってくる。
そのまま「ワールドマップ」から「カフェ」へクルマを走らせると、挨拶もそこそこに、オーナーのルカが「メニューブック」を提示してきた。
メニューブックは、ルカからの課題がお品書きのように記されたもの。課題をクリアすると次のメニューブックが提示されるので、ゲーム的に言えば「メインクエスト」のようなイメージだ。
最初に提示されたメニューブックは、指定された3台のクルマを手に入れる「日本のコンパクト」というミッションだった。クルマの入手方法は、中古車ショップや新車ショップの「ブランドセントラル」などで購入する以外に、「ワールドサーキット」で開催されるレースで一定の順位以内に入賞すると副賞としてプレゼントされるケースがある。特定のレースで3位以内に入賞し、レースの経験を積みつつ、指定されたクルマを集めるのがメインになるだろう。
そこで、まずは「ノーザンアイル・スピードウェイ」に出場した。最初だし、操作に慣れるための簡単にクリアできるレースだろうと思ったら、結果は4位。あと一歩のところで入賞を逃してしまった。シンプルなコースゆえに、少しのミスがタイムに大きく影響する印象を受ける。ほかのクルマをオーバーテイク(追い越し)するときの動きに無駄が多かったのかもしれない。というか、コーナーを曲がるときに、ぶつかるぶつかる。悪気はないのだが、ほかのクルマに何度も突進してしまった。対人レースだとかなりペナルティを受けそうな走りである。
気を取り直してもう一度プレイ。今度もバシバシほかのクルマに体当たりしてしまったが、なんとか2位入賞を果たした。まぁ、CPU相手ならいいだろう。無事、プレゼントカーゲットだぜ。
指定されたすべてのクルマを集めると、ルカがおもむろにそれぞれの車種の説明を始める。熟練プレイヤーであれば、「うん、うん、そうなんだよね」と共感するような内容なのだろう。しかし、リテラシーゼロの筆者にはすべての説明が新鮮で、自分で集めたクルマの特徴や歴史を美しい映像とともに学べるゲームデザインが、今作のテーマでもある「クルマの魅力と文化を新しい世代に伝えること」につながるのだと実感した。かなり初心者に寄り添った設計といえよう。
実際、お恥ずかしながら、前輪駆動のクルマが「FF」と呼ばれていることも知らなかったので、ここで「FF車はステアリング操作と駆動力の伝達がフロントに集中するため、コーナーをきれいに曲がるアクセル操作が難しい」など基本的な情報から説明してもらえるのは、かなりありがたい。
ほかにも、カフェでメニューブックを進めていくと、ドライビングスキルを磨く「ライセンス」や、複数のレースを走って総合順位を競う「選手権」、パーツを購入する「チューニングショップ」、クルマをカスタマイズする「GTオート」など、あらゆるモードを使った課題が提示される。
ゲームの全体像を把握しながら、『GT7』にあるさまざまな遊びかたを1つずつ理解していくメニューブックは、メインクエストであるとともに、初心者が少しずつ上達できるようデザインされた長いチュートリアルのような役割を果たしているわけだ。
また、クルマを乗り換えてカフェへ行くと、車種によっては見慣れぬ人が詳しい解説をしてくれることもある。発売当時の様子や車種の歴史など、思わず聞き入ってしまう内容ばかりで、特に筆者のようなクルマ文化に疎い人ほど、さまざまなクルマでカフェに行ってみたくなるのではないだろうか。
クルマ文化に触れ、繰り返しレースに出ているうちに、夢中でコース攻略をするように
筆者が初心者なりに手探りで『GT7』をプレイしているうちに、ある変化が起きる。最初はクルマの文化に触れながら、カフェのメニューブックをクリアしていれば満足だったが、いつからか「もっと上手に走れるようになりたい」と思うようになったのだ。
きっかけは、オンライン対戦の「スポーツ」モードでうまい人の走りを目の当たりにしたこと。『GT7』ではパフォーマンスポイント「PP」でクルマの総合的な能力を示しており、今回参加した「デイリーレース」では似たようなPPのクルマが出場しているはずなのだが、レース開始直後から圧倒的な差が開いてしまった。
最初からオンラインのレースで勝てるとは思っていなかったが、あまりにも大きな差をつけられたことで、少しずつ自分の走りを見直すようになり、「もっと早めにハンドルを切ったほうがいいかもしれない」「ブレーキタイミングを少し早めてみよう」「カーブの後半からアクセルを踏んでみてはどうか」など、試行錯誤するようになる。
レースで慣れないうちは、「オートドライブ」のブレーキをオンにしたり、「走行ライン」や「ブレーキングエリア」を表示させたり、クルマのスピンを防ぐ「スタビリティ・マネジメント」をオンにしたりできるのも初心者想いの設計だ。
筆者も序盤はオートドライブで自動的にブレーキをかける設定にしていたが、ドライビングスキルの向上を決めてからはオフに変更。それだけで、かなり操作の難易度がアップした。クルクルとスピンしまくるし、ブレーキの調節も難しい。だが、これが逆に挑戦心をくすぐる。むしろコーナーでガチャガチャと操作するほうが簡単に曲がれてしまうよりおもしろいと感じた。もちろん、一層ほかのクルマに突進するようになってしまったわけではあるが。
それからは、夢中で同じコースを繰り返しプレイ。スピードを出しすぎて壁に激突することも1回や2回ではなかった。とはいえ、減速しすぎればほかのクルマに追い抜かれてしまう。そんな失敗を何度も繰り返したあとに、スピーディかつキレイにヘアピンカーブを曲がれたときは、かなりうれしかった。これが、山内氏が話していた“コントロールする喜び”なのかもしれない。
練習にピッタリだったのが「ライセンス」モード。「発進と停止」から、「コーナリングの基礎」「ライン取り初級」「市街地攻略」など、さまざまなシーンで実践的な運転技術を学べる。何度でも挑戦可能なので、身体に操作を覚えさせるのにうってつけだった。特に、上達した実感をわかりやすく味わえるので、スキルアップを目指す初心者プレイヤーにオススメだ。
なお、ほかのプレイヤーとのオンラインプレイは「スポーツ」「マルチプレイ」「ミーティングプレイス」から楽しめる。
「スポーツ」は、「デイリーレース」や「選手権」など、オンライン上の公式レースに挑戦できるモード。レーティングシステムによって自分と同じ速さのプレイヤーとレースできるので、腕を磨いたら発売後にまたトライしてみたい。
「マルチプレイ」は、ロビーを作成してほかのプレイヤーとレースを楽しむモード。「ミーティングプレイス」は、各コースに設定されたオンラインの走行会で、フリー走行のみのルームなので、気軽に参加できそうだ。個人的には「ミーティングプレイス」で初心者が集まって練習したり、アドバイスしあえたりできるとうれしいと思った。
もちろん、初心者以外も楽しめる! 遊びかたは無限大
『GT7』では、膨大な気象データをもとに、コースのある地域特有の天候や温度、湿度などの変化が起こるようになっている。日本の空は日本らしく、カリフォルニアの空はカリフォルニアらしく変化するのだという。しかも、それらの変化が、クルマの走行に影響するのだから驚く。さらには、星や惑星の位置までシミュレーションされて描かれているそう。もはや、カーシミュレーションの域を超えている。
残念ながら、クルマのリテラシーだけでなく、星の知識にも乏しい筆者は、夜間の走行中に「あれがデネブ、アルタイル、ベガ」と指さし確認することはかなわなかったが、深夜の「デイトナ・インターナショナル・スピードウェイ」で見た夜空は美しく、コーナーをハイスピードで駆けるときは星が自分中心に回っていくような気分を味わえた。
なお、各コースにあるカスタムレースでは、「降水確率」や「天体タイムラプス速度」まで設定可能。時刻はコースによって設定可能な幅が決まっているが、深夜の走行が可能なコースでは満天の星空の下でドライブを楽しめるだろう。
また、雨の影響は初心者でもハッキリわかるほど大きい。タイヤが水しぶきをあげ、視界が遮られるだけでなく、うっかりウェットタイヤに変え忘れて雨のレースに出走したなら、コーナリングの感覚を大きく狂わせる。
PS5版では、「DualSense ワイヤレスコントローラー」のハプティックフィードバックやアダプティブトリガー、Tempest 3Dオーディオ技術が、走りの臨場感をよりリアルに演出する。
普段運転をしないので、正直、実際の振動と比較することはできないが、それでも、ハプティックフィードバックによる、急カーブを曲がるときのタイヤの摩擦や路面の凹凸を通るときの車体の揺れなど多彩な種類の振動が、高い没入感を提供することはわかった。ダートコースを走るときのドゴドゴした振動は、舗装されていない地面を両手に感じさせる。
360度から音を伝えるサウンドもリアルで、エンジン音やタイヤのスキール音だけでなく、ほかのクルマの発する音まで迫力満点。実際にその場にさまざまなオブジェクトが存在するかのように錯覚するほどだった。
そのほか、『GT7』では「チューニング」でパーツを組み替えるだけでなく、「GTオート」の「リバリーエディター」でクルマの外見やドライバーのヘルメット、レーシングスーツを自由にカスタマイズする機能も搭載。カラーリングの変更のほか、「デカール」を貼って自分だけのデザインを作る楽しみもある。こだわりはじめたら、時間がいくらあっても足りなそうだ。
さらに、自慢のクルマと世界中の2,500カ所以上のスポットで写真が撮れる「スケープス」、レースの迫力あるワンシーンを収める「レースフォト」なども収録。腕に自信があればオンラインの猛者と鎬を削ったり、さまざまなコースの「タイムトライアル」でハイスコアを目指したりするのもいいだろう。まさにプレイヤーの数だけ遊びかたが生まれる自由なカーライフシミュレーションだと言える。
知識ゼロの状態で始めた『GT7』。クルマの文化に触れながら少しずつスキルアップできるデザインは、筆者のようなペーパードライバーでも安心してカーライフにのめりこめるよう、丁寧に設計されている。むしろ、かなり初心者に寄り添った作りだと感じた。
まだまだ、「カーセッティング」の細かい項目や数字が何を表しているのかは理解できないが、主体的にスキルアップを目指すようになった意識の変化によって、筆者も“カーライフの最初の一歩”を踏み出せたのではないだろうか。
もちろん、リアルなカーシミュレーションとしての作り込みも深く、アクティブに楽しめるクルマのサンドボックスであることは変わらないので、初心者から熟練プレイヤーまで、幅広い層に受け入れられるだろう。ぜひ、思い思いのカーライフを満喫してほしい。
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